黒閃の2.5乗則に関する数式表現に際しての考察
※これは高校数学までの知識を用いて黒閃を数式的に表現してみようという試みです。そこまで専門的な解析は行いませんのでご注意を。
はじめに
漫画 ”呪術廻戦” は、主人公の虎杖が呪力と呼ばれる力を用いて敵と戦うダークファンタジーだ。
キャラにも読者にも容赦のないハードな展開で、現在放送されているテレビアニメも話題となっている本作であるが、もう一つファンの間で議論の的となっている大きな特徴がある。
それが、作中設定の難解さだ。
特に難しいのが、作中最強と目される五条先生が持つ ”無下限術式” と呼ばれる能力の設定である。
その理論については詳しい設定がなされているようであるが、煩雑なうえにそれについての解説が少々拙いこともあり、深い理解はしないまま作品を楽しもうという風潮がファンの間では浸透していた。
しかし、2021年1月に発売された14巻にて、今後その無下限術式についての更なる解説、そしておそらくは設定の修正が行われることが発表された。
なんでも出版社内の数学に詳しい方に取材を行ったとのことで、専門的な知識を生かした解説がなされることが期待される。
が、これを読んで一つの個人的な願望が生じた。
どうせなら、他の設定についても追加の解説や修正が欲しい。
特に、無下限術式の次に難しかった ”黒閃” についての解説が。
とはいえ、無下限術式についての補足があるだけでも大変ありがたいことなので、黒閃については自分で考察、並びに修正案の提示をしてみることにした。
黒閃とは
呪術廻戦の6巻で、虎杖は強敵との戦いのなかで ”黒閃” を初めて顕現させる。
黒閃とは、物理的な打撃と呪力のインパクトが0.000001秒(1 μs)以内であった場合に呪力が黒く発光する現象である。
この現象下において、呪力は ”威力は平均で通常の2.5乗” に増幅されると説明される。(これを便宜的に、”黒閃の2.5乗則” と呼ぶことにしよう。)
この法則については更に6巻p108にて、作者である芥見先生より以下のような補足がなされた。
“1の2.5乗は1になってしまうので、黒閃の元となる呪力は2より上”
正直に言って……、訳が分からない…。
とりあえず、どこがどう分からないのか整理してみよう。
第一の疑問 呪力の2って何?
6巻の補足においてもこれ以上の詳しい説明はなかったが、この疑問については実は案外簡単に解決できる。
作中において呪力には大小が存在し、外部から観測及び測定が可能な概念であることは明示されている。であるならば、単位を設定することも可能なはずだ。
ここでは仮に、Cu(カース)という単位を導入してみよう。(定義については保留する。)
これによって、黒閃2.5乗則について以下の数式を立てることが可能となる。
概ね問題がないように思える。
この黒閃前の呪力が 2 Cu(カース)以上でなければならないというが6巻の補足内容にあたるのだろう。
ではなぜそのような下限が存在してしまうのか。
第二の疑問 下限ってなんで?それより下だとどうなるの?
実は、この下限は別になくても全く支障はない。
作成した数式は、高次の無理関数と呼ばれる形態のものだ。
細かな説明は省略するとして、この数式において作中でも特に重視されている性質を2つ挙げる。
ここで、黒閃という現象を初めて発見した者の立場になって考えてみよう。黒閃を発見した者は当然、それによって呪力がどの程度増幅されるのか調べようとする。
その過程において上の2つの性質を発見し、いくつかの定数を用いて数式表現できると気づいたはずだ。
黒閃により呪力が増幅する割合は一定ではなく、呪力が大きいほどに大きくなる。
では逆に、呪力を小さくしたらどうなるだろうか?
黒閃による上昇率は、当然呪力が小さいほどに小さくなっていく。
そしてどんどんと上昇率は小さくなり、最終的にある一定値において、
黒閃する前と後で呪力は変わらないといった現象が起こる。
これよりさらに小さな呪力だと、逆に黒閃を経ると呪力が下がる。その境界に当たるのが、”黒閃してもしなくて一緒” となる呪力量ポイントだ。
呪力が強いほどに大きく増幅されるという一見利点にしか思えない設定は、実は “呪力が弱すぎると黒閃により威力が下がる” という疑似パラドックス的な現象が起こりえることを示している。
芥見先生は ”黒閃により呪力が増幅されないなんておかしい!” などと考えて、”呪力は2から” といった説明をされたのであろうが、この数式の性質からすればそれほどおかしな現象ではない。
(作中には呪力が0といったキャラも登場する。呪力に下限がある方が不自然。)
ここで再び黒閃発見者の視点に戻ろう。
高次式だと気づいた後は、数式の基準となるこの ”黒閃してもしなくても一緒ポイント” となる呪力量を見つけようとする。
お気づきだろうか?
上に示した黒閃2.5乗則の数式において、
このポイントとなる呪力量こそが1 Cu (カース) なのだ。
第三の疑問 探し出したポイントがたまたま1 Cu なんてことがあるの?
1 Cu(カース)がどの程度の呪力量なのかここまでは保留にして話を進めてきた。
この1 Cu がどんな量であるにしろ、発見した黒閃という現象の、ターニングポイントがたまたま1 Cu なんてことがあるのだろうか?
結論から言えば、あるとも言えるし、ないとも言える。
ここでは2つの仮定に分けて考えてみよう。
仮定1 呪力の単位 Cu は、黒閃という現象から定義された。
まず、呪力の単位の定義自体が、黒閃発見後にそれをもとになされたと仮定してみる。
つまり、黒閃という現象を観察すると、ある呪力量では黒閃の前後で変化がないことが分かった。この呪力量を1 Cu(カース)としよう、といった具合だ。
この仮定においては、水1 L が1 kg であることが当たり前なように、黒閃の基準量が1 Cu であることに疑問はなくなる。
ただし、これは相当に無理のある仮定だ。
作中では、黒閃は敵味方双方に広く周知されているわけではなく、一部の呪術師のみが知る現象であった。
もちろん作中にCu(カース)という単位が登場するわけではないが、単位の定義となる現象にしてはあまりにも認知度が低い。
何より、黒閃は作中においても意図的に発生させることは極めて困難な現象であり、そのようなものを単位の定義に利用するのは合理性に欠ける。
そもそも先の数式は、作中にあった ”威力は平均で通常の2.5乗” という言葉をそのまま数式にしたものだ。
これが即ち黒閃による呪力単位の定義づけという無理ある仮定を示しているならば、そもそもの数式を、ひいては作中の言葉を疑う必要がある。
仮定2 そうだ、数式を変えよう。
こちらが本命の仮定である。この場合 Cu(カース)は長い呪術界の歴史の中で黒閃発見前から定義され、使用されてきたものと仮定する。
そうなると、ターニングポイントがたまたま1 Cu(カース)なんてことはありえない。1 Cu ではないが何とか観測し見つけ出したとして、数式を以下のように修正する。
作中の言葉と一致しなくなってしまうのはご愛敬だ。
黒閃第一定数、第二定数は観測により見つけ出すことのできる定数だ。
重ねるがこの新たな数式は、”威力は平均で通常の2.5乗” という言葉と一致しない。ここでは作中の言葉を ”威力は高次関数的に増幅し、その次数は平均して2.5” の間違いであると解釈したことになる。
(指数関数的とは呼べないので注意。)
作中の言葉という前提が崩れれば、数式の形はそれこそ無限に考えられてしまうが、この数式はその中でも一番修正が少なく、上にて示した二つの "重要な性質" を崩さないよう考えたものだ。(他にも条件はあるが、割愛。)
少なくとも仮定1に比べれば自然であるように思う。
まとめ
作中の ”威力は平均で通常の2.5乗” という言葉を参照して考察を進めてきた。
まず、この言葉をそのまま捉えたのが以下の数式。
不自然であるので、作中の言葉を少し修正して作ったものが次の数式。
はたしてどちらの数式がふさわしいだろうか?
最後に
”威力は高次関数的に増幅し、その次数は平均して2.5”
修正した設定は指数関数的とも、二次関数的とも、単なる2.5乗とも言えない。
そのためかなんとも長ったらしく、漫画的には全く面白くない説明文に仕上がってしまった。
芥見先生がなぜ ”平均して2.5” という数字を設定したのかは明らかになっていない。
なっていないが、その数字に意味があるかのような描写は14巻時点ではまだされていない。
ならば、そこを修正するわけにはいかないだろうか?
具体的には ”きっちり2乗” としていただければ、”威力は二次関数的に増幅する” というシンプルな説明にまとめることができる。
その場合数式は以下のようなものになる。
作中設定的にも自然で、説明文も長くない。
もし2.5という数字に深い意味がなければ、この案が最も適しているように思う。
もうすぐ黒閃もアニメ放送されるというこのタイミングで、まさかこの案が公式に採用されるなどということはみじんも考えていない。
考えていないが、ひょっとしたらこの記事が関係者まで届くかもしれないという期待はどうしても捨てされない。
そんな淡い期待の成就と、14巻にて命を散らした私の推しキャラの冥福を祈って、この記事を締めさせていただく。黙祷。
(見出し画像は呪術廻戦6巻p104より引用)