アルバイト会計士 第一話:肉まんと棚卸資産評価損引当金
「僕の名前は甲斐 圭史。将来、会計士になるものだ!」
そう自分に言い聞かせながら、コンビニのバイト初日を迎えた。父は大手会計事務所のパートナーで、いつも「高校生になったらバイトをして、ビジネスと会計を学べ」と言っていた。正直、何のことかさっぱり分からなかったけど、このバイトを会計士人生の第一歩にするつもりだ。
このコンビニには、一人のおじさんが働いている。彼は天然パーマに無精髭で、どこかこぎたない。そして、実はちょっと匂う、、、。正直に言うと、私はこのおじさんが少し苦手だ。だらしなくて、いつも鼻をほじりながら、だるそうに仕事をしている姿を見ていると、「大丈夫かな、この店…」と不安になることがある。
「おじさん、ぜひ仕事について教えてください!」
おじさんは鼻をほじりながら、だるそうに私を見て、「ああ、まずは棚卸しだな」と言ってきた。
「棚卸し?それって大事な仕事なんですか?」と私は興味を引かれながら聞いた。
おじさんは、鼻をほじりながら説明を始めた。
「そうさ、棚卸しってのは、店の在庫を数えて、それが帳簿に載ってる数と合ってるかどうかを確認する作業だ。これをやることで、商品が盗まれたり、期限切れになってたりしないかを確認できる。店の財産がちゃんと管理されてるかどうかをチェックするための重要な仕事だな。」
「なるほど…じゃあ、すごく大事な仕事なんですね。」と私は真剣に聞き入った。
「そうだよ、棚卸しをちゃんとやらないと、会社は損をする可能性がある。帳簿と実際の在庫が合わなければ、どこかで商品がなくなったってことだからな。盗まれたのか、管理が悪いのか、場合によっちゃ不正を疑われることもあるんだ。だから、定期的にやっておくんだよ。」
おじさんは少し得意げに続けた。
「これは会社の内部統制の一環でもあるんだ。要は、会社の資産がちゃんと管理されてるか、ルール通りに運営されてるかを確認するための仕組みさ。これが適当にやられると、会社の信用に関わるんだよ。棚卸しで在庫が合わないと、上の人たちが大騒ぎするからな。」
「そんなに大事な仕事だったんですね…」私は少し緊張しながらも、その重要さを実感していた。
すると、おじさんは急に鼻をほじりながらだるそうに言った。
「まぁでもな、俺たちバイトにとっちゃ、そこまで気にすることないさ。数が合ってりゃいいんだよ。適当に数えて帳簿に合わせておけば、問題なんて起きないさ。」
「えっ、でも適当でいいんですか?」私は驚きながら聞き返した。
「もちろん、会社にとっては大事だけどさ、俺たちはバイトだろ?上がどうこうする話さ。俺たちは数字が合えばそれでいいんだよ。大したことじゃない。適当にやっとけよ。」おじさんは面倒くさそうにそう言いながら、また鼻をほじり始めた。
その時、おじさんの手には、いつの間にか商品の肉まんが握られていた。おじさんは少し困った顔をしながら、肉まんを手に持ったまま私を見て言った。
「ああ、これはいいの、これはいいの。ほら、この肉まんにはバーコードもついてないし、もう在庫から外れてるんだよ。だから俺が食べても大丈夫だ。」
「えっ、でもそれでもダメなんじゃないですか?食べたら会社に損失が出ちゃうでしょ?」
「いやいや、大丈夫だって。だってさ、棚卸資産評価損引当金ってのがあるんだよ。会社はこういう売れ残りとか、期限が近い商品が売れなくなる可能性を見込んで、その損失を帳簿に計上してるんだ。だから、俺が食ったところで、大きな問題にはならねぇんだよ。」
「そんなことあるんですか?」私は少し疑念を抱きながら聞いた。
「そうさ。まぁ、実際には適当に食ったら怒られるかもしんねぇけど、こういう引当金があるから、在庫が損失になってもすぐに会社に影響が出るわけじゃないんだ。まぁ、ほどほどにしとけば問題ないってわけよ。」
「でも、それって内部統制に引っかかるんじゃないですか?ちゃんとルールを守らないと、後で在庫の数量が合わなくなって問題になりませんか?」
「うるさいなぁ!棚卸しで在庫が合ってればそれでいいんだって。売れ残りを処分する時期が来たら、どうせ捨てられるんだからよ。俺たちが食べても損にはなんねぇよ、たぶん。」
「でも…」私はまだ不安を感じつつも、おじさんのペースに流されてしまった。
「あーん…」
その瞬間だった。
「お前たち、何をしてるんだ!」
突然、店のオーナーが現れた。
「お、お、オーナー!?なんでここに…?」
「何でって…君たち、肉まんを見ながら変な顔してると思ったら、まさか食べようとしてるじゃないか!」
「いやいや、これは期限切れ間近で、棚卸資産評価損引当金があるから…」
「そんなの関係ない!期限が切れる前の商品を勝手に食べてどうするつもりだ!君たちはクビだ、クビ!」
「とほほ…」
こうして、私はバイト初日でクビになってしまった。未来の会計士への道は、まだまだ険しそうだ。
この話はフィクションです。実際のビジネスや会計業務では、棚卸しや在庫管理は正確かつ責任を持って行う必要があります。
引当金は将来的な損失を予測して計上する仕組みですが、正当な手続きやルールに基づいて使用されるべきものであり、個人的な判断で勝手に消費することは厳禁です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?