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未来を見据えた課題解決を目指す──JVCケンウッド「未来創造研究所」

 アラヤでは「人類の未来を圧倒的に面白く」を目標に、人工知能(AI)・脳神経科学の研究・研究開発支援「NeuroHatch」を提供している。この研究開発支援のねらいについて、研究開発部のプロダクト開発マネージャー・蓬田幸人は語る。

「アラヤはこれまでも、生体信号を使った新たなテクノロジーやビジネスを創出しようというチャレンジを行ってきました。そうした我々の知見を生かして企業やアカデミアの支援を行うことがサービスの目的となります」
 こうしたアラヤの研究開発支援サービスを使って、新たなものづくりに活かそうとする企業がある。今回、そのサービスを利用する株式会社JVCケンウッドの未来創造研究所におじゃまし、利用目的と今後のビジョンについてお話をうかがった。

 

■未来を見据えた課題解決を目指す──JVCケンウッド「未来創造研究所

 横浜市神奈川区に本社を置くJVCケンウッドは、現在分野別・拠点別となっている技術部門や本社コーポレート部門などを一体化した新たな価値創造の拠点として、「Value Creation Square」の創設に向けて準備を進めており(今秋竣工予定)、オフィス全体が活気にあふれている。
「弊社は2008年に日本ビクターとケンウッドが経営統合した成り立ちもあり、多岐にわたる商品展開をしております」
 そう語るのは、未来創造研究所・要素技術研究グループ次長の福島麻梨子さんだ。
「弊社の事業には大きく3つの分野がございます。ひとつはモビリティ&テレマティクスサービス(M&T)分野、これはカーエレクトロニクス製品や通信型のドライブレコーダーなどを提供する分野です。さらには無線システム事業や業務用システム事業を行うセーフティ&セキュリティ(S&S)分野、もうひとつは音響・映像機器やエンタテインメント事業などを行うエンタテインメント ソリューションズ(ES)分野です」
 全社の事業中、この3つの分野で最も大きな売上収益を示すのがM&T分野である。

株式会社JVCケンウッドの事業内容の図。M&Tは売上収益において全体の55%を占めている(『JVCケンウッド 決算説明資料 2024年3月期(IFRS)』より引用)

  JVCケンウッドは2021年に、「人と時空をつないで未来を創造する」という目標を掲げ、「未来創造研究所」を立ち上げた。
「今取り組んでいる事業だけではなく、より長期的な視点で、未来を見据えた課題を解決していくヘッドクォーターとして、この研究所が設立されました」(福島さん)
 研究所で研究に従事するのは80名弱ほど。映像、音響、通信技術などの長年つちかってきた技術の数々に加え、ネットワーク通信、コンピューター、セキュリティ、AIシミュレーションといった新たなテーマを持って、未来への課題に取り組んでいる。

■生体情報のデータ分析、センシング技術、専門知の一気通貫

 それではなぜ、未来創造研究所はアラヤの支援サービスを利用することになったのか。未来創造研究所・要素技術研究グループの研究者・大段翔平さんはそのきっかけを語る。
「ちょうど、人間をセンシングする技術を使った研究開発を行いたいと考えていたところに、ある展示会でアラヤさんのブースを拝見したんです。たまたまです(笑)」
 ただ、生体情報の技術は、どうしても医療系のサービスに直結しがちである。
「私たちは医療とはちょっと違ったアプローチのものづくりを模索していました。展示を拝見した際に、アラヤさんなら我々の方向性と近しいところでお話ができそうだな、と感じたんです」(大段さん)
 大段さんはJVCケンウッド入社後、無線の信号処理の研究を主に行ってきた。
「もともと、大学時代に研究室で筋電の測定をした経験もあって、生体センシングにも興味があったんです。ただ、電気・電子回路やソフトウェアといったものを扱っていると、なにかエラーが起きたときには、それらのどこかに原因があるわけです。しかし、人間を測定するには、違った意識が必要になってきます」
 そんな考えが頭をめぐっているなかで出会ったのが、アラヤの支援サービスだった。
「社長の金井良太さんが、内閣府のムーンショット計画にも携わっておられる脳科学者で、脳科学に対する知見がある会社であること。さらには生体情報の測定に対するコンサルティングが行えるサービスがある、というところに興味がわいたんです」(大段さん)

株式会社JVCケンウッド 未来創造研究所・要素技術研究グループの福島麻梨子さん(左)と大段翔平さん(右)

 アラヤの蓬田は、大段さんの指摘がまさに「アラヤのストロングポイントです」と話す。
「アラヤには金井がもともと意識の研究をしていることもあり、神経科学者、MD、博士号を持ったメンバーがおります。さらに別の部署にはAIエンジニアも多数在籍しています。AIを専門としている会社では意外と生体データの専門家がいなかったり、その逆のケースも多いんです」(蓬田)
 アラヤでは各部門の専門家が揃っていることで、データの解析から、試験設計、データに基づくアルゴリズム開発まで一気通貫のサービス提供を行える。それが強みなのである。
 さらに、当然のことながら、生体データを研究するとなれば、施設や設備へ少なからぬコストがかかる。その点アラヤではその設備も兼ね備えているのだ。加えて、未来創造研究所の福島さんは、サービスを利用する利点はそれだけではない、という。
「生体データがきちんと取れているのか、そのデータがどういった指標を示すのかといった分析は経験によるものが大きいと考えています。それらのノウハウを持った方々と協力体制がとれ、私たちの研究に活かせるということ自体が、大きなメリットですね」(福島さん)

株式会社アラヤ 研究開発部の蓬田幸人(右)と山本篤(左)

■思ったより、とても速く理解できる

 では、アラヤの研究開発支援サービスはどういった流れで行われるのだろうか。その行程をアラヤの蓬田と、大段さんに説明いただいた。
「まず、大段さんからご相談を受けたのは、今のチームの方々に経験のない生体データ測定をされたいということでした」(蓬田)
「自分を含めて、チームにノウハウを作って、人材を育てていきたいので、そのファーストステップとしてご相談したかたちですね」(大段さん)
「我々のサービスはお客様のご要望に合わせて、そのサービスをカスタマイズできます。なので、今回はレクチャーとハンズオン(実践)を組み合わせたようなコースを設定させていただきました」(蓬田)
 このレクチャーとハンズオンは、大段さんと、同じチームの要素技術研究グループ・池田航さんのふたりが、アラヤへ赴いて受けた。
「私も大段と同様、大学時代は無線通信を研究していましたが、生体工学については、展示会などで見聞きするような情報しかありませんでした。なので、どの程度の理解できるのか、正直なところ不安がありました」(池田さん)
 アラヤでは蓬田とともに研究開発部にて日常的に脳神経科学の研究・開発を行うメンバーがレクチャーとハンズオンを担当した。担当者の一人の山本篤に、本レクチャーの様子を伺った。
「おふたりには、おおまかに週に1回ほどのペースで約6回、2カ月ほど弊社へお越しいただいて、レクチャーと実践をさせていただきました。1回の講義時間は、丸1日ですね(笑)」(山本)
 講義の内容はケース・バイ・ケースだ。
「一般的なケースとしてご説明すると、生体信号の測定に関する基本的な知識や機器のレクチャーをしたうえで、まず人間が体感をする際に身体には何が起きているのか、といったデータを取るためのゲーム──我々はそれをタスクと呼ぶんですが、そのタスクをやっていただく講義の流れが多いです。そこで取れたデータを確認し、お客様の開発や検証に適したデータを取るためにはどういったタスクを作るべきか、といったアドバイスを行います」(蓬田)
 そこから、実際にタスクを作っていって、さらにデータを取り……といったレクチャーとハンズオンを繰り返す行程になるという。

アラヤの一般的な研究開発支援サービスの流れ

 実際にサービスを受けてみた感想を、池田さんはこう語る。
「基本的な情報と測定のあり方が、それぞれ実践を通じて理解することができました。大段と話していたのは、『思ったより、とても速く理解できた』ということでしたね」(池田さん)
「頭に情報を詰め込み、手を動かして1日が終わります。それを会社に持ち帰って、自分で実践していくことで、自分たちの発想に活かすことができていくのかな、という実感が生まれました」(大段さん)

研究開発支援サービスでは、基本的なレクチャーだけではなく、脳波計を使ったタスクまで行う。

■互いの得意な点を活かしたものづくりで、未来を面白く!

 この4月に、この研究開発支援サービスは「NeuroHatch」としてリニューアルされた。
「ニューロテックによって新たな技術を孵化させる(ハッチ)という意味合いで組み合わせた言葉です」(蓬田)
 JVCケンウッドの未来創造研究所では、こうしたアラヤのサービスを、今後どう活用していこうと考えているのだろうか。
「現在、アラヤさんのサービスによって、研究者のトレーニングを含めて専門的な知識を提供いただいているという段階ですが、弊社と非常に相性の良いサービスだと考えております。弊社は、研究を製品として世に出すこと、ものづくりを通して社会貢献をしていくことを目指しています。今後ともその目標に向かって、ご一緒できればいいなと考えております」(福島さん)
 未来創造研究所によるサービスの利用は、「アラヤにとっても大きなメリットがある」と語るのは事業開発担当の道林千晶だ。
「『人類の未来を圧倒的に面白く』というのがアラヤのモットーですが、我々の専門知から生み出されるものを、世の中にスケールさせていくのは、なかなか難しいところがあります。ですので、JVCケンウッドさんのように、実際に”もの”を開発、量産、流通をさせてきた経験が豊富なものづくりのプロパーの方々とご一緒させていただくことは、我々にとっても大きなメリットがあるんです。私たちのご支援がJVCケンウッドさんのものづくりに活かされることによって、我々の思いが実現に近づくと考えております」
「まだ具体的な内容はお知らせできませんが……」と言いながらも、大段さんは今後のビジョンを語る。
「研究者としても、得意としている専門分野も異なりますので、協力体制をとらせていただくことで、お互いの得意な点を活かしたものづくりができれば、と願っています」
 この協力体制によって生み出されるものが、そう遠くない未来に、世の中を変えていくかもしれない。

画面集合図:右上が株式会社JVCケンウッド 未来創造研究所 要素技術研究グループの池田航さん。左下が株式会社アラヤ 事業開発担当の道林千晶。 

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