私達がいつかプリキュアではなくなる日
この記事は後編です。前編はこちらから!
5人は「夢の形」という観点で大きく二分されます。、
既に明確な「なりたい自分」があるうらら(役者)、こまち(小説家)、
具体的ななりたいものは決まっていないりん、のぞみ、かれん
の2つです。
ここで素敵なのが、「夢を持つって素敵だから、早く夢を見つけよう!」という結論にはしないこと。
はじめの一歩は、「やりたいこと」や「興味があること」から少しずつ見つけていけばいいし、具体的な「自分がなりたいもの=自己実現」じゃなくて「人のためにやりたいこと」だっていい。
誰もおいていかないのがプリキュア5。プリキュア5はだれも見捨てない。
特に後者の3人。
スポーツはすごく得意、でも家の手伝いがあるから、特定の部活には属さず助っ人として部活を渡り歩くりん。そんな彼女の、「結局私は何が好きなんだろう」という思いも
何でも器用にこなせるかれんの「私が一般生徒(みんな)のためにできること、私にしかできないことってなんだろう」という思いも、
のぞみの、「何者でもない私が、そもそも好きなことってなんだろう」という思いも、全てに作品の中で向き合って行きます。
いつか私はプリキュアではなくなるけど
のぞみは、「具体的な夢はないけど、いまはナッツやココたちのために、プリキュアとして活躍することがやりたいこと」といいます。
それに対してミルクというキャラクターが、
「それはナッツやココたちの夢で、のぞみの夢ではないでしょ?」
とツッコミを入れる。
でも、ココは「今はそれでもいい」と肯定してくれます。
何者でもないのぞみが、スクールカーストを脱出して、何者かに文字通り「変身」する手段として、「プリキュアであること」を捉えていることが描かれるわけですね。
でもね、とココの話は続いていきます。
そこで突きつけられるのは、
「いつかパルミエ王国を救うということは、私達はその時、プリキュアではなくなる」という事実です。
プリキュアであることすら、モラトリアムに過ぎなかったりする。
そして、プリキュア5して活躍しはじめ、それに馴染んだときだからこそ、のぞみはこんなことを思います。
「やっぱり私にやりたいことは見つからないし、勉強だって運動だって不得意なまま。やっぱりそんな自分が嫌いだ。苦手なことをしている自分が嫌いだから逃げたい」と。
↑明るく振る舞ってはいたものの、「できない自分」へのコンプレックスはずっと抱えてきたのぞみ。
そうして、5人集まってやっていたテスト勉強を、そんな思いから逃げ出してしまうんですね。
そこで、ココは外に出ていったのぞみを追いかけ、話を聞きます。そこで、歩いている途中で見えた気球に、のぞみが興味を持っていることに気づきます。
二人は気球にのり、のぞみは
「どうして気球はこんなふうに飛べるの?」
と質問します。机に向かった「お勉強」でないところで、「知識を得ることの楽しさと大切さ」をココが教えるんです。
極めつけは、このセリフ。
「のぞみの気球は今、地上で空気を入れているとこかな。可能性という気球だよ。色々なものを見て、聞いて、感じて、学ぶことで気球は膨らむ。テスト勉強は気球を膨らませる一つの方法だよ。」
これが、「いつかプリキュアじゃなくなる私はどうすればいいか」への回答だし、「どうして勉強するの?」という子どもたちの素朴な質問への制作陣の回答なのかなと思います。
いつかまた、何者でもない女子生徒に戻る日が来たときに、「何者にでもなれる」ように、可能性という気球を膨らませて行ってね、と。
これをココみたいなポジションの人間が言うことも含めて、女児向けアニメとして、完成しすぎてやしないか。
成果主義VS過程主義
最後に、この作品は敵キャラたちの描写もすごく良いので、その話を。
モチーフ的には多分「ブラック企業」みたいなものだと思うのですが、今回の敵の組織は、完全に会社の様相を呈しています。「上司と部下」という関係性の連なり、完全に縦割りで成り立っているんです。
今作の敵キャラは、ココとナッツがいた「パルミエ王国」の秘宝、「ドリームコレット」(何でも願いが叶う)を、プリキュアを倒して奪い、社長たるデスパライア様の不老不死の願いを叶えることです。(やたら丁寧に言うとね。)
だから、成果は「0か100か」です。プリキュアを撃破できたのか、できなかったのか。ドリームコレットを奪えたのか、奪えなかったのか。
「今回はプリキュアに少しダメージを与えることができました!」
「前回負けた反省を生かして戦略を練りました!でもだめでした!」
みたいものは、成果換算すると、全部0の側なわけなんですね。
そして、敵キャラ軍たちの妙な人間臭さも、いろいろ考えさせられます。
視野は「縦」に狭くなる
こういう嫌な大人っているよね~的な居心地の悪さだったり、縦割りゆえの組織の不寛容さや融通の効かなさが、ギャグ的に差し込まれる反面、
成果を求めすぎた故に「行きつく先」は、かなりシリアスかつ残酷な形で描かれます。
その「行き着く先」は敵が「奥の手」で出してくるアイテムとなって表現されています。
このアイテムというのが「自我を失ってしまう代わりに(コワイナーではなく)自身がプリキュアを脅かす強靭な力を得られる」ものなんです。
これがまた、黒く禍々しいオーラを纏った紙というか、カード状態のもので、なんとも不気味なんですよ。
いってしまえば、ブラック企業や官庁づとめの人が寝ずに作業するためにドラッグに手を出してしまう…的なことの比喩というか。
成果にこだわりすぎるあまり、視野が狭くなってしまった結果、手段を選ばなくなってしまう、倫理観が崩壊してしまう。この様子を見守ってると、たとえ敵役だったとしても辛くなってくるんです。
一度それを使うと心に決めた敵キャラたちは、もっと他に道はあると、どんなに味方に説得されても、もう決して耳を貸すことはありません。
成果を挙げない自分に価値はない、とどんどん自分を追い込んでしまいます。
この紙を渡してくる、幹部的ポジションの「カワリーノ」というNO2がいるんですが、またこの人が狡猾なんです。
「お前は全然成果を上げていないから、もうこれを使ってプリキュアを倒してこい」
みたいなことは絶対言わないんです。
「最近なかなか成果が上がっていないみたいですね、このままだとこれを使うことも視野に入れないと…頑張ってくださいね。」
みたいな感じなんです。もうね、徹底して悪い大人なのよ。
↑こちらがそのカワリーノさん。この笑顔の裏には...
反対にプリキュア達は、本作の大テーマである「夢」を語るにあたって、遠回りすることや、とことん考えること、向き合うことを肯定してくれます。
集団の中での自分、というものの捉え方が、特に対照的で。
敵側はもう、完全に歯車なんですよね。「コワイナー」って、仮面みたいなアイテムを、なにか任意のものに投げつけることによって出来上がる怪物なんですけど、その素材になるモノって本当になんでも良いんですよ。
噴水の水の中に落ちて、噴水が怪人になる回は、
「おいおいそれも怪人になるんかい流石にすごいな、なかなかの超魔術だなおい」って感じです。
この一番何でもいい「コワイナー」が派遣なら、毎回それを使って襲いに来るのが正社員、後半に出てくるのが幹部で、デスパライヤが社長ですかね。
どこまで上層部をたどっても、「上司と部下」以上の関係性はない。
自分の価値は、ドリームコレットを奪還するというたった一つの成果を上司の代わりに達成することのみ。逆に、それができなければ自分に一切の価値はありません。
そして、自分のことは自分が認めてあげない限り、根本的な解決には至らない。二度と目は覚まさない。
対してプリキュアは、たしかに「のぞみ」というリーダー格はいるものの、そこにあるのは限りなく「横」な繋がりなんですよね。
まさしく、みんなはのぞみのために、のぞみはみんなのために状態。
共通点も、違うところも、認めあった集団。
この、縦な関係と横な関係は、お互いのアジトにも象徴的に現れているのがまた面白いんですよね。
デスパライヤカンパニーの景観は超高層ビル、対してプリキュア5人とパルミエ妖精ズが拠点にしているのは(ロフトめいたものはあるけど)平屋の一軒家なんですよね。
で、ちゃんと観るんでしょうね。
と、いうことで2回6,000字に渡り、3つの観点に絞ってプリキュア5の魅力を、侮れなさを伝えて来ましたが、もう一度いいましょう。
早くプリキュア5を見てくれ。
ここでは書ききれなかった「のぞみ×ココ」の関係性の尊さに、「愛すべきロリババア」と呼ばれたかれんの美麗さに、みんなのトラウマである「あの仮面の回」に、心を動かされまくってくれ。まだまだいっぱいあるんだ、魅力は。
そして早く48話、49話を見てくれ。全編を通した大テーマ「夢を持つこと、叶えること」に対する答え、そして「プリキュアではなくなる私達」5人のあの背中を見てくれ。
今回革新的なネタバレを避けた理由は、これらを踏まえてあのラスト2話に全力で涙してほしいから。
さああなたも、一生モノの「夢」物語、プリキュア5の世界へ。
それでは。
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