葱を刻む

職場で葱を刻む夢を見た。
私の職場には、給湯室で、葱を刻んではいけないというルールはない。
ないんだけれど、誰もしない。
葱を刻むだけではなく、卵をといたり、ハムを切ったり、ごはんを炊いたりするひともいない。

急に視線を感じ、手を止めた。

遠くで私を見る人がいる。

私は、ある重要なことを思い出していた。私が刻んでいる葱は、使いかけだったはずだ。職場の冷蔵庫にあるものは、名前が書かれていない限り誰のものかわからない。
葱もそうだ。自分の葱なのかわからない。もしかしたら、今切り刻んでいるこれは、私のことをじっと観ている彼の葱なのではないか。

仮に、もしそうだとしたら、
どうすれば許してもらえるだろう。

葱の、青い部分ならどうか。使わずに、冷蔵庫で干からびてしまうより、いいかもしれない。たぶん。おそらく。間違いなく葱泥棒に違いはないが。
いや、待て、今刻まれている葱が彼のものではなく、自分のものである可能性もあるのでは?

できるだけ、白い部分を避けて、私は葱を刻む。
遠くの、ずっと離れたところで、スーツを着た男がまだ、こちらを観ていた。まな板には、刻まれて山盛りになった葱がある。言い訳を考えながら手を動かす。なぜ自分が葱を刻んでいるのか。理由すら思い出せない。

ただ、夢の中の、私は、チャーハンを作ろうかと考えていた。

チャーハンがいい。
チャーハンが食べたい。

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