ブランドトマト「赤美味」出荷最盛期~完熟させて房ごと出荷
ミニトマトがおいしい季節です。愛知県西尾市の吉良地区のブランドトマト「赤美味」(あかうま)は、ベストシーズンを迎えています。摘果を多めにすることで甘みが一粒ひとつぶに注ぎ込まれています。房ごと収獲し、新鮮なまま出荷されるのが特長です。
■ブランド名の由来
ブランド名は、地元で名君とされる吉良上野介義央公の愛馬「赤馬」にちなんでいます。
地元の資料によると、吉良義央公は元禄時代(1688~1704年)に領内に堤防を築き、赤毛の愛馬にまたがり巡視したとあります。
郷土玩具「吉良の赤馬」のモデルとなっています。高さ5㌢ほどの玩具です。
■JA記者会でPR
この赤美味、2024年5月28日に開催されたJAグループ愛知記者会で紹介されました。房付きの珍しいミニトマトです。
試食もあり、房から外して食べてみると、完熟した甘みとコクがありました。
生産はJA西三河ミニトマト共選組合(竹内基郎代表)が担っています。耕地面積は200㌃で、11月から翌年7月中下旬まで出荷されます。
出荷量は2022年実績で年間約88トン。出荷先は愛知県や長野県、関東方面です。年間の約2割の15トンが5月に出荷されています。
摘果をしっかりやっているため、収穫量は通常のミニトマトの3分の1。その分、栄養がタップり行き渡っています。
■完熟あかうまビーフカレーを紹介
JA西三河は2023年6月、ミニトマト赤美味を使ったレトルトカレー「完熟あかうまビーフカレー」(580円、180㌘)を発売しました。そのときの記事を一部、再掲します。
試食したところ、「ばかうま」(これは名古屋弁です)。
海に近い西尾市吉良地区を中心に4人が土耕栽培している希少品で、土のミネラル分によるうま味が自慢です。房のまま赤く完熟させて収穫するため、甘みと酸味豊かなミニトマトです。 カレーには規格外の赤美味4個を使い、スパイシーながら食べやすく食欲をそそります。
栽培品種のドラマもありますし、地元で名君と称えられている吉良上野介の愛馬が「赤馬」であったことなど物語性も申し分ありません。吉良公は赤馬にまたがり、水害を防ぐために築いた堤防を見回っていたと伝わっています。
■愛知はミニトマト盛ん
2020年12月に書いたミニトマトの記事があります。再掲します。
ミニトマトの人気品種に「アイコ」があります。プラム型で甘味が強いのが特徴です。愛知県田原市の渥美半島をエリアとする愛知みなみ農業協同組合(JA愛知みなみ)。アイコや中玉の「シンディスイート」を栽培する生産部会(47人)では、作付け面積の83%がアイコです。栽培初期の2013年度と比べると、JA愛知みなみ全体で出荷量は4倍になりました。
消費者に人気の品種だけに、全国で競争相手も増えています。そこでトマト生産部会はコンサルタント会社とブランド戦略の話し合いを重ね、「とまらん♪」の名称とロゴマークを決めました。10月に商標登録も済ませたばかりです。生産部会副代表の岡本直樹さんによると、食べ出すと止まらないというおいしさを方言で表現しているそうです。
2018年農林水産省統計によると、愛知県のミニトマトの出荷量は熊本県、北海道に次いで全国3位。市町村別では田原市が全国4位、豊橋市が5位でした。
■麗にルネサンストマト、匠トマトなど
ブランド品種もあります。糖度が高く野菜ソムリエサミットで受賞したこともある「麗」(JA豊橋)をはじめ、愛知の育成種で皮が軟らかい「ルネッサンストマト」(JA愛知東)、「匠トマト」(JAひまわり)など多彩です。
トマト生産が盛んな理由として、JA愛知中央会は冬季でも温暖な気候で、施設園芸が普及していることを挙げます。消費地の名古屋のほか、東名、新東名高速道路を生かして東京、大阪への輸送が便利という地の利もあります。
■カゴメの思い出
トマトといえば、ケッチャップやジュースでシェアを伸ばしてきた創業120周年を超えるカゴメ。発祥の地はは愛知県東海市です。
2018年に東海市の工場内にあるカゴメ記念館を取材しました。今年2020年は3月から休館中ですが、トマトとともに歩んできたカゴメの歴史がわかりやすく展示されていました。
特に品種改良に力を入れていることが印象に残っています。農家がジュース用のトマトを出荷するときにヘタが取りやすい品種を開発したという話も聞きました。世界に約1万種あるトマトのうち、カゴメは約7500種の種を保存して研究開発に生かしているのも強みです。
なにより、創業当時から農家を大切にしてきました。契約栽培を取り入れ、豊作で市場価格が下がるときでも、全量を契約通りの金額で買い取るなど、農家との信頼関係を深めてきたのです。
◼️野菜不足の愛知県民
トマトなど野菜生産が盛んな愛知県ですが、厚生労働省の国民健康・栄養調査によれば、野菜の摂取量では全国最下位が続いています。一説には家族で外食する人が多いためともいわれています。名古屋めしといわれる手羽先や味噌煮込みうどん、きしめんなどに付け合わせの野菜が少ないのも一因かもしれません。
トマトの新ブランドの登場は、消費者が地元産のトマトや野菜にあらためて目を向ける機会です。野菜の摂取量最下位からの脱出に向けて、生産も消費も「とまらん♪」といきたいものです。
(2020年12月5日)