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第6回東京装画賞 入選作品の制作過程
2019年10月に募集が行われた東京装画賞に、角野栄子著「魔女の宅急便」の装画作品を出品し、入選することができました。今回はこの作品を仕上げるまでのプロセス、特に作品の元となったアイデアについて書きたいと思います。
今回、この東京装画賞では、課題図書が設定されており、その中の児童書「魔女宅急便」を描くことにしました。
一番初めのラフでは、スタジオジブリの映画のイメージが私の中で強かったのもあり、ほうきに乗ったキキが空を飛ぶシーンばかり考えていました。そのシーンで何度も角度を変えラフを描き出していました。
しかし、ラフを描きながら「魔法で空を飛ぶ姿は、ファンタジーの要素が強調されすぎてしまうのではないか。しかも、ステレオタイプ的なイメージを繰り返してしまい、私が描く必要がなくなってしまうのでは?」と思っていました。アイコン化したキキのイメージは多少残しつつ、彼女の姿を別の角度(観点)から描こうと決めました。そして、この本が本当に伝えたいことは果たして何か、再度問い直しました。
この本で本当に著者が表現したかったこと。それは、幼い少女がたったひとりで旅に出て、様々な人と出会い、その中で自分のできることは何かを見つけ、仕事をし、自分の居場所を作りだしていく姿で、キキは、魔法を使えない私たちと同じなんだと思いました。
この時、初めての世界に飛び込んだ時の自分を思い返しました。知り合いの全くいなかった高校の初登校日に教室のドアを開けようとしたとき。就職試験で「どうぞ」と言われ、面接室のドアを開けようとしたとき。
キキの姿に、不安と期待、どちらかというと不安の方が断然大きい中で、踏み出そうとした自分の姿が重なり、初めて、お客さんの家のドアの前に立ち、不安そうに、でも丁寧に荷物を渡そうする姿をイメージしました。
お読みいただき、ありがとうございました。