「個人的には…」という言葉の使い方が上手な人と下手な人の違い
皆様、本日の日報を提出いたします。
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我々デザイナーが働く制作の現場で「個人的には…」という言葉をよく耳にする。この言葉の使い方について、常々疑問と違和感を覚えていたので、少し腰を据えて考えてみたい。
私はこの「個人的には…」という言葉は、合議の上で何かを決定する場では使うべきではない、というか、使う必要が無いと考えている。なぜなら、その前置きが無くとも全ての意見は個人的な経験や判断に基づくものであって、個人的であることは分かりきったことだからだ。
想像してもらいたい。何か最終的な決断を迫られた現場で「個人的には…」という話が出た際に、その言葉をきっかけに議論が前に進むだろうか。例えば次のようなシーンだ。
「個人的には青色にした方がリンク色に見えると思う」「個人的にはこのアニメーションはもっと素早く動いた方がいいと思う」「個人的にはコンバージョンよりも先に関連リンクを置いた方がいいと思う」
こんな使い方は、ユーザーの視点でなく、自分の視点で物事を判断している、と言える。制作の現場で最も大切にすべきなのは「私は○○と考えると思う」ではなく「ユーザーは○○と考えると思う」だ。まずもってこの使い方はおかしいし、説得力もなく、議論も前に進まない。ではこんな使い方はどうか。
「個人的には、ユーザーは青色のテキストリンクの方がリンクと判断しやすいと思う」「個人的には、ユーザーはここでこんなに演出がかったアニメーションよりもすぐにコンテンツが見れる方がいいと思う」「個人的には、ユーザーはコンバージョンよりも先に関連リンクに興味を示すのではないかと思う」
この使い方で私が感じるのは「自信の無さ」だ。あくまでもユーザー目線で話をしているが、この「個人的には…」という枕詞があることで、もしもその意見が否定されたとしても「私の意見は個人的な見解なので、全然優先してもらわなくてもいいですよ」「あくまで個人的な意見なので、別の方針に決まっても全然問題ないです」と言っているように聞こえるのは私だけだろうか。こうした自信なさげな主張に私は説得力を感じない。
何か一つの結論を出すことに対して「個人的には…」といった、否定された時の保険をかければかけるほど、主張は弱くなる。ひどい場合は信頼を失うようなケースもあると心得ておいた方が良い。
ちなみに、私は文章をネット上に公開する際にも、意識的に「個人的には…」という言葉を使うことを避けている。その言葉が入るだけで、せっかくの主張が弱く、つまならないものになってしまうからだ。
では逆に、この言葉を上手に使う人はどんな時に使うのだろうか。私は「結論を導き出す必要がない場」で、且つ「物事をポジティブな方向に進める時」に使う、と考えている。デザイナーの話に絞るが、例えばこんな使い方だ。
例1)
同僚デザイナーが考えた配色案が3案提案された。クライアントからはオススメではないB案が決定案になったと連絡があった。その決定を横から見て声をかける際に「個人的にはオススメのA案が好きだけどね」という話をする。
例2)
同僚のデザイナーとランチの場で、SketchとXD、どちらが好きか?という話題になった。「個人的にはXDの○○っていう機能がSketchには無いから好きなんだよねー」という意見を出す。
例3)
webサイトのメインビジュアル案作成に際してアイデアラッシュが求められた。とにかく今はそれぞれの実現可能性よりも、沢山のアイデアを出そう!となり、それらを一度メンバーで見合わせることになった。その場で、他人が出したアイデアに対して「あーそれ個人的には好きだわ!」と言う。
これらはどれも、何か最終的な決議を求められるシーンではない。加えて、例1であればチームメイトの気持ちを上向けるために、例2や例3であればその場の議論を活性化させるために、ポジティブに働きかける言葉になる。このあたりが「個人的には…」という言葉を使っても違和感の無い場なのではないか。
再び私の結論をまとめると「個人的には…」という言葉の使い方が上手な人は「合議が不要な場で議論を活性化させる時にさりげなく使う、下手な人は自分の意見に自信が持てない背景から保身・保険のために使う」となる。
こうした無意識レベルで使われている言葉は制作の現場でまだまだ沢山ある。そして誰もが違和感を感じつつも、それを口にしない状況は多い。私にはこれ以外にもツッコミたい言葉の言い回しや説明の仕方が沢山ある。今後も気になった時に自分の考えを明確にするためにも、意識的に掘り下げていきたい。
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