書籍化・WEB版【稀代の悪女、三度目の人生で……】(一章)15話
「おい、その目を止めろ」
「あら、ついうっかり」
だって前世の反抗期の双子の息子達を思い出してしまったのだもの。あの時のクソババア発言は衝撃的だったわ。
しかも一卵性双生児だったからか、2人仲良く突然の反抗期だもの。泣きそう、というか、あの時は泣いてしまったわ。
さすがに夫と娘に慰めてもらったのよ。うふふ、今では良い思い出ね。
それよりも通学ね。
「通学でしたら毎日徒歩でかよ……」
「何故だ」
え? 何故? 思わず目をパチパチしてしまったわ。
むしろこちらが何故? しかも最後まで言わせない勢いで。やっぱりお兄様は反抗期ね。
「お兄様とシエナからは同じ馬車を使うなと言われておりますでしょう?」
「何だと?! シエナの馬車はあいつがお前も共に使うと言うから父上にも俺から進言して新しく作ったんだ! だが他にも馬車はあるだろう! 使用人達にも何故言わない!」
何だかどんどんヒートアップしているわ。もしや反抗期と若さの相乗効果?
「馬車を新調した理由は特にお聞きしておりませんでしたわ。残る3台の馬車のうち2台はお父様とお母様が使用していらっしゃいます。残る1台は豪奢で家紋付きですから通学用としては校則に反してしまって使えませんの」
「母上は毎日使ってはいない! それに豪奢な方を好んで使っているだろう?!」
「あら? 月に1度の夕食会以外では邸に長らく入っておりませんし、共に出かける機会もありませんでしたから気づきませんでしたわ」
「くそっ」
まあ、公子がそんな言葉を使うのはいただけないわよ、お兄様。
それに豪奢でない方の馬車はいつ使うかわからないのだから使うなと厳命されているもの。
入学してすぐの1度だけ馬車を使ったけれど、その時後ろにシエナを従えたお母様が使用人達のいる前でそう宣言されてしまったのよね。邸内は女主人の管轄よ? 女主人がそう宣言してしまえば、使用人達が私に馬車を斡旋できるはずもないでしょうに。
それに主人に倣って彼らの大半は私を公女として扱わないのだから、気を利かせるはずもないわ。
本当に、この世界での生は人に嫌われる運命なのかしら?
無意識にため息が出そうになったのを淑女の微笑みを押し留める。何故かしら。お兄様のお顔が険しくなったわね。まあいいわ。
でも聖獣ちゃんと愉快な仲間達や一部の人には好かれているから、こんなものなのでしょうね。
万人受けする聖女的な立ち位置や、あちらの世界の乙女ゲームなんかの逆ハールートに進めちゃうヒロインにはなれそうもないわ。
というかどうしたのかしら? 通学や馬車なんて入学して以来聞かれた事も……。
あらあら? 何だか思い当たる事が出てきたわ。
「どなたかからお聞きになって、私の現状にロブール公子としての面子を傷つけられましたの?」
まあまあ、図星ね。ギロリと睨みつけられちゃったわ。
「そうだ。今日の生徒会でな。その場でシエナを問いただせば、お前が自分と同じ馬車に乗らないのは嫌われているからだと泣きながら訴えた」
「ふふふ、左様ですのね。納得しましたわ」
お兄様は面子を傷つけられたから怒ってらっしゃったのね。謎は全て解けたわ。
「何故先にシュアに話した」
今度は静かに、低く尋ねるのね。尋ねるというよりも、責めているのでしょうね。
それよりもお兄様も孫を愛称呼びする仲でしたの。何だかそちらの方がビックリよ。同じ生徒会メンバーとはいえ、お兄様は線引きしていると思っていたもの。
「母上で駄目だったのならば、お前が伝えるべきはロブール家当主である父上か、次期当主である俺にすべきだった。公女として自覚ある言動を心がけるようにといつも言ってあっただろう。教育から逃げ続けた結果、教養も無く無能無才と周囲に侮られるのだ!」
結局怒声を浴びせられてしまったわ。それにしてもお兄様ったら、ずっと怒り続けているのね。
それにずっと立ち話状態よ。
「ふふふ、左様ですわね」
「何故そこで笑う! お前は俺を馬鹿にしているのか!」
「まあ、被害妄想でしてよ?」
「何だと!!」
「それよりずっと怒り続けてらっしゃって、喉が乾きません?」
「ふざけるな!!」
バシンッ。
ガタッ。
頬を叩かれ、床に倒れ込む。はずみで負傷していた方の腕を勢い良く床に着いてしまった。
「……っ」
思わず小さく呻いてしまったわ。
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