20の夜 -盗んだバイクで走り出せない-
「高校のときーパラショーでートラパラとーテクパラやってー・・・」
・・・わからない。
彼女たちが何を言っているのか。
パラショー・・・? ハマショーなら知っている。
そりゃそうだ。俺と彼女たちはほぼ一回り違うのだ。
今回は3対3。
幹事は俺ではなく、友人を通じて知り合ったjmさん。
もう一人はjmさんの会社の同僚のichiさん。
今回、事前にjmさんから聞いていたのは
「若い子が来ます」
ということだけだった。
前日にjmさんからなかなか連絡がこないので、なくなったのかと思ってメールしてみると
「すいませんでした。女の幹事の携帯が止まるというアクシデント中です。幹事には18:50渋谷パルコ前と伝えてるので大丈夫かと思いたいです。場所は渋谷のあの店にしたので、現地18:50でイイでしょうか??」
社会人になってそこそこ経って、わずかながらも収入を得ている俺にとって 携帯が止まるというのは懐かしい現象だった。このあたりからも若い人がくるんだなって思っていた。
時間よりちょっと遅れて店に着いた。俺以外は先にきていた。
テーブルに案内されて女性陣をみて一瞬時が止まった。
ギ ャ ル じ ゃ な い で す か
ギャルといっても人それぞれ基準がちがうので、ここで俺のギャルを定義しておくと
・髪の毛の色が茶色のレベルを超えている
・アイラインの幅が1.5mm越えをはたしている
・携帯についてる石が必要以上に目映い光を放っている
・まつげが必要以上に己を主張している
である。
動揺を見せないように平静を装ってとりあえず座る。
ギャルたち同士で話が盛り上がっている。
とりあえず注文し、カンパーイ。
話の流れで
「いくつなの?」
と聞くと
「ちょうど2年前に高校卒業したよねー」
「成人式やったばっか」
・・・一瞬絶句した。
若いとは事前に聞いていたがここまでとは。
そう、俺は忘れていた。
幹事のjmくんは無類のギャル好きだということを。
jmくんとはどこで知り合ったの?と聞くと、どうやらクラブのイベントで知り合ったらしい。どこでということより、jmくんがどのような週末を過ごしているのかのほうが気になった。
30歳超えて誰もが知っている大手シンクタンク勤務の彼は見た目とちがって東京の夜を満喫しているようだ。
開始30分は頭を抱えていたが、もうどうにでもなれ、考えても仕方ないと思い、普段と変わらぬ態度で接してみると、意外と話があって、そこからは6人で盛り上がった。
女性陣の1人がichiくんを気に入った様子で、
「じゃあichiくんと結婚する!」
と騒ぎだし、みんなも
「おめでとう!」
と盛り上げた。
2人の結婚式でjmくんと俺はテントウムシのサンバをやることになった。
この結婚すると騒ぎ出した女性はどうやらお嬢様らしく、お父さんが国会で働いてて、自分の家の前に簡易交番があって、常に警官1人がたっている家に住んでるらしい。
ということは・・・
ギャル恐るべし。
最初は見た目だけで
「どうしよう」
「話が合うのだろうか?」
と頭を抱えてしまったが、終電ぎりぎりまで盛り上がり、みんなで連絡先を交換してカイサーン。駅に向かう道での話もまた楽しかった。
あまりの年齢差に最初は戸惑ったが、話してみると多少のジェネレーションギャップはあったものの、久しぶりに腹の底から笑えたし、本音で話をすることができた。
確かに彼女たちはわがままなことを言ったり、我々社会人の常識からは外れたことを言ってたが、それがなんだか微笑ましく思えた。
何の計算もしていない
好きな人とずっと一緒にいれたらそれでいい
友達は大切
楽しければそれでいい
そんな彼女たちの楽しそうな姿を羨ましくもさえ思った。
帰りの電車でお礼のメールを打ちながら思った。
彼女たちも大学を出て、社会人になって、いろいろ経験し、いろいろ見ることで、
「年収1000万はないと嫌だ」と平気で言ってみたり、
身長が高いだけで「絶対もてますよねー」と言ってみたり、
会社名を言った瞬間に態度が変わったり、
有名企業の男の名刺を集めるのに必死になってみたり、
そんな女性になってしまうのだろうかと。
いや違う。
それが社会で生き延びるということなのだ。
綺麗事ではない。
そこにそういう現実があるのだ。
そしてそういう社会で、東京砂漠で俺は生きているのだ。
盗んだバイクで走り出したい。
あ、免許がない。
中免取りに行くかな。
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