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漫画『プニプニとサラサラ』~艦戦模型製作ラブコメディというニッチさとハウツー本としての実用性~

 この作品を初めて知ったのは模型製作スペース:大洗工廠さんのご主人から。数年前、艦これから艦戦模型製作に手を出したものの「ラッカー系塗料の扱いづらさ」が気になって一度辞めてしまった。しかしこの疫禍でステイホームが増えたのと、ガルパンおじさんの聖地・大洗に模型作りの場が出来た話を聞いて再び艦船模型への意欲が湧いてきたのである。
 自分が模型作りでつまづいた理由は塗料にあった。ならばラッカー系に慣れなかったのならアクリル系(水性塗料)はどうだろう? まずはそこかだ、という考えに至り大洗工廠さんを訪ねた。門を叩くような気持ちだったためその旨をご主人に話すと「それならこんな漫画がありますよ」とオススメされた。
 それがこの『プニプニとサラサラ』である。

 無趣味な高校生・更科匠海は亡き祖母の模型店を図らずも引き継ぐことになる。模型には何の興味も持っていない匠海だったが、その店で中学時代の同級生・藤文夏と再開。彼女はモデルとして活動する一方、祖母の模型教室にも通っていた生粋のモデラーでもあった。何の趣味も持っていない匠海に驚いた文夏は艦船模型を勧めたものの、経験ゼロの彼がマトモに作れるはずもない。ならば、と文夏は自分が一から教えると決意。かくして文夏の艦船模型製作教室が始まるのだった……

 プラモを題材にした漫画は数あれど「モデルがモデラー」という設定は他にない(はず)。しかも艦船模型に限定している点が肝で、昨今流行りのガンプラや同じくミリタリーの戦車でないのが最大の特長だろう。
 この艦船模型がくせ者だ。模型作りの再開後、自分のこしらえた軽巡・阿武隈を大洗工廠のご主人に「つたないながらもどうにか完成出来ました……」と披露したところ
「いやいや、完成させるだけでも立派ですよ。艦船模型は特に」
 驚いた。これって、ベテランの方がそう語るほど難しいモノだったの? 以前始めた際は模型作りのハウツー本を買って挑んだが、ゼロからいきなり難易度・高を目指していたとは思わなんだ、である。

 話が逸れたが、漫画本編だとヒロインの文夏はまず手持ちで余っていた戦艦・扶桑を匠海に渡して「作ってみましょう」と勧めるが、ただてさえ特徴的な艦橋の船をズブの素人が上手く組めるわけもない(その艦橋部で挫折している)。それどころかプラモに関する知識もゼロだったため、本当に一からレクチャーが始まるのだ。
 まず最初は「ニッパーの扱い方」。そこから? と思うだろうが基本はランナーからパーツを綺麗に切り分けるところから始まるのだ。さらにはヤスリの掛け方、接着剤の違い、ピンセットの扱い方etc...と、模型作りに必要な作業のノウハウとハウツーをヒロインが事細かに解説してくれる。ただし専門用語は極力避けており、彼女独特のオノマトペを使用しながら、というのが本作の特長だ。

 例えば筆塗り塗装時に細かいパーツを塗る際のコツは
「んーーーー、ぺ、んーーーー」
である。
 何のことやらと思うだろうが、筆先に少量の塗料を付けた後、塗装したい部分に「んーーーー」と慎重に近付けて「ぺ」と軽く触れたらまた慎重に離す。これの繰り返しです、とヒロインは語る。感覚と理屈を両方教える工夫ともいえる描写方法だ。なので始めから読めば本当にゼロからのハウツー本にもなるという親切設計だ。

 一応本作はラブコメで、物語はハウツーとして初心者向けの模型作りからフルハルモデル、さらにはスプレー塗装とレベルが上がっていく。それと比例してヒロインと主人公との距離が徐々に縮まっていくのだが、コメディ要素はほぼハプニング描写(※ラッキースケベ)であり物語も至ってシンプル。つまり艦船模型ハウツー漫画にラブコメを味付けした感が強く、ドラマを楽しむよりは「こんな模型ハウツー本があってもいい」という印象だ。ただハウツー要素に関しては非常に参考になる部分が多く、その点は素直に○としたい。

 ちなみに題名の『プニプニとサラサラ』は通常の模型用接着剤と流し込み接着剤をそれぞれ例えたもの。そう、流し込み接着剤はサラサラしてるから、ウッカリして一度模型に指紋をベタっと付けたことがあるんですよ……特性はしっかり覚えておきましょうね。

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