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空想と現実の橋渡し役 ~追悼:二瓶正也氏~
『ウルトラマン』でイデ隊員を演じた二瓶正也氏が21日に他界していた。
二瓶氏を知ったのは言うまでもなく『ウルトラマン』だが、イデ隊員の役柄は実に強烈で印象に残る。武器や新兵器を開発する技術者及び研究者であり、劇中のコメディリリーフとして大活躍していた。
三枚目の発明家、というキャラは一つ間違えば失敗ばかりの人物になりそうだが、イデの新兵器で科特隊及びウルトラマンのピンチが救われるという展開は幾度となくあり、これが何とも痛快で全く憎むところがない。
一方で23話『故郷は地球』で彼はジャミラの正体を知るやいなや、科学による文明進歩の裏に隠された闇を悟り、先程とは正反対の表情や口調で
「俺はジャミラと戦うのを止めた!」
と怒りに震え、衝撃の事実に嘆いていた。一人の開発者・研究者としての真面目さゆえの叫びであろう。
コメディリリーフはただ笑いを提供するだけの人物ではない。作品そのものや、鑑賞し始めた視聴者側の緊張も少しずつ解きほぐし「うん、面白い!」と受け入れやすくするためのキーパーソンでもある……という発言を演劇関係者の方が記していた。とすれば、そのキャラがスベったり外そうものなら致命傷になるのは想像が付く。それだけ重要なのだ。
一見お固い性格になりそうな役柄を、真逆なタイプの人物に担わせるには、真面目と陽気の両面をしっかり演じられる芸達者でなければならない。二瓶氏はそれを見事にこなしたが、実はイデ隊員役を演じる予定だった石川進氏(※ど根性ガエルの主題歌でおなじみ)が撮影開始直後に降板し、急遽抜擢されたのが二瓶氏だったという。
つまりあのキャラクターは偶然産まれた……と言いたいが、その二瓶氏の出演作を遡っていくと、後のイデ隊員に繋がる部分が垣間見える。
特撮映画初出演となった『妖星ゴラス』(1962)では、宇宙船・鳳号の若手宇宙パイロットの一人であり、かつ準主役・久保明の友人である伊藤役で登場。彼もまた劇中のコメディリリーフだったが、同時に何とも興味深い役を担っていた。
若手パイロット達は宇宙省の長官(西村晃)に対し「遭難した隼号の意志を継ぎ、妖星ゴラスの詳細な観測を行うべく鳳号を打ち上げるべき」と直訴するが、長官は逆に「隼号へどれだけの金を投じたのか知っているか?」と問い返す。そこで伊藤はボソッとこう答えるのだ。
「11兆8000億。1万円札を横にして並べると地球をぐるっと5回半して、まだお釣りが出るか……」
こんな場面もある。パイロット達は鳳号打ち上げ決定の前祝いとしてキャバレーに繰り出す。カウンターに座った伊藤の横に初老の男(天本英世)が現れ、彼のグラスへおもむろにビールを注ぐ。感謝を述べる伊東に対し男はこう言う。
「ゴラスの衝突まであと700日、君たちは宇宙のどこかへ飛び去って、俺達がゴラスとぶつかってお陀仏かもしれないな、ハハハ……」
その言葉に伊藤はたちまち素の表情に戻り、たまらず席を外してしまう。
『妖星ゴラス』は地球を動かすという奇想天外な空想科学映画でありながら、ドラマ部分では何とも現実的な描写が多い。国としてすぐに動けないのは直前にそれだけの金をフイにしたからという事情があり、また問題に対して真正面に立ち向かっていく人々に向けて露骨に嫌味を言う輩も存在する。それらは全て現実と虚構をつなぐ接点であり、西村晃や天本英世といった個性的俳優の存在も大きいが、その受け手となったのがコメディリリーフ役の二瓶正也氏だったのは興味深い。
場を和ませながらも問題をきちんと理解しているその姿には、どこかイデ隊員の原点を感じてならない。本作の四年後に突如周ってきた役が、二瓶氏の天性とも思える魅力的な登場人物になるとは誰が想像しただろうか。運命とは分からないものである。
アラシ隊員を演じた毒蝮三太夫氏曰く「実際は大雑把で情があって明るいヤツ。(撮影は)獣道だったが、その道を照らしてくれた大きな明かりだった」。歴史に残る空想特撮シリーズは幾多の俳優陣や名スタッフによって産み出されたが、その中で科学の陰と陽を三枚目のキャラクターで演じ分けた二瓶正也氏はまさに導きの明かりであり、視聴者にはシリアスと笑いの両方を通じて空想と現実の橋渡し役となっていた。改めて感謝の言葉を述べるともに、お悔やみを申し上げる。