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大学病院勤務のドクターと労基署へ

1.はじめに

こんにちは。あらきん(@arakin_1019)こと弁護士の荒木優子です。

大学病院に勤務するドクターと労基署に労基法違反の事実を申告した結果、違反の事実が是正され、労働環境が改善したということを書きたいと思います。

もちろん、このnoteを作成するにあたっては、ドクターご本人の承諾を得ており、内容も確認いただいています。

2.事前準備

労基署に行く前に、労基署に申告に行く内容を整理して、それを裏付ける資料(証拠)を準備することが有益です。

今回、私と一緒に労基署に申告に行ったドクターをA先生と呼びます。

A先生からお話をお伺いしたところ労基法違反の事実として以下のような事実が確認できました。

①時間外手当が支払われていない

②当直回数が上限よりも多い

③宿日直勤務中(当直勤務中)に回診等の通常業務が行われている

雇用契約書、就業規則といった労働条件の内容が分かる一般的な資料に加えて、

①の時間外手当の未払については、出退勤時間が分かるタイムカード、給与明細

②については当直のシフト表

③については当直中の業務内容をメモ

して準備をしました。

また、労基署に提出するため、労基署に訴えたい内容をA先生が文書にして作成し、私もレビューして完成させました。


3.いざ労基署へ

(1)労基署の窓口

労基署の「方面(労働条件・解雇・賃金)」という窓口に直接相談に行きました。アポイントは不要で、その場にいる労基署の監督官が対応してくれました。事前に労基署に電話をして、相談方法の確認はしました。

(2)労基署へ申告

よく職場で酷い扱いを受けると、労基署に行く、労基に駆け込むと言ったりしますが、より正確には、労働者が労基署に対して職場の労基法違反の事実を申し出ることを「申告」(労働基準法104条1項)といいます。

(監督機関に対する申告)
104条 事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
② 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。

監督官は、我々の話に丁寧に耳を傾けてくれました。

また、監督官は、A先生が絶対条件として掲げていた大学病院に対しては匿名を維持することについては、大学病院に対して誰が申告したか分からないような調査をすることを約束してくれました。

なお、A先生は、労基署に対しては、氏名、所属等の自身の情報をを明らかにしたうえで、申告をしています。そのため対労基署との関係においては、匿名ではありません。

4.労基署へ申告後

労基に申告してから1~2か月程度で、労基署の調査が大学病院に入りました。

その後、A先生より、大学病院も労基署の指導に従い、改善できるところから、少しずつ改善されたと聞きました。

特に大きかったのが時間外手当が支払われるようになったことです。

今までは、例えば、患者が急変してオンコールで呼び出されて対応しても時間外手当が支払われないなど、時間外手当はほとんど支払われていませんでした。

更に、A先生だけでなく同僚のドクターにも時間外手当が支払われるようになったことは、大きな成果だと思います。

また、当直明けは帰宅できるように変わったそうです。今までは、当直明けも通常勤務(日勤)があり連続30時間を超える勤務を強いられていました。また、大学病院の勤務と外勤でほとんど休みが無い状況でしたので、当直明けに帰宅できるようになったのは、きちんと休みを確保できるという点でも大きな成果だったと思います。

そして、A先生が条件としていた大学病院に対して誰が申告したか分からないようにするということ(匿名性)も維持されました。

匿名性を条件とし、労基法では労基に申告をした労働者を不利益に扱うことは禁止されている(労基法104条2項)とはいえ、事実上不利益を被るリスクは伴います。

A先生は、リスクを理解したうえでリスクが最小限になるようにできる限りの準備を整えて労基へ申告に行きました。

その勇気と行動力によって今回の労働環境の改善の成果が得られたのだと思います。

既にご覧になった方もいらっしゃると思いますがA先生ご本人の記事もありますのでご紹介致します。

A先生のnote「大学病院を変えるため労基署へ」

病院の労働環境を中から変えたいと思っているドクターの皆様は、是非、読んでください。

part1

part2

5.A先生への質問と回答

最後に私からA先生に聞きたかったことを質問したところ回答を頂きましたので紹介いたします。

荒木「労基に申告に行こうと思った理由を教えてください」
A先生「 医療業界というのは古い慣わしが多く、過労死や働き方改革が問題視される現代において、明らかに間違っていることを当たり前のように受け入れていることが多いです。受け入れることを当然にしてしまっていて、だれも声を挙げないことに私は疑問を覚えていました。そのためしっかり声を挙げて行動を起こすことで、まず自分の施設だけでも社会の一般常識レベルにまで改善させることが大切であると考えました。そうしてそのやり方をしっかり残せば他の病院でも続き、国内の医師の働き方改革のきっかけになればと思い労基に申告しました。」                  

荒木「弁護士に相談、労基へ同行をして良かった点を教えてください」

A先生「法律の専門的知識がないため、違反の有無をはっきりさせていただき、必要な資料についてもアドバイスをいただけたことは大変良かったです。また労基署に一人で行くよりも弁護士の方に同行していただくことで労基官の印象も大きく変わっていたように伺えました。」              
荒木「労働環境が改善されて以前と最も違う点を教えて下さい」
A先生「日本人は働きすぎで、特に医療業界はボランティア精神で働いてる人が多くいます。医師は高収入と世間一般的には言われますが、月に一度しか休日がなかったり、朝は6時過ぎから働いていたり、病院に泊まるのが月の半分近くになる上でのことです。それでもタダ働きになることがほとんどで、適切な知識を持っていないため古くからのしきたりを当たり前と受け止めてしまっています。今回申告後は、しっかりと働いた分のお金がでるようになり月10-20万円給与が増えたことは有り難かったですし、また適切な休みのインターバルが入ることでオンオフがはっきりし仕事への気持ちも高まりました。」

改めて、月10万~20万の時間外手当が出るようになり、更に勤務間インターバルが入ることにより適切に休みが取れるようになったこと、病院全体で働き方改革が進められていることは、非常に意味があることだと思っています。

勤務医に労働時間の上限や勤務間インターバルが導入されるのは2024年の予定ですが2024年を待たずとも労基の指導により働き方改革が実際に行われた事例をご紹介しました。

本noteの公開は、A先生の協力のお陰です。

勤務医の労務環境を改善したいと思われているドクターの参考になれば嬉しいです。

(おわり)

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あらきん*弁護士
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