現在の千葉の高校野球は「戦国千葉」か 優勝校から読み解く今後の展開
はじめに
本記事の筆者は、野球やその選手の知識に関してはほとんど皆無です。その点を踏まえて記事を閲覧するようお願いします。また前半はデータ表がない文章だけの説明になるため、本題を見たい方は後半部分から見ることを勧めます。
こんにちは、arakiです。ここ最近、高校野球を見始めるようになり、試合データから各校の特徴を分析するのが楽しいです。
今回は「戦国千葉」と呼ばれている千葉の高校野球の勢力図の推移について分析していきたいと思います。
参考資料
千葉県高等学校野球連盟 | chibaken High School Baseball (chbf.or.jp)
高校野球ドットコム - 頑張っている球児を応援する高校野球報道サイト。コラムや試合記事など高校野球情報を公開中。 (hb-nippon.com)
高校野球データベース 全国大会編 (bibijr.com)
そもそも「戦国千葉」とは
千葉県の高校野球と言えば、毎年甲子園出場校が変わる「戦国千葉」が代名詞と言われています。
実際に1県1代表となった1978年以降で、千葉県はあらゆる高校が多く甲子園出場しました。
特に千葉県はその傾向が顕著で、甲子園出場が1度きりの高校も成東、千葉商大付、八千代東などと多いのも特徴です。
現在の千葉は3+1構造が主流
ところがここ10年~15年は甲子園出場できる高校が少なくなっています。千葉県高校野球連盟の大会結果を見ると、直近10年で甲子園出場した高校は木更津総合(旧:木更津中央)、専大松戸、習志野、東海大市原望洋(旧:東海大望洋)、中央学院、市立船橋とわずか6校しかなく、センバツ出場も市立船橋以外の5校しか出場していません(それでも同じ激戦区の神奈川や大阪のように2強地区のような構造ではないですが)。かつて甲子園で実績を残した拓大紅陵、千葉商、銚子商、東海大浦安、千葉経大附も甲子園常連校かおよそ10年おきに出場していましたが、現在は15年以上も甲子園出場が遠ざかっています。また甲子園初出場校も以前と比べると少なくなった印象が見られます。
そんな現在の千葉県高校野球は、木更津総合、専大松戸、習志野の3校と残り1校を加えた4校が優勝候補となる構造が見受けられます。残り1校は大雑把に言うと10年代前中期は東海大市原望洋、10年代後期以降は市立船橋(場合によっては中央学院)ととらえるとわかりやすいかもしれません。
以降市立船橋を加えた4チームを(現在の)BIG4、東海大市原望洋を加えた4チームを旧BIG4と呼ぶことにします。
昔の春秋優勝校は甲子園未出場校が多かった
ここまで夏の優勝校にしか焦点を当てていませんが、春秋の優勝校を含めると意外にも甲子園未出場校が多いです。1990年~2009年(平成前期中期)を見ると優勝校は前述の古豪を中心に、暁星国際、千葉英和、敬愛学園、二松学舎大柏(旧:二松学舎大沼南)などと現在でも甲子園出場できない高校がいます。またこの中に含まれる中央学院や東海大市原望洋も県大会優勝していますが、初優勝から甲子園初出場するまで5年~20年と長めの年月を要しています。
一方でここ10年の優勝校を見ると甲子園出場校の6校以外では古豪の拓大紅陵と直近で唯一県大会初優勝した千葉学芸しかいません。以前ほど「戦国千葉」と呼ばれる背景が薄れているように感じます。
決勝進出校の全試合の勝敗からわかること
お待たせしました。長らく文章のみの記事となりましたが、ここからデータ表を交えて考察していきます。
今から公開するデータは直近5年で県大会決勝進出の12チームが負けた相手とそのカードになります。優勝校のみになると6校と母数が少ないため、準優勝校も含めた12チームで統計を取ることにしました。この12チームは木更津総合、専大松戸、習志野、市立船橋、拓大紅陵、中央学院、成田、東京学館、八千代松陰、千葉学芸、銚子商、東京学館浦安を指し、どのチームも直近の県大会では十分な実績を挙げ、後述の通り直近の4大会で取りこぼしをほとんどしていないのが特徴であるため、強いチームにどのくらい勝てるかという目安になると考えられるからです。
表の見方について
赤背景:決勝
橙背景:準決勝
黄背景:準々決勝
緑背景:ベスト16
灰背景:ブロック予選
〇はBIG4が負けた試合
×は不戦勝 この場合は試合数にカウントしない
対戦カードの左側が勝利校
太字は12チーム以外の高校
この表をぱっと見ると現在のBIG4である木更津総合、専大松戸、習志野、市立船橋が勝っている試合が多いことがわかります。このBIG4は令和の甲子園出場校であり、12チームの中でも更に強いことがわかります。また区別をつけるため12チームからBIG4を除いた8チームを中堅校と呼ぶことにします。ではもっと詳しく見るため、このデータをまとめた表を見てみましょう。
左からvs12チームの勝利数、vsBIG4の勝利数、vs12チーム以外に負けた数
vs12チーム(BIG4+中堅校)の勝利数
まず2桁勝利を挙げているのはBIG4で、これに次ぐのが八千代松陰、中央学院、銚子商、成田、拓大紅陵と中堅校が続いています。ここで気になる点がいくつかありました。
1つ目は市立船橋の勝利数が2021年以降に集中していることです。特に21秋以降は11勝も挙げていて、これを5年単位に換算すると木更津総合を上回る33勝ということになります。チームがあまり変わっていないのが気がかりですが、ここまでくじ運が悪くても強いチームに多く勝利を挙げれるのは見事だと思います。
2つ目は中央学院と習志野の勝利が直近3,4年にするとそれぞれ2勝のみという点です。2018年は春夏連続で甲子園出場し、木更津総合や習志野に勝利しましたが、令和の実績は八千代松陰の2勝のみとやや下向きな傾向にあります。今夏の大会は速球を投げる投手が多くいますが、トーナメントで戦う可能性の高い船橋芝山(直近で木更津総合と習志野に惜敗)や市原中央(直近で夏秋ベスト4経験)に取りこぼしをしないかポイントになりそうです。習志野も2020年代は専大松戸と市立船橋に勝利しただけで、ここ3年は強いチームに勝つのが難しくなっています。
3つ目はBIG4以外のチームはあまり差がないという点です。12チーム以外の勝利数は多い高校でもだいたい3~5勝と中堅校とさほど変わりません。このBIG4以外同士の対決は毎大会どこが勝つのかがわからないため、別の意味での「戦国千葉」と言えるかもしれません。
vsBIG4の勝利数
木更津総合、専大松戸、習志野の3チームが突出している一方で、+1の市立船橋が1歩劣るという結果になっています。
他のチームを見ると12チームでは唯一成田が勝利したことがなく、逆にBIG4以外で最も勝利を挙げているのは中央学院(前述の通り令和は未勝利)と県立船橋でした。BIG4の次に強いと思われる拓大紅陵でも2勝が限界とここでもBIG4との壁が大きく感じられます。そして12チーム以外では進学校である県立船橋が3勝しているのも見逃せません。今年度21世紀枠として選ばれましたが、習志野(16春、20秋)や市立船橋(19秋、21春)に勝利している点で選出されたのは十分に納得できますね。
ここには載っていませんが、最も勝利を挙げている専大松戸は半分の4試合でコールド勝ちを収めていて、23春の決勝(木更津総合)も10-0と実質的にコールド勝ちし、BIG4の中でもさらに突出しています。
vs12チーム以外に負けた数
ここまで強いチームに勝てるかという話をしましたが、逆にそうではないチームに負けるかどうかも気になりました。いわゆる取りこぼしをするかどうかですね。ここでも木更津総合、専大松戸、習志野の3チームが取りこぼしをあまりせず突出しています。他に気になった点をいくつか。
1つ目は木更津総合が取りこぼしを全くしない点です。BIG4以外の対戦を見ても、負けた相手は中央学院、銚子商、東京学館浦安の3校とそれ以外は優勝かBIG4との対決でしか負けていません。
2つ目は中堅校では成田と中央学院が取りこぼしをあまりしない点です。負けた相手はそれぞれ東海大浦安と千葉英和で、それ以外は12チームとの対決でしか負けていません。
いわゆるこの3チームと習志野は取りこぼしはしないが、強いチームには勝てない安定型のチーム(木更津総合は総合面でさらに突出している)です。木更津総合があと1勝が足りず甲子園に行けない(19夏、20秋、21夏、22夏)ことが多いのはこういうことかもしれません。
夏は3+1の強さが顕著になっている
さて、夏はどのような結果になるかですが、夏になるとBIG4の優勝候補は取りこぼしをしないことが多いです。夏に限定した場合、2018年以降は母数が少ないのでおよそ2012年以降まで拡大してみましょう。実は2012年以降は17年秋に拓大紅陵が優勝するまで木更津総合、専大松戸、習志野、東海大市原望洋とまさに3+1構造の旧BIG4千葉となっています。
実際に2013年、2015年、2017年の夏の大会で負けた相手は全て旧BIG4であり4チームがいかに突出しているのかがわかります。特に木更津総合はここ10年の夏は専大松戸、習志野、市立船橋と現在のBIG4にしか負けておらず、さらに専大松戸と7度も対戦していて両チームとも取りこぼしをしない印象があります。習志野もここ10年は直近の甲子園出場校以外で負けた相手は拓大紅陵と東海大浦安のみです。東海大浦安は2歩劣るイメージがありますが、2か月前の春季関東大会に翌夏甲子園Vを果たす東海大相模(当時2年生主体のチーム)に勝利したため、波乱が起きたというほどではないと思います。
中堅校がBIG4に勝てないケースも非常に多いです。拓大紅陵は昨夏習志野に勝利しましたが、2009年夏に習志野に勝利して以降、夏は専大松戸や東海大市原望洋にそれぞれ2度負け、習志野にも春秋含め6連敗と壁が高く感じられます。ただし全試合大敗というわけではなく、習志野には10夏、17夏、18秋は接戦で負けていて、特に17夏はあと1アウトで勝ちのところで逆転を許し負けています。また前年度は市立船橋に秋春夏全敗し、大事なところで勝てないのもまだ優勝候補と言えないかもしれません。
成田も2010年夏に習志野に勝利して以降、夏はBIG4に8戦全敗と優勝候補の壁を越えられずにいますが、習志野(2013、2016、2019)と木更津総合(2012)に接戦経験がありあと一歩が足りない状況です。こちらも13夏は習志野にあと1アウトで勝ちのところで逆転を許し負けています。このようにBIG4は負けそうな試合が何度もあるものの、最終的には勝っている(特に夏)ということがわかります。
現在BIG4である市立船橋も昨夏木更津総合に勝利するまで、春秋も含めて8連敗(12秋の勝利以降)となかなか壁を越えられずにいました。この3チームが連敗するようになった期間はおおよそ旧BIG4の時代(2012年以降)の始まりとかぶっています。
いかがでしたでしょうか。繰り返しになりますが、データから見ると近年の千葉の高校野球は3+1の印象が強いことがわかりました。
「戦国千葉」でなくなったと考えられる理由
筆者が以前より「戦国千葉」でなくなったと思う最大の理由は監督力(総合力)と考えられます。現在、千葉で実績を残している木更津総合、専大松戸、習志野の3監督は10年以上前から就任していますが、いずれも全国TOP10レベル(関東大会優勝など)の実績を残しています。毎年甲子園未出場または出場が遠ざかっている高校からドラフト注目の選手が現れますが、いずれも夏の大会はなかなか活躍できずに役目を終えてしまうケースが多いです。これは野球を最も知っている監督が試合などを把握しきれていないために、なかなか勝てないと予想されます。個々の力が強くても、それらを扱えないと甲子園や関東大会などで勝利することは難しいことがわかります。そういう意味で木更津総合が平成後期の6年間で7度も甲子園出場できたのは監督力が最大の要因かと考えられます。
また他都道府県の強豪校の衰退も1つの理由として考えられます。前述した監督力と似たようなことになります。ここ10年で強豪校のの名将の勇退により、以前より勝てなくなったケースが相次いでいるのも1つの原因と思われます。実際に千葉県の高校は全国的に野球が強い高校がなく、千葉県出身の選手がレベルの高さを求めて、他都道府県の強豪校に行くケースは当たり前のことでした。例を挙げると、横浜高校は2000年代までは関東大会は優勝し、甲子園でもベスト4をよく獲得するなどまさに甲子園の優勝候補の名にふさわしい実績を挙げていましたが、近年は甲子園はベスト8、関東大会はベスト4を1度も獲得できないまでに実績がなかなか奮わない状況となっています(逆に県大会優勝は現在でも非常に多く、夏の甲子園出場も1強と言われるほど多い。センバツは直近10年で2度出場している一方、いずれも関東大会ベスト8と滑り込み出場している。)。
この期間はおおよそ渡辺監督が勇退した時期を境にしていて実績が変わり、千葉県出身の逸材が千葉県の高校にとどまるケースが多くなったと予想されます。これにより千葉県の高校にはあまり強い選手や監督が集まらず、平成前期中期はどの高校も均衡したのではないかと考えられます。1990年代生まれの千葉県高校出身のプロ野球選手の多くが活躍できない、甲子園で実績を残せなかったのはこれが要因かもしれません。もちろん、名将が勇退しても実績を残している強豪校もいますが(例:智辯和歌山)。
優勝候補にコールド勝ちで将来甲子園出場?
最後に面白いデータを出したいと思います。それは木更津総合、専大松戸、習志野にコールド勝ちしたチームは全て2年以内に甲子園出場を決めている点です。
昨夏の市立船橋もその例で、2020年夏に習志野に5回コールド勝ちし、2年後に甲子園出場を決めています。
それ以外でコールド勝ちしたチームは
2021年春の専大松戸が習志野にコールド勝ちし今夏甲子園出場
2019年春の専大松戸が木更津総合にコールド勝ちし翌々春夏甲子園出場
2018年春の習志野が専大松戸にコールド勝ちし翌春夏甲子園出場
2016年秋の東海大市原望洋が専大松戸にコールド勝ちし翌春甲子園出場
2014年夏の専大松戸が木更津総合にコールド勝ちし翌夏甲子園出場
とこのようにコールド勝ちすると甲子園を確実に決めています。
もっと面白いのは旧BIG4は同じ旧BIG4にコールド勝ちしたことがあり、さらにコールド負けしたのも旧BIG4という期間が長く存在していたという点です。
12夏の日体大柏(当時:柏日体)が習志野にコールド勝ち(甲子園未出場)
14夏の専大松戸が木更津総合にコールド勝ち
15夏の習志野が東海大市原望洋(当時:東海大望洋)にコールド勝ち
16秋の東海大市原望洋が専大松戸にコールド勝ち
18春の習志野が専大松戸にコールド勝ち
19春の習志野が東海大市原望洋にコールド勝ち
19春の専大松戸が木更津総合にコールド勝ち
19秋の専大松戸が東海大市原望洋にコールド勝ち
20夏の市立船橋が習志野にコールド勝ち(旧BIG4時代の終わり)
そして現在のBIG4も同じことが言えます。
16秋の東海大市原望洋が専大松戸にコールド勝ち
17夏の木更津総合が市立船橋にコールド勝ち
18春の習志野が専大松戸にコールド勝ち
18秋の木更津総合が市立船橋にコールド勝ち
19春の専大松戸が木更津総合にコールド勝ち
19夏の木更津総合が市立船橋にコールド勝ち
20夏の市立船橋が習志野にコールド勝ち
20夏の専大松戸が市立船橋にコールド勝ち
21春の専大松戸が習志野にコールド勝ち
22春の習志野が専大松戸にコールド勝ち
23春の専大松戸が習志野にコールド勝ち
試合でよく勝ち切るBIG4ですが、試合内容もお互いがコールド勝ち負けしていて、ここでもBIG4の強さを感じられます。実際に現在千葉で最も強いであろう木更津総合にコールド勝ちしたのはここ10年で見ても専大松戸のみで、コールド勝ちがいかに強くどれほど難しいかも実感しますね。
ちなみにコールド勝ちしてまだ甲子園出場していない例は22春の習志野と23春の専大松戸がいます。データに沿えば習志野は来年までに甲子園出場するとのことですが果たして・・・
5年後は「戦国千葉」になっている1つの理由
現在3+1の構造となっている千葉ですが、1つだけ以前の戦国千葉になるかもという理由があります。それは現在千葉を牽引している木更津総合と専大松戸の監督の勇退です。既に両監督は70歳前後を迎えていて、5,10年後には勇退している可能性が高いです。現在は「強いチーム=監督力が高い」ということもあり、勇退することになれば2チームの戦力が下がり、再び戦国千葉に戻るかもしれないと思ったからです。もちろんこの先はどうなるかは全く予想がつかないですが、こういう未来を見据えて考えるのも面白いですね。
最後に
ここまでご覧いただきありがとうございました。高校野球は選手や試合展開が特に白熱しやすいですが、過去のデータからいろいろ分析することも楽しみの一つだと思います。機会があればまだ別の統計を持ってきて考察しようかと考えています。
それではまたどこかでお会いしましょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?