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きゅーんきゅーん
いるかしゃんの誕生日であった。
いるかしゃんってのは誰かっていうと、体長八十センチくらいの、金色の、いるか型浮き輪の人なのである。いや人ではない、いるかだ。
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なんで今日が誕生日なのかっていうと、今日がむかしの海の日だから(制定された当初は海の日って七月二十日なのでありました)。
で、妻といるかしゃんと僕の三人で、いるかが活躍するアニメムービーを観たりした。はっぴばっすでいでぃあまいいるかしゃん!
そんでそのあと僕は服を脱ぎ、サーフパンツ一枚でベランダに出た。夏日である。めちゃくちゃあっちきちでそれはもう気持ちよく、文字通り雲一つない青空を見ながら氷入りのアイスレモンティーを飲み、アイスモナカをかじった。アイスモナカは今、我が家のちょっとしたブームなのである(持病に制限されてバナナすら食べられない妻が食べられる数少ないデザートの一つがアイスなんでありまして、だから五個入り二百円のアイスモナカを我が家はしっかりと常備しているのでありました)。やばいくらいに美味かった。四十円で味わえる極上の幸せってやつを噛み締めた。噛み締めたらいい具合にキーンときた。太陽が眩しい(コロナな日々なわけだけど、海に来た感そりゃもう実に半端なくよーしゃなくしゃーわせなんでありました)。
赤らんだ体を冷やすべく、妻が入れてくれた水風呂にダイブイン、もちろん今日はいるかしゃんと一緒に。
ひょこひょことかわいらしく揺れながら彼女は、僕に寄ってきて頬ずりなんてしてくれた。なんだか急に眠くなり、うとうとしながら金色の曲線を眺めた。
かつてプジョーのバックシートにいるかしゃんをぶら下げて、伊豆の南端や外房や三浦の浜辺に繰り出した。ルームミラーに映る金色の顔。
眠気を払い、バスルームでくつろぐ今日の主役に、ぷうっと今の時代の空気を吹き込んであげた。いるかしゃんはぱんぱんになり、つやつやした背中を夕陽に晒したみたいに輝かせ、うるうるとして見える丸い目で僕を見た。
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いつかまた海に行こう。でもってやっぱりアイスモナカを食べよう。
心中でそんなふうに語り掛けるといるかしゃんは、聞こえない声で、きゅーんきゅーんと歌うみたいに鳴いた。
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