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上海アート散歩④西岸美術館――ポンピドゥーと協働する実験的写真展
西岸美術館 / 西岸美术馆 / West Bund Museum
西岸美術館 / 西岸美术馆 / West Bund Museumは、中国・上海市の黄浦江西岸地区、通称「ウェストバンド(West Bund)」に位置する美術館です。2019年11月、フランスのポンピドゥー・センターとの長期的なパートナーシップのもと開館し、近現代アートを中心とした多彩な企画展や文化イベントを開催しています。当初は2024年までの期間限定でしたが、好評のため延長中です。
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西岸(West Bund)はここ10年ほどで急速に開発が進み、アート関連施設のほか、デザインセンターやクリエイティブ・スペース、高級住宅地などが整備されました。かつての工業地帯をリノベーションして誕生したエリアであり、上海の新しい芸術・文化の発信地としての位置づけが強まっています。
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西岸美術館はこの西岸開発の目玉プロジェクトのひとつとして誕生しました。周辺には「龍美術館(Long Museum)西岸館」や「油罐艺术中心(TANK Shanghai)などがあり、エリア全体がアートクラスターを形成しています。散策路や公園も整備されているため、週末には多くの市民や観光客が訪れる人気スポットです。
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ポンピドゥー・センターとのコラボレーション
西岸美術館の大きな特徴は、フランスのポンピドゥー・センターとの長期的な連携です。ポンピドゥー・センターが誇る近現代美術コレクションの巡回展示や、キュレーター同士の研究を通じて、国際レベルでの芸術交流が盛んに行われています。
企画展は、国際的に名高い現代アーティストから中国国内の気鋭アーティストまで、ジャンルを横断する多彩な内容が特徴です。写真、映像、インスタレーションなど現代的な表現手法を扱う作品が多く展示されます。黄浦江の河岸エリアを活用した野外ステージも設置され、音楽フェスやダンス・パフォーマンスなどが開かれることもあります。
建築・デザイン
西岸美術館の建築は、イギリスの著名な建築家デイヴィッド・チッパーフィールド(David Chipperfield)が手がけました。チッパーフィールドは極力装飾を排し、洗練されたミニマルなデザインで知られています。外観は白を基調とした大理石とガラスを組み合わせたモダンな造形で、黄浦江の水面を背景としたシルエットが特徴的です。
美術館の敷地面積はおよそ25,000平方メートル。展示エリアは3つの大型ギャラリーを中心に構成され、企画展や常設展、特別イベントを実施する多目的スペースも備えています。建物は3層構造で、階ごとに天井高や空間の使い方が異なり、それぞれの展示テーマに合わせた多彩な演出が可能となっています。カフェやミュージアムショップ、屋外テラスなど、来館者がくつろげる公共スペースも充実しています。
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アクセス・利用案内
住所:上海市徐匯区龍騰大道2600号付近
最寄り駅:地下鉄11号線 雲錦路駅 / 云锦路站 / Yunjin Road
開館時間:午前10時から午後5時(西岸の他の美術館は午後6時までだが少し早いので注意)
休館日:月曜日
チケット:WeChatで「西岸美术馆」で検索して公式アカウントをフォローし、WeChatペイで購入
「Another Avant-Garde. Photography 1970-2000」展
私が上海に来た最も大きな理由はこの展覧会です!!
1970年代に美術館のコレクションに写真が取り入れられるようになった転換点に焦点を当て、写真というメディアを通じて前衛芸術を捉え直す意欲的な展覧会です。ポンピドゥー・センターとの連携プロジェクトの一環として、コレクションから厳選された作品が並びます.。従来の絵画中心の美術史の視点では語りきれない「もうひとつの前衛」を、写真を通じて再考することで、芸術の枠を超えて拡張してきた写真の可能性を示しています。
最初に出迎えてくれるのは巨匠ジェフ・ウォール。トランスペアレンシー(透過光フィルム)とライトボックスによる作品です。展示方法が特殊なので日本で観られる機会はほとんどありません。おそらく2007年の金沢21世紀美術館の「オルブライト=ノックス美術館展」が最後ではないでしょうか。私はジェフ・ウォールが観たくて2024年に台湾の高雄市美術館まで行ったことがあるくらいです。
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榮榮&映里(ロンロン&インリ)の榮榮によるパフォーマンスの記録写真。
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眞板雅文のパフォーマンス。
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ホン・ハオ(洪浩)だ! 急速な社会変革と伝統文化の交錯を繊細かつ大胆な手法で描写しています。福岡アジア美術館にも作品があります。
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ここからは大物が続きます。バーバラ・クルーガーとマーサ・ロスラー。マーサ・ロスラーの映像作品「キッチンの記号論」は、東京国立近代美術館の「フェミニズムと映像表現」で話題になりました。
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クリスチャン・ボルタンスキーのあまり観たことないタイプの写真作品。
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シェリー・レヴィンの「アフター・ウォーカー・エヴァンス」。写真史の教科書に必ず出てくる有名な作品です。既存のイメージや写真を再利用することでオリジナリティや所有権の概念に挑戦し、ポストモダン芸術における再生と複製の意味を問い直すアプローチで知られています。
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実験映像作家として世界的にファンの多いマイケル・スノウと、中国の現代アーティストとしてはベテランの域に入るチェン・シュウシャ(陳淑霞)。
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ウォルフガング・ティルマンスとナン・ゴールディン。
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フランスの写真家パトリック・フェイゲンバウム。光と影のコントラストを駆使し、日常の風景や人々の表情の中に潜む物語を切り取る作品で評価されています。
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スザンヌ・ラフォンのポートレート。
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ビル・ヴィオラじゃん!
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シンディ・シャーマンとギルバート&ジョージ。すごい! こんなに有名なのに日本でオリジナルを観る機会が少ない……。
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ツェン・クォン・チー(曾廣智)。東洋と西洋の文化が交差・融合する点を探求した写真シリーズで、伝統的な美学と西洋からの影響が共鳴し合う現実を、服装、建築、風景などを通して視覚的に表現しています。
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現代写真といえばやっぱりこの人、トーマス・ルフ。
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マ・リウミン(馬六明)。中国の現代パフォーマンスアーティストとして、ヌードを大胆に取り入れた作品で知られ、伝統的な価値観や性別の枠組みに果敢に挑む斬新な表現を追求しています。
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右はツェン・ハン(曾翰)。
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ジョルジュ・ルース。光と空間を巧みに操る大胆なインスタレーションで国際的に評価されるフランスの現代アーティストです。瀬戸内国際芸術祭2019では、取り壊しが決まっている小豆島の建物を金箔で埋め尽くす大胆な作品を構成しました。
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現代写真といえばやっぱりこの人②、アンドレアス・グルスキー。
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フランク・ブロイアー。自然景観や都市空間を静かな視点で捉える現代写真家です。
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そしてウォン・フェン(翁奮)! 好きな中国の現代写真家の一人です。代表作の『Sitting on the Wall』シリーズでは、壁に腰掛ける人々の日常的な瞬間をテーマに、自然光や静かな色調を生かして、その場の空気感や人間関係の微妙な変化を描き出しています。
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去年香港のM+に行ったときウォン・フェンの作品を観ました。好きなんですよね。
香港のM+で中国現代写真観られるかなと思ったんですが、写真がウォン・フェン(翁奮)とジャン・ホアン(張洹)しかなかったんですよね…さすがに… pic.twitter.com/PTqQT7MVNn
— アナスタシア/透明ランナー (@toumeir1) November 25, 2024
最後にもう一度ウォルフガング・ティルマンス。
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2023年に表参道のエスパス ルイ・ヴィトン東京で展示していたときもこんな感じでクリップで留めていました。
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「Mirrors of the Portrait」展
「肖像表現」に焦点を当て、時代や手法によって変化する複雑さと、個々の内面を映し出す鏡としての役割に注目した展覧会です。肖像画というジャンルが、単なる写実的な記録を超え、時代や文化、個人のアイデンティティをどのように反映してきたのかを探求する企画となっています。肖像というテーマを軸に、個々の表情やジェスチャー、そしてその背後に隠されたストーリーを紐解く試みでもあります。
展覧会はナタリア・ゴンチャロワからスタート! 日本にないので嬉しい。
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フランティシェク・クプカ(Frantisek Kupka)。チェコ出身の画家で、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍し、抽象芸術の先駆者として評価されています。色彩と形の実験的な組み合わせを通じ、従来の具象表現を超えた視覚言語を模索し、後の現代美術に影響を与えました。
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ソニア・ドローネー(Sonia Delaunay)。抽象表現やオルフィズムの創始に貢献し、色彩と幾何学的形状を駆使した作品を通じ、絵画やファッション、デザイン分野に影響を与えました。2002年に東京都庭園美術館で個展が開催されたのが懐かしいです。
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ハンス・リヒター(Hans Richter)。ドイツ出身の芸術家・映画監督で、ダダ運動や前衛芸術の領域で実験的な手法を用いた作品を制作し、実験映画や抽象表現を通じて新たな可能性を提示しました。
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ホアン・ヨンピン(黄永砯)。中国を代表する現代アーティストです。インスタレーションやオブジェ、映像を用いて制作を行っています。ポンピドゥーってこんなのも持ってるんですね。福岡アジア美術館には巨大なラクダがあります。
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こちらも中国現代アート界の超大物、ジャン・シャオガン(張曉剛)。伝統的なモチーフと現代の感覚を組み合わせ、抽象と具象の要素を融合させた表現を追求し、その作品はオークションで高い価格が付くことでも知られています。直島のベネッセミュージアムにもありますね。
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タイシル・バトニジ(Taysir Batniji)。パレスチナ出身の視覚芸術家で、写真やマルチメディアを用いた作品制作を行っています。現代中東の社会や政治の現実を題材に、アイデンティティや移住、記憶といったテーマに焦点を当てた作品を発表しています。2023年にパリで個展をやっていました。
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メレット・オッペンハイム(Meret Oppenheim)。スイス出身のシュルレアリスムの芸術家で、日常的なオブジェクトに新たな意味を付与する作品を制作しました。毛皮をまとったカップとソーサー、スプーンの作品が有名です。こういうタイプの作品は初めて見ました。
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アヴィグドール・アリカ(Avigdor Arikha)。イスラエル出身の画家、芸術史家、キュレーターで、日常の瞬間や記憶の中に存在する微妙な変化を、簡潔な表現で捉えることを特徴としています。初期はもっと抽象的な作品もあるのですが、この2点はアリカの作品の中でも素晴らしいものではないでしょうか。
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ジャン・デュビュッフェとベルナール・ビュフェ。
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ジェラール・フロマンジャー(Gerard Fromanger)。フランス出身の画家で、抽象と具象を組み合わせた作品を制作しました。シンプルな形と色彩を用い、日常の風景や社会的場面を描いています。
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ルイーズ・ローラー(Louise Lawler)。写真を中心としたコンセプチュアルアートで知られています。美術館やコレクターの家に展示されたアート作品を撮影し、そのコンテクストや権力関係、アートの消費の仕方を問い直すものが多いです。
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アカデミー賞作品賞受賞作『それでも夜は明ける』の監督、スティーヴ・マックィーン。バスター・キートンにインスピレーションを受け、アフリカ系アメリカ人の姿を後ろから捉えた作品です。
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ハイモ・ゾーバーニッヒ(Heimo Zobernig)。オーストリア出身の現代アーティストで、彫刻、絵画、インスタレーション、映像といった幅広いメディアを用いた作品で知られています。ミニマリズムやコンセプチュアルアートの要素を取り入れつつ、展示空間そのものを意識したインタラクティブなアプローチが特徴です。
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ザオ・ウーキー、チャック・クロース、ルネ・マグリット。すごい部屋だ。
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チャック・クロース久しぶりに観ました。以前は米国を代表するスーパースターだったのですが、2017年に複数の女性に対するセクシャル・ハラスメントが明らかになり、キャンセルされました。2021年に亡くなりましたが、脳の障害で不適切な言動を止められないという調査結果もあり、美術史上での評価が難しい立場にあります。
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米国で最もホットな画家のひとり、ジョン・カリン。古典絵画の技法を用いながらも、風刺的で挑発的なテーマを扱う作風で知られています。人物画を中心に制作し、ユーモアやエロティシズムを織り交ぜた作品は、伝統と現代の美意識を融合させた独特の世界観を表現しています。
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いや~、大満足でした! これほど見応えのある素晴らしいコレクションを、日本から飛行機で3時間という近さで観られるとは。会場に一歩足を踏み入れた瞬間から、作品一つひとつが圧倒的な存在感で迎えてくれ、終始その魅力に引き込まれました。上海という街のエネルギーとも相まって、訪れる価値が十分以上にありました。今回の旅で上海を選んだのは大正解でした。
①知っておきたい中国個人旅行の基礎知識【2025年1月版】
②急拡大するアートシーン、最新現代美術館ガイド
③ビザ不要で気軽に!中国到着から入国まで徹底ガイド
④西岸美術館――ポンピドゥーと協働する実験的写真展
⑤浦東美術館――黄浦江の夜景と芸術を満喫できる最先端アートスポット
⑥Fotografiska――歴史が息づく空間で出会う世界の写真、深夜まで楽しめるアートと食
⑦上海当代芸術博物館――発電所から美術館へ、工業遺産が作り出す現代アート空間
⑧TANK、龍美術館、星美術館――西岸エリアに次々と生まれる美術館
⑨外灘エリアの美術館――歴史建築と現代アート
⑩M50アートエリアと天安千樹――新旧クリエイティブ・スポット巡り