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上海アート散歩⑦上海当代芸術博物館――発電所から美術館へ、工業遺産が作り出す現代アート空間
上海当代芸術博物館(Power Station of Art / PSA)
上海当代芸術博物館、通称「Power Station of Art(PSA)」は、上海初の公立現代美術館として2012年に開館しました。上海の他の美術館は企業オーナー所有のアートを展示する私設美術館ですが、ここは唯一の公立現代美術館となっています。
1930年代に建造された黄浦江沿いの発電所跡の構造を生かした独特の建築空間です。上海万博(2010年)で展示施設として活用されたのち、現代アートを中心に扱う美術館へと転用されることが決まり、2012年に正式開館しました。
2年に一度開催される「上海ビエンナーレ」の主要会場としても使用され、ビエンナーレの期間中は国内外のアーティストやキュレーターが集まり、最新のアートの潮流や社会テーマを発信する重要な舞台となっています。
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建築の見どころ
煙突のシンボル
発電所時代の巨大な煙突が残されており、美術館のランドマークとして遠くからでもよく目立ちます。工業遺構を保存・再利用した事例として注目され、館内には当時の大きな構造体が随所に残っています。
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吹き抜け空間
内部は天井が非常に高く、広々とした展示フロアが複数階にわたって展開されます。大型インスタレーションや映像作品など、さまざまな形式の現代アートを紹介するのに適したつくりになっています。
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テラス・屋外スペース
屋上には黄浦江を見渡せる屋外デッキスペースがあり、美術館鑑賞と併せて上海のリバーサイドの風景を楽しむことができます。対岸には外灘や高層ビル群が望め、夕景を堪能する散策コースとしてもおすすめです。
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アクセス
所在地: 上海市黄浦区苗江路678号(黄浦江沿い)
最寄駅: 地下鉄4号線「南浦大橋駅」から徒歩10分
館内設備: カフェやミュージアムショップがあります
尹秀珍「Piercing the Sky」展
尹秀珍(Yin Xiuzhen)は1963年生まれの中国人アーティストで、日常的な素材や再生可能な物質を用いた大規模なインスタレーション作品で知られています。古着や布、身近なオブジェなどを組み合わせて空間全体を構成し、人々の記憶や社会的・文化的背景にまつわるテーマを多角的に表現するのが特徴です。
1990年代以降、中国国内だけでなく国際的な展覧会にも積極的に参加し、グローバリゼーションや都市化、環境問題などに対する批評性を作品に盛り込むことで広く注目を集めてきました。
日本では2002年の福岡アジア美術トリエンナーレ、2005年の森美術館「新しい世紀の中国現代美術」展、2011年の横浜トリエンナーレで紹介されてきました。2020年弘前れんが倉庫美術館の開館記念展にも参加しました。
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本展は彼女の大規模個展です。これまでの代表作から最新のインスタレーションまで、多角的に彼女の芸術を概観できる構成になっています。PSAの高い天井や広々とした展示フロアを活かし、作品が空間全体を占めるようなスケールでインスタレーションが展開されています。
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古着や生活用品など、個人の記憶を象徴するような素材が多用されており、日常とアートの境界を曖昧にするアプローチが見られます。再生可能な素材への着目を通じて、環境意識や消費文化への問いかけも含まれています。
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観客は作品の中を歩き回りながら体験することで、尹秀珍が意図する「記憶の再生」「個と社会」」といったテーマに触れることができます。彼女の作品には、作家自身を反映した要素と、近代化・グローバリゼーションといった世界的な動きが共存しています。個人の記憶を媒介として普遍的な社会問題や環境問題へと想像を広げることができます。
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