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上海アート散歩⑩M50アートエリアと天安千樹――新旧クリエイティブ・スポット巡り

 上海市内には近年、新旧が融合したクリエイティブな地区が増え、現代アートや先端的な建築プロジェクトが盛り上がりを見せています。その代表的な場所として挙げられるのが、M50アートエリア天安千樹(Tian An 1000 Trees)です。


M50アートエリア

 M50アートエリアは、「莫干山路50号」という地名にちなんで名付けられた再開発プロジェクトで、上海における代表的な芸術コミュニティの一つです。もともとは国営の上海紡績機械廠や新華紡織工場が稼働していたエリアでしたが、1990年代に紡績産業が衰退したことをきっかけに工場が閉鎖され、建物や施設が取り残されました。

 工場跡が取り壊されずに残ったことで、広いスペースと天井高のある建物が、アーティストやギャラリーに好都合な場所として注目を集めました。賃料も比較的安価だったことから、2000年代初頭に前衛的なアーティストやギャラリーオーナーがここに入居し始めたのがきっかけです。徐々に美術関係者のコミュニティが形成され、「上海のSOHO」と呼ばれる創造的空間へと変貌を遂げていきました。

 ギャラリー、アーティストのアトリエ、グラフィックデザイン事務所、写真スタジオなどが地区全体にに点在しています。壁にはストリートアートが描かれている場所もあり、M50のエリア自体が作品のような空気感を帯びています。建物の配置や入り組んだ通路など、迷路のような構造の中で個性的なギャラリーやショップを探すのが醍醐味です。

 レンガ造りや鉄骨など、工場時代の無骨な雰囲気を生かしたままギャラリーやスタジオへリノベーションしており、レトロな景観が広がります。近年はカフェやセレクトショップなどが新たにオープンするなど、観光客向けのスポットとしても機能しています。多様な表現が混在する刺激的なアートコミュニティとして、地元の人々や海外のアートファンから根強い支持を得ています。

 RICOHが運営している写真専門のアートギャラリー、GR SPACE 上海。2024年に原宿にGR SPACE 東京がオープンして私も何度も行きましたが、上海にもあったんですね。調べても情報が出てこない…。


天安千樹(Tian An 1000 Trees)

 M50からほど近い蘇州河沿いに最近登場した大規模複合開発が、天安千樹(Tian An 1000 Trees)です。トーマス・ヘザウィック率いるヘザウィック・スタジオが設計し、その名の通りビル全体に1000本以上の樹木を植栽した独特の外観が大きな話題となっています。

うわあ…
左奥にゴジラのように黒く見えていますが、2号館も2025年内にオープンとのことです

 建物がまるで山のような階段状になっており、それぞれのテラス部分に植栽された木々が並ぶ姿は「都会の山脈」や「天空公園」と称されています。外壁には多数のコラム(柱)があり、その先端に植物が植えられています。都市空間の中で緑を最大限取り込む革新的アプローチとして注目されています。周辺は再開発が進む一方、昔ながらの風情も残るエリアで、河岸の風景と相まって、近未来的な建築とのコントラストが印象的です。

 柱に植えられた無数の木々や段階的な山型のシルエットは、フォトジェニックなスポットとして人気急上昇中です。

 天安千樹の中はショッピングモールですが、開館間もないこと、都心からやや離れているためか、ほとんど人がいませんでした。ヘザウィックの建築を見に来るもの好きでもなければなかなか訪れないのかもしれません。

お手洗いに行こうとしたら不意に現れる奈良美智

 徒歩圏内にあるM50と合わせて巡ることで、産業遺構から最先端の建築まで、上海の変化する都市像を体感できます。どちらも蘇州河沿いに位置し、産業遺構から先端的な建築まで、上海の多面的な街づくりの姿を映し出しています。

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