チェブラーシカのグッズの販売権がロシア企業との間で二重契約状態だった事件(東京地裁R2.6.25)〈著作権判例紹介〉
チェブラーシカのグッズを日本で販売する行為が、キャラクターに係る独占的利用権を侵害するとして、米国のアニメ制作会社が損害賠償を請求した事案です。
裁判所は、独占的利用権が侵害されたとして損害賠償請求ができるのは、利用権の専有を確保された状況にあるときだけだとして、ロシア企業との関係で二重ライセンス状態になっており、原告は請求できないとして、請求を棄却しました。旧ソ連法の解釈など複雑な事案が争点となりました。
概要
1.当事者
原告: アニメーション作品の事業開発、ライセンスの米国企業。
被告(チェブラーシカ・プロジェクト有限責任事業組合): キャラクター商品の企画、製造、販売業の有限責任事業組合。
TXBB(テレビ東京ブロードバンド株式会社): 被告の組合員だったが、2015年に脱退。
SMF(創造製作組合映画スタジオソユーズムリトフィルム): ロシアの国営単一企業。
2.SMFとTXBBとの間の契約
契約内容(2005年締結):
SMFの許諾:TXBBが「チェブラーシカ・シリーズ」のアニメ映画に関する独占的利用権を取得。包括的な利用権(商品化等)の許諾。
許諾期間:2014年12月まで。3万米ドルの支払いで10年延長可能。
3.SMFと原告との間の契約
契約内容(2016年締結):
SMFの許諾:原告がチェブラーシカなどのキャラクターの独占的利用権を取得。利用権はアジア全域で有効。
許諾期間:2016年9月から2021年8月まで。
4.被告の行為
日本でチェブラーシカなどのキャラクターを利用した商品(ぬいぐるみ、トートバック、ピロシキなど)を販売。
争点
1.SMFに本件キャラクターに関する商品化権が帰属しているか(争点1-1)
原告の主張
ソ連の国営映画製作会社である旧SMFに、キャラクターの商品化権が帰属していた。
理由:当時のソ連では企業の職員が創造したものは企業に帰属。ロシアの裁判所も同様の見解。
ロシア連邦最高裁判所総会の決議により、1992年8月3日以前に製作されたアニメーションフィルムのキャラクターの権利は撮影企業に帰属するとされた。
旧SMFの資産は現SMFに承継された。ロシア連邦政府もSMFが独占的権利を継承すると明示している。
被告の主張
キャラクターの商品化権がSMFに帰属していることの証明は不十分。
理由:ロシア・ソビエト連邦民法典第486条に照らせば、キャラクターの創作者エドゥアルド・ウスペンスキーに初期帰属している。
旧SMF製作の映画の著作権がSMFに帰属しないと判断した米国判決がある。
2.原告の独占的利用権(争点1-2)
原告の主張
原告のライセンス契約は有効。原告の独占的利用権に基づき、損害賠償請求が可能。
SMFが契約報酬を受領し、契約書を銀行に提示している。
SMFの代表者も原告に対する独占的利用権の付与を認めている。
被告の主張
原告のライセンス契約は無効。
契約書の記載に誤りや疑義があり、追加契約書の成立も不確か。
仮に契約が有効でも、許諾は並行的に行われ、独占的ではないため、原告は権利侵害を主張できない。
3.被告がTXBB契約を承継したか(争点2-1)
被告の主張
TXBBの契約の地位は被告に承継されている。
合意書の締結や実際の製作・配給活動を通じて、SMFも承継を認識している。
原告の主張
契約の当事者はTXBBであり、被告ではない。SMFが承継を承諾した事実はない。
4.TXBB契約の更新(争点2-2)
被告の主張
延長料の支払はないが、契約は延長されている。
延長オプションを行使し、支払いの提供を行ったが、SMFの口座が閉鎖されていた。
原告の主張
延長料の支払がない以上、契約は終了している。
5. TXBB契約の解約の有効性(争点2-3)
原告の主張
ロシアでの被告の映画の上映行為が契約違反であり、契約は解除された。
2015年の書状で解除の意思表示がされている。
被告の主張
ロシアでの上映は被告が行ったものではないから、解除原因はないし、解除の意思表示も存在しない。
6.黙示の利用許諾(争点2-4)
被告の主張
SMFは被告に商品化権の利用を黙示的に許諾している。延長期間後も商品化の権利利用を中止する請求がされていない。
原告の主張
SMFは原告に独占的利用権があると明言している。
第3 裁判所の判断
争点1(損害賠償請求の成否)
1.独占的利用権の主張
第三者に損害賠償を請求するには、商品化権を独占的に使用し、販売利益を享受しているという事実状態が必要。
そのためには、原告が、SMFとの契約に基づく独占的利用権を有しているといえるかを検討する。
2.認定事実
契約締結:2005年にTXBBはSMFと契約を締結し、商品化権を許諾され、日本でグッズを販売。
被告設立:2013年、被告が設立され、映画製作と商品化権のライセンス契約を進める意向を示した。
上映許諾と抗議:2014年、被告映画のロシア上映がSMFの抗議により一旦中止されるも、後に再開された。
二重ライセンス:2014年、SMFが香港法人に対し二重にライセンスを与えたことが発覚し、TXBBが抗議した。
更新料の支払い問題:TXBBがSMFに対し更新料の支払先を問い合わせるも、SMFは拒否した。
原告ライセンス契約:2016年、原告がSMFと独占的利用権を定めた契約を締結。しかし、原告が日本で商品を販売した事実はない。
原告と被告の交渉:原告が被告に対しサブライセンスを求めるも、被告はSMFとの包括的解決を求めた。
3. 原告の独占的利用権の欠如
原告は商品化権を専有しておらず、SMFも原告の利用権の専有を確保する行為を行っていない。
SMFは被告に対し権利侵害の警告や法的措置を取らず、二重譲渡の状態を認めるような姿勢を取っていた。
4. 原告の主張の否定
SMFの代表者の陳述書はあるが、他に独占的利用権を認める行為は見られず、原告の独占的利用権の専有は認められない。
原告が契約上の地位に基づいて商品化権を専有している事実状態が存在せず、被告に対する損害賠償請求は認められない。
結論
請求棄却。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?