行くと決めて、行った奴にしかそれはわからない
休みの日は自転車で120キロくらい走る。
そう言うと大抵の人は驚きのリアクションと同時に「自転車でそんなに走れるもんですか?」とか「無理~!」とか、そんな言葉が帰ってくる。
平均時速20キロ程度でゆっくり走っても、6時間で120キロ走ってしまうし、五体満足で自転車に乗れるのなら無理でも何でもない。
しかし、これがスポーツ自転車に乗る人の中にも同じようなことを言う人がいるので不思議だ。
「まだ100キロ走った事が無いんですよぉ。走れますかねえ?」って知るかボケ、走って来い走れるから。
先日、高校生の長男が、友達とサイクリングに行くから自転車貸してくれというので、改造クロスバイクを貸してやった。手組のホイールにチューブラー仕様だ。
どこまで行くのか聞くと、「友達は江戸川の始まるところまで行きたいってさ。」と言う。
往復で120キロ弱ある。
持ち時間の半分走ったら戻って来いとアドバイスした。
長男はそれまで30キロ程度の距離しか走った事が無い筈だが、あまり心配はしなかった。問題は時間配分で、日が落ちればサイクリングロードは真っ暗になるから走行に支障が出る。そこだけだった。
普段父親が自転車で出かけては、今日はどこそこまで行って、距離は160キロだったなんて言っているから、感覚的に可能だという事は理解していたのだろう。後は経験したかしないかの差だけだ。
果たして彼らは日がとっぷり暮れて後、夜の8時頃になってようやく帰って来た。
どうやら江戸川と利根川が交わるところまで行って来たらしい。
帰ってから多くは言わなかったが、何かしら得るものはあったのだろう。
自信? 達成感? 充足感? 友達との連帯感?
しかしおそらく、一番大きかった事は、行くという意志を現実のモノにした事ではないのか?
行きは強い北風が吹いていて、きっとキツいだろうなと思っていた。しかし、向かい風にも心折れる事無く、当初の目的地を目指して、その目で見て帰って来た。道中、うどんの美味いところを教えておいたが、そこでの食事も旅の彩りだったろう。
たかだか60キロ先。エンジンのついた乗り物ならすぐそこだ。苦労して自転車でそんな距離を走るなんてと思う人もいるだろう。「無理~!」の言葉の裏にはそんな意識だってあるんだ。
自分の意志で、自分の力だけで走った。 彼らには冒険の旅だったんだ。
行くと決めて、行った奴にしかそれはわからない。
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