混ぜ物
昔、トムクルーズ主演の映画、カクテルが公開されて、一大カクテルブームが起きた。
ミーハーな俺はカクテルに凝りまくり、自宅に50本くらいボトルを揃え、友達が遊びに来るたびに酒を振る舞い、しまいには通い始めたバーのマスターに請われて、週末はBARのカウンターの内側に立ってシェイカーを振っていた。
バーの内側から眺めた世界はそれなりに興味深く面白くもあったが、散々あらゆるカクテルを飲みまくった挙句、ある日突然混ぜ物が嫌になった。
まるで啓示みたいにその感じは降って来た。
それから何年かは、日本酒やワイン、ウイスキーやなんかの、混ぜ物じゃない酒ばかり飲んだ。
混ぜる以前に、膨大なワインやウイスキーや日本酒やその他様々な酒があり、そのごく一部しか飲んだこともないのに、混ぜ物の味をとやかく言うことが滑稽に感じられた。
洒落たグラスや、グレナデンシロップのグラデーションや薄暗い照明や気怠いジャズも悪くなかったが、酒の本質からはどんどん離れて行くような気がした。別にカクテル自体が嫌いになったわけじゃないし、最近になってたまに飲みたくなるし、吟味した材料で注意深く作ったカクテルには素晴らしいものもある。
ただなんだろう? 本質を置き去りにして、上辺でチャラチャラしているのに嫌気がさしたって言うのが本当かな。そう感じるまでは、俺も上辺で踊っていた一人だったんだろうけど。
演出も華やかさも楽しいし、あった方がいいのかもしれないけど、それは本質がきちんとしていてこそだと思うんだよな。その本質をおざなりにしたら、カクテルもそこで交わされる会話も、空虚な混ぜ物に成り下がるんじゃないかな。
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