極貧詩 319 旅立ち④
卒業生答辞 卒業生起立!
司会の先生の声が会場に響き渡る
卒業席右最前列から山本君がスッと立ち上がる
背筋を伸ばして演壇へとゆっくり歩く
自信にあふれた「大きな背中」が目に焼き付く
思えば小学生のころから優等生街道をまっしぐらに歩んできた
学業、家系、信頼度、他を全く寄せ付けない
しかしそんなことを全く鼻にかけない謙虚さをまとっている
演壇脇で深々と会場に一礼して演壇に立つ
手に持った折りたたまれた答辞文を静かに開いて前に掲げる
わずかな鼻をすする音、咳払いの一切が消えて静寂に包まれる
山本君のよく通る声が静寂の中に柔らかく響き始める
先生方、御父母の皆様方、御来賓の皆様方、在校生の皆様
本日は本当にありがとうございました
私たち卒業生37名は心からの感謝の念に堪えません
3年前満開の桜の花の下、希望を抱いて私たちは校門をくぐりました
先生方、先輩方が慈愛の心を持って私たちを迎えてくださいました
以来3年間は心を磨き、体を鍛えていただいた充実の月日でした
良き友、良き師に恵まれ、数々の忘れえぬ思い出が胸に刻まれました
今日中学校を巣立つ私たちに次の成長へのレールを敷いてくださいました
先生方に一言申し上げます
私たち37名に説いてくださったった学びの大切さは今後一生忘れません
御父母の皆様方に一言申し上げます
この学舎の環境を常に最善のものに整えてくださり感謝に堪えません
御来賓の皆様に一言申し上げます
地域の安全へのご配慮のおかげで3年間無事に過ごすことができました
在校生の皆様に一言申し上げます
小さい規模ながら誇りの持てる我が母校をよろしくお願いいたします
今後進みゆく私たち37名の道はそれぞれ違いますが懸命に歩んでいきます
本日は本当にありがとうございました
胸にしみわたる答辞に誘われ、誰からともなく聞こえて来る嗚咽
在校生席からもご父母席からも鼻をすする音
やや顔を赤らめた山本君が卒業生席の所定に一に戻る
卒業生起立!
蛍の光、仰げば尊し、斉唱!
困った!
胸にもやもやと熱いものが溜まり過ぎたこんな状態で歌えるだろうか
集中して練習したリハーサルの成果はどう出るだろうか
ポロロン、ポロロンとオルガンの音が鳴り始めた