極貧詩 338 旅立ち㉓
「いざ分かれ目」の最後の最後
担任の先生が俺たち貧乏三羽烏を呼び戻す
一人一人順番に「はなむけの言葉」
何で俺達だけにと疑心暗鬼
先生から俺達への愛情満載の心に刺さる言葉
それほど俺たちは印象深かったのか
それほど俺たちは目立っていたのか
それほど俺たちは気になる存在だったのか
それほど俺たちを気にしてくれていたのか
今となっては感謝の思いが胸深くから湧き出て来る
37名平等に「娘、息子」として目を配ってきたという先生
34名の同級生からの蔑みに近い好奇の視線が痛かった
より下の人間ははさらに下を求めて自己満足をする
俺達3人は一貫してその最下層に位置していた
先生の言葉が私の兄の思い出話に及んでくる
「イチッ!お前の兄さんも俺の中に強烈に残っているぞ」
「お前より5歳年上だったよな」
「お前たちよりももっと酷な状況をしのいでいたよ」
「クラスに体の大きなボスがいてな」
「経済的にも余裕のある家の男子生徒だった」
「陰でいろいろと悪さをしていたんだ」
「お前の兄さんは成績が抜群だったから余計に標的にされていてな」
「学校の行き帰りによく手出しをされていたよ」
「そのボスは言い訳が上手くて先生方も手を焼いていたんだ」
「悪さをされる方は仕返しが怖かったのかみんなじっと耐えていたんだよ」
「先生方もわかっていたんだけれども明らかな証拠がなかったんだよ」
「ある日お前の兄さんとその友達が放課後の掃除当番の時に酷いいたずらをされてな」
「その日帰ろうとしていた時自転車置き場でお前の兄さんを待っていて小突き始めたんだ」
「さっき掃除のときの酷いいたずらとそのいわれのない小突きに堪忍袋の緒が切れたんだろうなあ」
「竹ぼうきで滅多打ちにしてついには今までのことを泣いて謝らさせてな」
「お前の兄さんは良く畑仕事や家の手伝いをやっていたから体が強くてちょっとやそっとの事では動じなかったからな」
「今まで理不尽なことをさんざんやられていよいよ我慢の限界が来てたんだろうなあ」
「それはそれは鬼の形相だったそうだよ」
「小学生の時からずっといわれのない差別的な言葉を繰り返し受けてきていたからなあ」
「猛然と意を決して言ったそうだよ」
「俺たち貧乏人をいじめて何が楽しいんだ!」
「てめえに俺たちが何をしたっていうんだ!」
「てめえなんかちっともおっかなくなかったんだよ!」
「今度同じことをしやがったら容赦しねえからな!」
「そのボスは本当に怖かったらしくて大きな体を小さくして謝っていたそうだよ」
「その後は彼は改心して学校生活がすっかり落ち着いたんだよ」
「このことは先生の中では語り草だったよ」
「ただお前の兄さんはそのことを誰にも言わなかったそうだよ」
「まさに弱者のヒーローだ」
「お前の兄さんもこの学校に隠れた歴史を残してくれたんだよな」
先生は一気に話し終わるとじっと遠くを見やっていた
そして急に俺の顔を見返して言った
「イチッ、よく頑張ったな!」
「お前はお前のやり方で頑張って行けよ!」
「前途洋洋だ、これからさらに大変になるだろうけど負けるなよ!」
そして親友だという小学校時代の恩師安藤先生の俺評を聞いた時俺の涙腺は完全に崩壊した
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