極貧詩 318 旅立ち③
来賓あいさつが続く
馴染みのない人たちの「祝辞」は心に刺さらない
村長さん
村議会議長さん
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会ったこともなければどういう人なのかもわからない
粛々と「祝辞」が続く
そのたびに「起立!礼!着席!」
いささか食傷気味な気分に陥る
どの来賓も同じ動作を繰り返す
スーツの内ポケットに忍ばせた原稿を取り出す
時代劇で見るような折開きの手紙風だ
内容が似通っているのにも閉口する
「皆さんの頑張りは素晴らしいモノでした」
俺たちの日常を見ていたのかいと問うてみたくなる
長~~い来賓あいさつが終わると安どのため息をつく
在校生送辞、卒業生起立!礼!着席!
司会の先生の小気味よい号令が心地よい
卒業式が生徒の方に戻って来た感を深くする
送辞担当は中学2年生の「マドンナ」女子
後ろの在校生席から胸を張って卒業生席の右側を歩く
演壇の右側まで来ると前を向いて深々と長い一礼
演壇に着くと左手に持っていた原稿を取り出し大きく広げる
会場の全員の眼が演壇に釘付けになる
会場は物音ひとつない静寂に包まれる
来賓の祝辞に辟易していた卒業生の期待はいやがうえにも高まる
卒業生の皆様本日は本当におめでとうございます
私たち在校生は卒業生の皆様の数々のご指導を深く感謝しています
部活動では厳しく優しく労をいとわず私たちに接してくださいました
勉学面では日々努力して私たちに良き手本を示してくださいました
学校行事では周囲に気を配り成功へと導いてくださいました
地域社会では年長者を敬い年少者をいたわってくださいました
数え上げればキリがありませんが今後の私たちの指針にさせていただきます
本日をもってもうお会いできないかと思うと名残惜しさが募ります
卒業生の皆様一人一人の方が新しく進む道で奮闘なされることを祈ります
私たち在校生は皆様に頂いた宝物を大切に育てていく決意でいます
本日はおめでとうございます、そしてありがとうございました
会場のあちこちから鼻をすする音が聞こえて来る
もう涙をこらえきれないでいるのだろうか
俺は「まだ早い!」と目の奥の熱さをを必死で我慢していた
こんなにもしっかりした2年生がいてくれることが嬉しかった
寒村の中学校の新しきリーダーとして活躍してほしいと思った
我が母校として自他ともに誇れるような中学校であって欲しい
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