極貧詩 333 旅立ち⑱
「別れの木造橋」に向かってゆっくりと歩を進めていた
俺、ヤッちゃん、シゲちゃんの静かなエール交換
鼻垂らし3人組の今までの思いがほとばしり出る
小学校、中学校と変わらず友情関係が続いてきた
貧乏三羽烏は3人一体で9年間を過ごしてきた
陰に陽にかかる貧困ゆえの重圧に3人で耐えてきた
学校という閉鎖空間には1人だけなら耐えられない重圧があった
「自分より下」を蔑むクラスメートの視線が痛かった
「あの貧乏人たち」と言う聞えよがしの陰口が胸を刺した
貧困三羽烏の共通項の一つは「いい母ちゃん」
泥のように働きながらも「心の貧乏人にはなるな」の口癖
明るく振舞いながら「気にするな」と笑顔を絶やさなかった
母ちゃんたちは「別れの木造橋」にさしかかっている
明るい大きな笑い声がかなり離れたところまで聞こえてくる
悩みを吹き飛ばしてくれたその笑い声に改めて感謝の念が湧いてくる
最後に俺とシゲちゃんのエール交換
「シゲちゃんいろいろとありがとうな」
「俺の方こそ本当にありがとう、イッちゃん」
「毎日楽しかったよな」
「うん、ほんとに楽しかったよ」
「何をやるのにもいつも一緒だったよな」
「うん、何をやっても面白かったよ」
「山遊びでも川遊びでもアルバイトでもいつも隣にいてくれたよな」
「誘ってくれて嬉しかったよ、学校へ行くのも一緒だったよな」
「そう、俺がシゲちゃんを川向こうから呼んだっけなあ」
「うん、そうっだったよな、”シーゲちゃん、行くべえ” ってな」
「イッちゃんは時間に正確だったからなあ」
「シゲちゃんだってちゃんと待っててくれたじゃねえか」
「俺、イッちゃんすげえなって思ってたことがあるんだ」
「何だい?」
「5年の時に新聞配達始めたんべ、すげえなって思ったよ」
「何でだい?」
「だって新聞配達って4時前に起きたんだんべ?」
「そうだよ、慣れりゃあ平気だったよ」
「そりゃあ、一日二日ぐれえだったらいいよ、それが毎日だったもんな」
「どうってこたあなかったよ」
「そうか、やっぱり根性あったんだよな」
「一番良かったんは、現金がもらえたことだよ、少しでも母ちゃんの助けになるだんべかって思ってな」
「すげえよな、俺ん家の母ちゃんもいつも褒めてたよ、俺にはとてもじゃねえけどマネできなかったよ」
「俺もちょっとこづかいもらえたしな」
「でもそういう根性があったからイッちゃんはこんなに伸びたんだんべとおもうよ」
「5年の後半から人が変わったように勉強も頑張ってたもんな、高校入試じゃ、あの山本君に勝ったんだもんな、すげえ話だよな」
「シゲちゃんだって中3の後期からすげえ頑張り始めたじゃねえか」
「うん、気がついてよかったと思ってるんだ、工場の社長さんたちのおかげだよ」
「それからのシゲちゃんはまるで別人だったじゃねえか、すげえよ」
「でもちょっと遅かったけどな」
「遅えとか速えとか関係ねえよ、気がついた時が始まりだんべ」
「うん、そうだよな、これからもっと気合を入れるよ」
「すげえなあ、頑張れよ、絶対うまくいくだんべ」
「イッちゃんも山本君や町のやつらに負けねえように頑張ってくれよな」
「うん、頑張るよ、俺、シゲちゃんにお礼を言いたいことがあるんだ」
「何だい?」
「おめえんちの母ちゃんのことだよ、いつも俺の母ちゃんと仲良くしてくれたんべ、母ちゃんがいつも”いい人だ、いい人だ”って言ってたよ」
「俺ん家だって同じだよ、よく頑張ってて偉え人だっていつも言ってたよ、大変だんべけど文句ひとつ言わずによくやってるなって」
「シゲちゃん、これからも親友でいてくれよな」
「何言ってるんだよ、あたりめえだろ、そりゃあ俺が言いてえことだよ」
「ヤッちゃんも一緒にこれから一生懸命頑張んべえな」
「うん、頑張って少しでも親を楽にしてやるべえな」
親孝行のシゲちゃんらしい言葉を聞いてシゲちゃんの心からの思いが伝わって来た
言葉から、表情からこれからのシゲちゃんの成長ぶりが目に見えるようだ
中学校卒業のその日に俺、ヤッちゃん、シゲちゃんとのお互いのエール交換ができてこんなに幸せなことはない
俺たち貧乏三羽烏の友情関係は今もこれからも続くだろうと確信できた