極貧詩 341 旅立ち㉖
先生は俺の目を食い入るようにじっと見る
「早く話せ」と目が言っている
俺は転機の出来事を話し始めた
「小5の後半のことでした」
「産休代理の先生の国語の授業の時でした」
「また退屈な国語かあ、と投げやりな感じでいました」
「今日は作文よ!と先生はニコニコ顔でした」
「そんなのヤだよ!」
「めんどくせえなあ!」
「書くことなんかねえよ!」
「俺たち貧乏三羽烏はもちろん多くが不平三昧でした」
「はい、静かに!原稿用紙を2枚ずつ配りま――す、と楽しそうでした」
「先生のおどけた言葉がみんなをイラつかせました」
「作文の題は自由です、800字以内で書いて下さ――い、が合図でした」
「長く伸ばす語尾が気に障りましたが、みんなあきらめの境地でした」
「まあ、しょうがねえ、書くか」
「イヤイヤ軍団も覚悟を決めました」
「何を書こうか考えていると体育の授業が思い出されました」
「その時は体が小さかったので跳び箱ができませんでした」
「悔しかったので夏休みに学校へ行って猛練習しました」
「そうすると夏休みが終わるころまでには飛べるようになりました」
「しかも踏切版を跳び箱から2,3メートル離しても飛べるようになったんです」
「僕は小さい、という題でその時のことを書きました」
「意外とスラスラと鉛筆が進んで一気に書けました」
「シゲちゃんもヤッちゃんも他の不平軍団もみんな空中を見ていました」
「真面目に書いていたのは女子数人と男子は山本君と俺と数人でした」
「それでは時間で――す、と原稿用紙が回収されました」
「しっかり書けましたか、良く書けているといいわね、と先生は嬉しそうでした」
「実はその作文がとんでもないことになったんです」
「2回目の授業の時、驚くような発表があったんです」
「早くその先を話せ」と先生は目で催促していました
シゲちゃんとヤッちゃんはそのことを知っていたのでニヤニヤ顔でした
懐かしさのあまり、視線は空中をさまよっていました