パイロットは臆病者
こんにちは、あらいぐま機長です。
今日のテーマは『パイロットは臆病者』
釣りみたいなタイトルをつけちゃいましたが、これパイロットにとってほんとに大事なことなんですよ。
とはいえ『石橋をつついて渡れ』とかそういうことではなくて、ちゃんと科学的な根拠や人間の心理を理解してリーズナブルな行動を取れるようになりましょうという話です。
パイロットを目指す人以外にも役に立つ話だと思うので、ぜひ最後まで読んでください!
正常性バイアスとは?
さっそくなんですけど、『バイアス』という言葉を聞いたことがありますかね?
認知心理学で研究されていることなんですけど、人間の行動決定プロセスっていうのがあって、その中で人って非合理的な行動をとってしまうことがあるんですよ。
その原因の一つがこの『バイアス』ってやつなんですけど、確証バイアスとか、正常性バイアスとかいろんなバイアスがあります。
それで今日はこの『正常性バイアス』に注目して話をします。
正常性バイアスっていうのは、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価してしまう特性のことです。
最近あった出来事を例に紹介すると、この前子供と一緒に街を歩いていたら、20mくらい前から大きな声が聞こえてきたんですよ。
なんだろうと思って立ち止まって見てみると、変なおじさんが通りかかる人に向かって怒鳴りながら歩いてきてるんですよね。
『うお、こえー!!』って思ったんですけど、僕の前を歩いていた人とか、全然気にせずにそのままそのおじさんの方向へ歩いていくんですよ。
今回はその変なおじさんじゃなくて、周りの人の行動について考えてみて欲しいんですけど、たぶんその頭の中って、『たまにいるよなーこういう人。でもたぶん自分に攻撃をしてきたりしないだろう。』という感じだと思います。
これって人間にとって普通の考え方で、正常化バイアスが働いているんですよ。
今までにこれに似た状況を経験したことがあるけど、その時も大丈夫だったから今回も大丈夫。人の頭はこう判断してしまうんですよ。
これって人の心理を守るために必要な機能で、毎日毎日『この状況はやばい!逃げなきゃ!!』なんて考えていると安心して過ごせないですよね。
だからメンタルを守るためにこの正常性バイアスが働くんですけど、この正常性バイアスが正しい行動決定を邪魔してしまうことがあるんですよね。
結果的にこのおじさんは誰に殴りかかることもなかったんですけど、僕は子供を連れていたこともあって別の方向へ逃げました。ビビリなんです。
でもそのまま近づいていくのってほんとは結構リスキーですよね。
だってこのおじさんが刃物を持っていて急に襲いかかってくることだってあり得るわけじゃないですか。それに回避するのだってちょっとまわり道をすればいいだけで、そんな手間でもないですよね。
ちょっとしたことで大きなリスクを回避できるなら、そっちをとる方が合理的ですよね。
バイアスが合理的判断を阻害
他に正常性バイアスが正しい行動を邪魔してしまう例としては、地震の時です。
日本は地震が多いので僕も慣れてしまっていますが、ほんとは危ないじゃないですか。それなのに夜地震で起きた時なんかに、たぶん今回も大丈夫なんて思ってしまってそのまままた眠ってしまったりします。
だいたいは大丈夫なんですけど、本当はちゃんと震度とか調べて、非難が必要かどうか考えてっていうのが必要ですよね。
パイロットの意思決定プロセス
これってパイロットの意思決定プロセスでも一緒なんですよ。
フライトをしていて、ちょっと気になるリスクってちょこちょこ出てくるんですよ。
前の飛行機がATCに『揺れてるんで高度変えます』ってレポートしてたり、ウェザーレーダーにちょっとしたエコーが写ったり、天気予報では到着地の天候がよかったはずのに、フライト中に天気をとってみると何故か霧が出てしまってる、とか。
もともと悪いと思って警戒していたらすぐに対応できるんですけど、『今日は快晴でどこも揺れないしめちゃくちゃいい天気!今日は楽勝だ!』なんて思っていたとしたら、この正常性バイアスが働いてしまって『たぶん大丈夫。このまま行こう。』なんて判断をしてしまったりします。
もちろんそれで大丈夫なこともあるんですけど、お客さんを乗せてるんだから、それじゃダメなんですよね。ちゃんとリスクを評価して、その上でどう対応するか判断しなければいけません。
人によってこの正常性バイアスが強い人と弱い人がいるんですけど、これが強すぎる人はパイロットには向いていません。ちゃんと臆病になれるって大事なことなんですよ。
今日はここまで、パイロットは臆病者。正常性バイアスの話でした!
じゃあまた次回!最後まで読んでいただきありがとうございました!
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