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◤点火◢街の記憶を灯す広告マッチ

◤街の記憶を灯す広告マッチ◢


〝人生は一箱のマッチに似ている
 重大に扱うのはばかばかしい
 しかし重大に扱わなければ危険である〟


マッチと聞いて思い出すのは、
芥川龍之介が人生について表した文句だった。



今では滅多に使うこともなくなった、
魔法のような発火具・マッチ。

手のひらサイズの箱を振るとシャカシャカと音を鳴らし、一本手に取ってヤスリ部分を勢いよく擦れば、小さな炎が勢いよく燃え上がり、特有の香りが鼻先をそっと撫でる、一手間も二手間もかかるアナログなアイテムだ。

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そんなマッチが、かつて販促グッズの中核を担っていた時代がある。

近年、SNS上でも多くの人の目を引く広告マッチラベルの数々。レトロでモダン、どこか懐かしくも新鮮で、洗練された格好良さが刻まれている小さなパッケージ。

スクラップブックを開くと広がる、
段々に活気を帯び始めてきた街の記憶。

その一つひとつにストーリーがある。



今回、ひょんなことから、
昭和30年代の佐世保内外のお店を中心としたマッチラベルコレクションを譲り受ける機会を得た。


ハンドメイド感たっぷりのデザインに書体、
「エレベーターに乘って」「暖冷房完備」の
キャッチコピーは、当時何がPRポイントだったかも窺える貴重な芸術品だ。

「今の社会に張り巡らされた配色デザインと何が違うんだろう——」

そんな素朴な疑問を抱くとともに、
デザインのレベルの高低は、
時代も地域も関係のないことを知る。

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発火具としては100円ライター、販促品としてはポケットティッシュに取って代わられて、使うことは疎か、姿を見ることも少なくなったマッチ。

ただ、ライターやポケットティッシュと圧倒的に異なるのは、街の記憶を蘇らせるスイッチとしての役割だ。

「ここって、 前は何のお店が入ってたっけ?」

空き店舗や新店舗オープンのたび、
思い悩んでは、記憶の中からなかなか答えを探れない、日常によくある問いだ。

そう考えると、マッチラベルがコレクションされたスクラップブックは、そのまま街のアルバムなのだと気づく。

マッチのように仄かに温かな明かりを記憶に灯して、郷愁がボワッと広がる時間。

開発が進む中で消えていった路地裏、
忘れ去られた街並み、かつてのランドマーク。

その束の間の記憶との会話は、
燃えている間だけ幻影が映る「マッチ売りの少女」のワンシーンのよう。

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長崎市は鍛冶屋町にある老舗喫茶店「冨士男」。

この週末、初めて足を運び、ウィンナーコーヒーを啜って、時の止まったような店内に沈潜した。

「わぁ、すごい!」

会計の際、携えたスクラップブックを広げると、お店の方が驚いてくださった。

数日前までは僕の持ち物ではなかったのに、まるで自分のコレクションのように扱うのは気が引けるが、旅をしながら数十年ぶりに古巣へと戻ってきたデザインに、人々の記憶やエピソードに明かりを点火することができる、温かな可能性を感じた瞬間だった。


何が人々の記憶を呼び戻すかは分からない。

ただ、街の移り変わりを刻んできたマッチラベルは、人々の記憶を優しく撫でて解しながら、マッチの発火の如く一瞬で「あの日」へとタイムトリップさせるパワーがある。

と同時に、丁寧に記録して、今日まで保管し続けてきたアルバム作成者の在りし日を貴く思う。


● ◯ ●

ノベルティアイテムの横綱として、
お店の数だけ多くのデザインが存在したマッチラベル。

昭和30年代の街の息吹を新鮮に覚えた作品の数々に、人生が燃え尽きるその日まで、どれだけの記憶を懐かしむことができるのだろうと、世代の共通項としてのノベルティを羨ましく思う。

一箱のマッチラベルデザインには、
多くの人々の人生の「一日の句読点」が詰まっている。

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