推しを求めて5泊6日の旅 その2〜お久しぶりです夜行バス〜
6月3日深夜。私は駅のバス乗り場に立った。
推しに会いに行くためだ。
推しについては「その1」で記載した通り。だが、今回の旅を計画している途中、別の推しのイベント情報が入ってきたのだ。
さて、これを読んでいる方は ヒプノシスマイク をご存知か?
3人でチームを組んでラップバトルを繰り広げる主に木村昴氏や浅沼晋太郎氏等有名声優が演じている奴である。このコンテンツにも私の推しがいる。詳しくは書かないが、私が好きなのは紫チームでその中でも推しなのは弁護士である。弁護士がラップをする世界とは。
そしてその推しの声帯つまり声優のイベントが4日に開催されるのだ。
え、なにこの奇跡。どうして熊本行く予定の日と日付並んでるの?行けってこと?空港行くために東京行くならせっかくなんだし行けってこと?
直様イベントに応募した。チケットとれた。格安カプセルホテル探して予約した。
そして迎えた3日である。
今更だが、今回の旅行のスケジュールはこちらである。
3日……夜行バスに乗る
4日……東京着。推し声優のイベント
5日……飛行機で熊本へ
6日……熊本
7日……飛行機で東京へ、そして夜行バスに乗る
8日……地元駅着
これを見た友人らにはハードスケジュールだと引かれた。
こうして私は真っ暗なバス乗り場に1人立ち尽くすこととなった。数年前ユニク□で購入した黒いリュックサックを背負い、「かるいかばん」シリーズのショルダーバッグを肩から下げた私を見た母は私を見て「裸の大将?」と言った。同感である。おにぎりが食べたい。
久しぶりに乗り込んだ夜行バスだ。コロナが流行りだして以来のオリオンバス。黄色い車体を見て思わず「お久しぶり」と呟いていた。
バスの座席は四列。よくある長距離用のバスである。
私の席は後方寄りの通路側。ふくよかな体型の私にはありがたい。窓側の席の人になるべく迷惑にならぬようにできるだけ身体を通路に寄せた。サービスエリアに止まるトイレ休憩タイム以外で通路を歩く人はいない。それを良いことに私は己の身体をとにかく通路側に反らして寝た。
翌朝、身体はバキバキだった。おかしい。数年前の私は今回と同じ様にバスに乗っていても爆睡し翌朝も元気百倍だったはずだ。これが老化……。
新宿駅に降り立った私の最初の試練は、化粧だ。
スッピンにマスクと眼鏡、そして帽子という不審者丸出しスタイルの私が最初に向かったのはトイレだ。用を足すのではなく、化粧をするためだ。
案の定トイレは激混みだった。私と同じ様に夜行バスから降りた猛者達で溢れている。
地方在住で行列に慣れていない私は、すぐに諦めた。そして予約していたカプセルホテルに向かった。トイレの待ち時間の間にスマホを弄くり調べてみると、このカプセルホテルはなんとシャワーを貸してくれるのだ。チェックイン前だからお金取られるけど。だが、やはり推しに会う前に身支度は整えたい。
私は山手線に乗り、新大久保駅へ向かった。
お久しぶりです山手線。はじめまして新大久保。
駅から出た私は韓国味あふれる町の中を早歩きで駆け抜けた。残念なことに私はK-POPに関心がない。もし、私の推しがK-POPアーティストだったら発狂してたであろう町中に予約していたカプセルホテルがあった。
お金を払い、シャワーを浴びて、化粧により人間の顔を手に入れ、リュックサックを預けた。荷物はショルダーバッグのみ。これで推しに会う準備は整った。
いざ、現場へ。と、いきたいところだが、推しのイベントは午後からだ。この時の時刻は朝の9時。
東京観光しました。
そんなこんなで気が付けばイベントの時間。
私は会場である歌舞伎座タワーへ足を踏み入れた。自動ドアを越えると紫のトートバッグを持つ人やどこかで見たことのあるグッズを携える人らが数名ベンチに座っていた。オタクだ。仲間だ。会いたかったぞ同士よ。ツイッターだけの存在じゃなかった、オタクは本当にいたんだ。
私は興奮によりはげしく動悸する心臓に静まり給えと呼びかけながらエレベーターに乗り込んだ。同じ会場へ向かうであろうお姉様数名と一緒だ。やぁ同士、御機嫌如何?
そして私は会場に入った。指定された席に座った。定刻になった。
推しが現れた。
私は脳内で悲鳴を上げた。歓喜の悲鳴である。
私はこの推しを生で見たことは過去に数回ある。しかしそれらは朗読劇やライブであり、距離があった。だからこそまだ正気でいられた。
それがどうだ。手を伸ばせば届くといっても過言ではない距離に推しがいる。あ、生きてる。呼吸してる。ありがとう、世界。ありがとう、宇宙。私が宇宙に感謝している合間にイベントはどんどん進行していく。
推しとゲストである推しの後輩が楽しそうにキャッキャッと会話をしているのを見て、私は「この平和な時間よ どうか永遠に続いてくれ」と祈った。
演技をする推しはもちろん好きだ。私は彼の演技や演じるキャラとの付き合い方等役者としての彼に惚れたのだ。だが、それだけではなく推しが後輩、先輩、同業者と接するのを見てなんて優しい人、見ていて気持ちの良い人なのだろうと思った。
その気持ちの良い推しの姿を見て気絶しなかった私、偉い。
イベントのコーナーで推しとゲストのサイン入りグッズが貰える抽選会なるものがあった。当選者へは推しが直接席に向かいグッズを手渡しするというとんでもない企画である。
私は当たらなかった。が、私の隣の席の人と前の席の人が当たった。私ある意味運がいい。
推しと後輩が私の席の方へ向かってきた。目的は私ではない。だが渡しに向かってきていると行っても過言ではないのでは?!?と当時の私はキモオタムーブ満載でウハウハした。
マジで、めっっっっちゃ近くまで、推しが来た。
サイン入りグッズは貰えなかったが、あんな近距離で推しを見る機会なんてもうこれから一生ないと思う。ありがとうございます、隣の席の人と前の席の人。
こうして1部2部とイベントを観覧した私は、購入したグッズでぱんぱんのエコバッグを肩から下げホテルへ向かった。バッグからは推しのタペストリーが突き出している。
「このタペストリー、リュックに入るかな…飛行機、乗れるかな…」
電車の中で私は不安になり泣きそうだった。