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土曜日の朝、霧雨の降る農園で

フランスでの初めての展示は、有機農法(BIO)の農園で毎週土曜日の午前中に開催されているマルシェになった。

その日は朝から曇りで、去年イストルに着いてから描いた素描とアブダビにいた時に描いたもの数点、今回の展示に合わせて描いた小さなタブロー2点を車に詰め込み、子供達と夫と共に朝の8時に家を出た。

何しろ、マルシェのはじまる9時までに搬入をしてスタンドを準備しなければいけない。前日は興奮してうまく眠れなかった。

ギャラリーでの展示のように、前日にバッチリ搬入して、壁に並べてといった作業もなく、朝採れたての新鮮な野菜の並ぶお店の横で、絵を並べるのだ。

予報は曇りだったのに、車で15分ほどの道中で霧雨が降り出した。
夫とパラソルを忘れたことに気付き、引き返そうか、どうする?なんていっている間に農園に到着した。

マルシェに誘ってくれた農園主のブリジットさんに挨拶をするも、
「この雨だから無理にお店を出してとは言えないし、来週以降にする?そうしましょう!」と言われる。しかし来週以降の週末は外せない予定があり、夏は日本に一時帰国するので、次の機会は秋になってしまう。
なんとかやりたい!やらせてください!と伝えた。

こちらの農園では、メインの直売所の向かいで、10点前後のスタンドが立つマルシェが行われている。
内容は、季節の果物や食品、コーヒーやパンやお菓子、木工や陶芸などの手工芸品、古着屋やマッサージ屋など様々なお店が並ぶ。
農園の野菜はどれもとても美味しく、簡単な調理しかいらない。
特に旬のいちごは、とっても甘くてこれぞ季節のご馳走という感じだ。
私たち家族は、月に1回ほど野菜を買いに来ていて、息子はこの農園の森で虫探しをするのを楽しみにしていて、虫好きの息子を褒めてくれたのをきっかけに顔馴染みになった。

ブリジットさんは、去年、街の絵のコンクールに作品を出品しているのを偶然見てくれたようで、「あなたアーティストだったのね!今度うちのマルシェで絵を展示してみない?」と誘ってくれたのだった。

私はこの農園もマルシェの雰囲気も好きだったし、今までマルシェに出品をしたこともなかったので、これはいい経験になりそうだと思い、OKした。
そんなわけで、絵を額に入れたり、マルシェでの絵の販売はどんなふうにするかと考えてみたり、子供たちの体調が心配だったり、夫のサポートを仰いだりしてようやく当日を迎えたのだが、あいにくの雨で中止は悲しすぎると思い、霧雨の降るなか、きっと大雨にはならないだろうと鷹をくくって出店することにした。

とりあえず、夫が家までパラソルを取りに帰ってくれるというのでお願いして、車から作品を濡れないように運び、場所を確保。今が旬の桃と杏子のスタンドの隣が空いていた。
2人の気の良さそうな若者がせっせと商品を並べている横で、5歳の息子が
張り切って私の作品をテーブルの上に並べだした。
ちょうど隣のパラソルが大きかったので、若者の1人が濡れないようにこっちに寄っていいよと言ってくれて、なんとか設営することができた。


桃、杏子スタンドの若者とマダムの会話を盗み聞きしたりするのも良き時間だった。

絵を並べ終え、釣り銭のお金をクッキーの空き缶に入れて、約束の9時までにはなんとかお店を拵えることができた。
張り切って店番をしてくれる息子の姿を見るだけで、なんだか心が洗われた気持ちがした。雨もその後ひどくはならず、予報通りの曇り模様となった。

ギャラリーやカフェなどでの展示しかしてこなかったので、マルシェでの展示はかなり挑戦だったのだけど、朝から無農薬の野菜を買いにくる人たちが足を止めて見ていってくれたり、他のマルシェの出品者と話をしたり、隣の桃、杏子スタンドの気のいい若者が売れ残った果物を持って帰っていいよといってくれたり、なんだか終始ニコニコしているうちに展示は終わってしまった。

子の純粋さに特に救われた日

イストルに来てから初めてできた友達家族も見に来てくれ、思いがけず友人の子供がアブダビで描いた青い鳥の作品を欲しいといってくれたので、1点は飛び立っていったが、他には絵は売れなかった。予想はしていたし、収穫は大いにあったのでやったことを全く後悔はしていない。

ある意味、自分には理想と思える環境で絵を飾ることができたので、よくやったと自分で自分に言い聞かせた。

私は長いこと、自分の作品をギャラリーのような守られた環境で展示をしてきたけれど、もっと気軽に外の世界に飛び込んでいってもいいような気持ちになった。これからは求められるところで、自分の力を信じて作品を作って見ようという気持ちになれた。

タダでもらった売れ残りの桃と杏子はソルベにした。息子は思ってたより
美味しいと言ってお代わりしていた。






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