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私の血管は細い。

毎年なんとなく年明けごろ行くことにしている人間ドック。今年も行ってきました。

検診着一枚で院内をうろうろするのは寒いので、フリースの上着も持参して、寒さ対策はバッチリ。

更衣室で着替え終わって、ふと姿見で自分を見ると、ワーオ!眉がない!

検診が終わったら帰ってテレワークするだけだしなと、すっぴん&マスクで来てしまった私の顔は、眉が半分ないのが異様に目立って不気味でした。


あげていた前髪を下ろしてごまかしつつ、スマホで電子書籍を読みながら名前が呼ばれるのを待ちます。

特に深い意味はないけれど、病院の待合室で読む用にしている『蒼穹の昴』シリーズ3巻合体版。今年で三年目になりますがまだ二割も進んでいません。

意外と内容は覚えているもので、すんなり続きから読み進めます。

先生の触診、マンモグラフィー、胸部レントゲンなど、検査がサクサク進みます。

続いて流れ作業コーナー。身長体重、眼圧、視力、採血、心電図、聴力の検査が一直線で行われます。

なんと体重が減っていた!よっしゃ!去年より減っていたらご褒美にミスドを食べようと思っていたので、機械から出てきた紙に印字された結果をみてニンマリ。


そして採血です。

スタッフのお姉さんは、私の腕を見るなり「血管細いですね〜」としばし眺め、

「あとで看護師さんにやってもらいましょ!」

チャレンジすることもなく、潔く私の採血を諦めたようでした。

そう、私の血管は細いのです。

今まで多くの看護師や臨床検査技師たちを泣かせてきた血管。たしか去年の人間ドックも、別室で「居残り採血」をした記憶があります。



さて、人間ドックのメイン(だと思っている)バリウム検査も終え、採血を除くすべての検査が終了。私は別室に案内されました。

若い看護師さんに迎えられ。おや…大丈夫?

この肘の内側は何人もの看護師たちが飛び越えられなかったわけで。私としてはベテランそうな人に任せるのかなと思っていたのですが…


まず採血管のラベルの本人確認をします。採血管は4本。

「いつもどっち側の腕で採血してます?」

どっちで成功したかなんて覚えていないので「はぁ、覚えてません」と伝えると、

「じゃ、右から行きますね〜!」

駆血帯を巻いて、肘の内側をしばらくペチペチ、フニフニしたあと、「アルコール消毒でかぶれたりしませんか〜」と確認が入ります。お、イケそうか?

「チクっとしますよ〜」

私は血が採られている時は自分の腕の様子は見たくないので、極力壁のポスターを眺めることにしています。

「ほう、夏でもアレルギーになることがあるのね」

「なるほど、睡眠時無呼吸症候群の可能性がある人向けに、『睡眠検査』というものができるのか…母に教えてあげよう」

…それにしてもずいぶん時間かかっているもよう。

看護師さんは採血している間も私の肘の内側をフニフニしています。あまり血が出てこないのかな?

もともと低血圧だけど、やっぱり歳を取ると血の勢いもなくなってくるのでしょうか。

年々感じる老いに思いを馳せていたらチクっと痛みがあったので、「うっ」と体をくねらせると、看護師さんが「痛いですか?じゃ、針を抜きましょうね」と抜いてくれました。

採血管を見ると、なんと4本全部カラ

その絶望たるや。

カラの採血管を見て絶句していると、看護師さんは「左側みてもいいですか?」と申し出ました。そして、その背後に彼女と同じような若手の看護師が三人、こちらを見守っているのに気づきました。

もしかして彼女ら研修生かな?

だとしたら私の腕はレベル高すぎでは。いくら実践練習とはいえ…

とはいえ「ベテランを出しなさいよ!」なんてゴネるわけにもいかず、私は体勢を変えて左腕を差し出しました。

案の定、左腕も失敗。

「ちょっと水分取りましょうね」と看護師さんにもらった紙カップの水を口に含むと、キンキンに冷えてやがる…

採血の時は持参した上着も羽織れません。院内も暖房が効いているとは言えず冷えます。なんでお湯にしてくれないかな…サム


「横になった状態で採血させてほしい」という看護師さんたちの申し出があったのでそれに従い、ベットに移動しました。

「手の甲だったらどっち側の手で成功しました?」

「覚えてないです…」

成功のために過去の実績にすがろうとする看護師さんが不憫で、今年はどちらの手で成功したか日記につけておこうと思いました。

ちなみに私は今まで2回ほど手の甲に針を刺したことがあります。急性胃腸炎で点滴した時と、ある手術で麻酔のための点滴をした時です。

手の甲への注射は肘の内側より痛そうなイメージですが、案外痛くなかった記憶があります。とはいえ肘より手の甲に針を刺すほうが、日常生活に支障が出る可能性があるからでしょうか、看護師さんたちはなんとか肘で成功させようとがんばってくれているようでした。


さて、彼女たちは再度右肘でチャレンジするもようですが、気づけは三人がかりで私の採血をしている状況です。

針は無事に血管にヒットしたようです。一人が針をホールド、もう一人は採血管の交換、もう一人はなんかの袋を開けたりしていました。

今何時だろう…
午前中までにテレワーク戻らないと、サボってたと思われるかなあ。

そういえば最寄り駅にミスドなかったんだっけ。そうしたら帰り道にパン屋があるから、そこでドーナツでも買うか。あーミスドがよかったなあーー


そんなことをぼんやり考えているうちに、針が抜かれました。やれやれ。

見ると採血管は3本うまったものの、1本まるっとカラでした。

衝撃で目を見開く私に、すまなそうに顔を伏せるする看護師さんたち。ちょっと泣きました。

「ああ、こんなに手が冷たくなって…」と看護師さんはやさしくわたしの手の甲をさすってくれています。さすさす…

さすさす…

もう…手の甲いっちゃっていいですか_:(´ཀ`」 ∠):

はい。やっちゃってください( ;∀;)


準備をしているあいだ、寒さを訴える私の足元に毛布がかけられました。願わくばその毛布を肩のあたりまで引っ張りたかったのですが、雰囲気的にムリそうです。

そこへ、

「おまたせ〜💦」と別の看護師さん。どうやらベテランが登場したようです。きっと今まで別の処置をしていたのでしょう。

ベテランに若手看護師たちが引き継ぎをしているあいだ、私の右手の甲にホットタオルが当てられました。温めるとよいとのこと。

「はーい!じゃあチクっとしますねー」

ついに手の甲に針が刺された感覚がありましたが、ほんの一瞬です。

じわじわ採れてますからねー、大丈夫ですよー」

「じわじわ」とはいえ、きちんと血が採れていることにほっとしました。サポートの看護師さんが「念の為に」と左手にもホットタオルを当てていましたが。

さすがに左手の甲も採血はごめん被りたいものだ…

ひたすら祈っていると、看護師さんたちが「23だからね…仕方ないね」とささやきあっているのが聞こえました。

あとで【23 採血】でググってみたら、23とは針の細さのことで、通常22G
(ゲージ)の針を使いますが、血管が細い人や子供にはそれより細い23Gの針を使うようです。

針が細い分、血が採りづらいということかなと思いました。

それにしても看護師さんたちにはずいぶん苦労をかけてしまったものです。

「こんなの毎度のことだからさ!気にしないでどんどん刺しちゃってよ!」なんて励ましてあげられればいいのでしょうが、そんな余裕は全くなく、ただただ黙って耐えているしかありませんでした。


無事に採血が終了し、ヨッコラセとベッドから起き上がると、

「お待たせして本当にすみませんでした」と看護師さんがぺこりと頭を下げたので「いえいえ..」と力なく応えると、

「こちらどうぞお使いください」

と『お食事券』と印刷された封筒をそっと渡されました。

「えっ!!!」

恐縮する私に、さらに看護師さん一同で「申し訳ございませんでした!」と頭を下げられ、こちらもペコペコしながら処置室を後にしました。

この感じだと毎年お食事券もらうことになると思うけどなあ。

そう思いながら更衣室に入りふと姿見を見ると、そこには頭がボサボサで眉のない疲れ切った顔の女が映っていて、泣きそうになりました。

今後はせめて眉だけは書いて外出しようと思いました。












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ara
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