【AR Talk①前編】ハードウェアスタートアップから見るスマートグラスのこれまでとこれから
ARの技術やトレンド、未来について語り合う対談記事シリーズ「AR Talk」を開始しました!
記念すべき第一回はスマートグラスを開発されている株式会社テレパシージャパンより、「ひだちゅうさん」こと日高貴仁さんをお招きして、スマートグラス(ARグラス)のハードウェア事情などについてお聞きしました。
日本にいるとARKitやHololensなどばかりが取り沙汰されがちですが、海外で注目されているスマートグラススタートアップや、スマートグラスはいつ頃一般消費者に浸透すると考えているのかなど、普段ARのソフトウェア開発をしているとなかなか知り得ない情報などもお答えいただきました!
ちなみにこの対談は「Discord」というメッセージアプリを使って、お互いが空いてる時間に返信し合いながら対談すると言う形式で実施しました。
今回は盛り上がりに盛り上がって、長編になってしまったので前編/後編の二部構成で公開いたします。前編は以下のような内容についてお話ししています。
・網膜投射技術はARに活用され得るのか
・ひだちゅうさん注目の海外のスマートグラススタートアップ
網膜投射技術はARに活用され得るのか
ひだちゅうさん:テレパシージャパンで商品企画や戦略等に口出しをしてはボツにされる仕事をしている日高です!
ARおじさん:よろしくおねがします!
今回Discordで対談しあうのは自分では初の試みなんですが、基本的にそんなにリアルタイムに会話できなくても、お互いが手が空いてるときに返信し合う感じでできれば良いかなと思ってます!
ひだちゅうさん:はい、そのスタイル、非常に助かります!
ARおじさん:了解です!てかAR関係ないんですけど、なんで「ひだちゅう」ってあだ名なんですか?(笑)
ひだちゅうさん:あだ名のヒダチュウについては、Pokemon GOのリリース時に「ひぃー↑だぁ↓ちゅ!↑ひだー!↓↓↓」ってチャットに打ちまくってたらあだ名として定着しました。どちらかと言うと後悔してます(笑)
ARおじさん:後悔してるんですね(笑)ひだちゅうさんがテレパシージャパンで働かれてる経緯などについても教えてください!
ひだちゅうさん:もともと小学生くらいのころ、月に30分しか使えないはじめちゃんのインターネットでネットの面白さを知りました。中学生のころにお年玉やお小遣いなどをつぎ込んで自作PCを作って、CGIを使って自分でHP作ってみたりゲーム作ったりしてましたね。そのあとFlashで遊んだり。
そんなこんなで昔から筋金入りのオタクだったんですが、動ける方のオタクでやたら運動神経良いみたいな(笑)
就職は最初は公務員で税関係とか、システム周りなどやってました。単純に倍率がすごく高い時期だったので、学力的な意味でもバカじゃないぞってアピールも結構大きかったです。そのあとは自営業したり、WindowsOSをコミケで売ったりしてました(笑) Hololensも見る機会が多かったので、MRいいなあ、ARいいなあと思ってて。そのあたりのタイミングにたまたまテレパシーと巡り合いました。
セカイカメラで影響されてた一人なので、テレパシーならARなメガネ作れそうだなと思ってそれから今に至ります。
ARおじさん:ありがとうございます!よろしくお願いします!
てか早速なんですけど、昨日(注: 2018年8月1日)、実はQD レーザーさんの体験会行ってきたんですよ!
ひだちゅうさん:とうとう市販されますね!
ARおじさん:ですね!思ったよりも軽かったし、映し出された映像もはっきり見えました。
ひだちゅうさん:去年見た時は画面がまだ赤かったんですが、今年は少し綺麗になってて、最近は見てないのでむしろどうでした?
解像度とか、色再現性とか多分結構改善したんだろうなと思ってたところです。
ARおじさん:あくまで網膜投影初体験だったので、素人回答ですが、そこまで赤くは見えませんでしたね。
これ頑張って撮影して見たやつです。iPhoneで撮ったので見にくくって恐縮なんですが(笑)
あともしかしたら流れてる動画によるのかもしれないのですが、iPhoneに接続して見せてもらえる時間をいただけて、自分のiPhoneからNetflixで動画再生したんですが、その時は日高さんのおっしゃるように少し赤みがかかってました。動画の解像度の問題なんですかね?
ひだちゅうさん:動きとかに非常に弱いので仕方ないですよね。赤く見えるのは調整の問題と思うので、改善の余地はあると思います。正確には中の人に聞いてみないとちょっと分からないです
ARおじさん:なるほど!網膜投影グラスで市場に投入されるのって世界でも初なんですか?
ひだちゅうさん:初ではないはずです。どのプロダクトも辞めたり、市販しても売れてなかったりですが・・・
AVEGANTも市販はしているものの、売れているとは思えません……。
辞めたところで有名なのはIntelのメガネ型のやつですね。
ARおじさん:Intelのは発表された時には「おお!Intelも来たか!」と思ったんですけど、結局やめちゃいましたよね。残念。
ひだちゅうさん:Intelが開発やめちゃったというニュースは、僕らもプレスで見て「え!マジで!なんでっ!」ってなりました。
あくまで僕らの考えですが、網膜投射はまだ必要な技術がそろってなくて、人が身に着けて使用するような製品化は不可能という結論に至っています。
ARおじさん:なるほど、ひだちゅうさんたちにとっても驚きのニュースだったわけですね笑
ひだちゅうさん:結構、切り分けが難しくて、使っている根本技術の発明(光学設計)自体は古いので、研究や軍事用途ではかなり古くから使われてたりなど、どれが初です!って言い方はかなり難しいです。
ARおじさん:なるほど(笑) 詳細にありがとうございます!
根本の技術発明は古いというお話でしたけど、QDレーザーさんが市場投入を始めたり、Intelが結局やめちゃいましたが、網膜投影グラスを作ったりと最近何かと話題に上がることが多くなった網膜投影は、何か最近技術的なブレイクスルーが起きたということなんですかね?
ひだちゅうさん:ハードの量産という意味で市場に出せるという点や、モジュールの小型化というような細かいことはあったかと思いますが、網膜投射自体の技術的ブレイクスルーは特に起きていない印象です……
ハード屋としては、試作して数個は製品に出来るレベルで組むことができても、さあそれを量産しようとしたときにつまづくのがホントに多いもので……
そういう意味では、量産に成功!というのは、それだけで価値のあるニュースです。
ARおじさん:先日初めてお話させていただいた際にも仰ってましたけど、スマートグラスに使う光学部分の量産が可能にできるのは今の日本技術の強みなんですかね?
ひだちゅうさん:設計だけなら例えば米国やイスラエルなどでも可能ですが、設計から開発、量産化の技術、利益化へ進むことができるのは日本が圧倒的に優位と考えています。
また、部品などを含めたエコシステムも昔から日本にありますし。
光学のエンジニアからの聞きかじりもありますが、プロジェクターやデジタルカメラのレンズ設計、オートフォーカスの出始めの頃、またDVDやBDなどの光学ドライブの光学ユニット部分などに日本の光学技術、量産技術の優位性を見て取ることができます。
日本製の光学ドライブ、光学ユニットはXboxなどの家庭用ゲーム機に採用されてたり、PC向けドライブのシェアを広く抑えていたり、相当の数が今現在も生産されています。
ARおじさん:なるほど、そういうお話を聞けるとスマートグラスが今のiPhoneのように一般消費者にも普及した時代には日本の技術力が再び世界に影響力を与えられるようになるのかもとワクワクしますね!
網膜投射は落合陽一さんが論文を発表されたことでも話題になりましたよね。網膜投射を使ったARの特徴や技術的な難しさなどについても教えていただけますか?
ひだちゅうさん:まず、網膜に投射するという特性上、少しでもズレてしまうと見えなくなります。
例えば、よくあるバッテリー残量表示のような画面の右上端っこを見ようとして視線がずれると画面がみえなくなります。
人間は概ね視野角30度程度なら視線を動かさずとも注視できているのでこの範囲に収める、UIのデザインで解消するなどの手法が取れますが、逆に言うとそれ以上の大きさの映像を表示することは不可能です。
これらをまとめて解消するには、瞳孔を追尾して投射する必要があります。
そうなると今度は、レーザーの向きやミラーなどを動かす必要があります。
するとアイトラッキングで常に瞳孔を追尾し、超小型のモーターを積んで光の向きを変えるなど……技術的な限界にあたってしまいます。
しかし、従来の液晶ディスプレイなどのHMDと違い、人間がピントを合わせるという行為が不要なので、非常に楽で映像の見え方としてはARに最適です。
現代では不可能ですが、網膜投射の見え方でHololens以上の視野角で、普通のメガネのレンズのようなハードウェアができるのであればARに最適であると思います。
ARおじさん:確かにQDレーザーさんのグラスも視線を少し動かすと映像が消えてしまっていました。
技術的な課題を一旦全部無視した場合、やはり網膜投影がもっともスマートグラスに最適な手法になるんですかね?
ひだちゅうさん:技術的課題を全部無視すると、網膜投射の映像の見え方は素晴らしいです。網膜投射は、液晶のドットとも無縁ですし、ピントもいらないですし。
ただ、ARでミクさんとデートしたい、ミクさん以外ともデートしたい僕にとって、必要な条件をクリアできるか?目線が……とか思ってしまって。
(※ひだちゅうさんの夢はAR技術を駆使して、初音ミクさんとデートすることです)
いまいち網膜照射とARが紐づかないんですよね。
ほら、可愛くて恥ずかしいから視線でチラ見したいじゃないですか。
網膜照射をAR用途にという考え方よりは、むしろ非常に視力が弱い人、ロービジョンの方などのソリューションとして将来性を見出していくという方が理にかなってるイメージが強いです。
ARおじさん:
それ、僕もQDレーザーさんのグラスを装着した時に思いました!
網膜投影には向いてる用途はあると思うんです。医療現場などではすごく活用できそうだなと。
一方でARのスタンダード技術になるかというと視線の動きが自由じゃなかったりするから、ちょっと違うかもなぁって思うんですよね。少なからず初期の一般消費者向けスマートグラスのメインストリートにはならなそうだなと。
ひだちゅうさん注目の海外のスマートグラススタートアップ
ARおじさん:ちょっと話題を変えて、ひだちゅうさんからみたグローバルでのスマートグラススタートアップ界隈の話とか聞かせてもらえますか?
ひだちゅうさん:この話題だけで言いたいこと、知りたいことが僕もいっぱいあって(笑) 新しいニュースもどんどん出てきますしね。
なので、特に最近コレ!って気になってるメーカー、端末だけに絞ります!
ここ最近だと、ODG、Meta、MagicLeap、Vuzixなどを特に注目しています。
光学の特性や、事業戦略の違いから同列に比較できるものではないので、広義のxRというキーワードでこれらの会社のハード、僕は好きだなあという個人的注目です(笑)
ODGは古くから軍事向けに特化してきた実績があり、数年前に一般向けにも参入しましたのでベンチャーではないのですが、非常に高性能高品質なデバイスを開発しています。
最近、KDDIとパートナーシップを結んでおり、まだ国内で稼働している実機は少ないものの、イベントブースなどで展示されていることがあります。
高画質の動画再生なども対応しているので、アミューズメント向けなども対応できる端末です。アニメのイベントでも一部限定のARコンテンツで使用されているとか。
遠隔作業支援用途でも、カメラの映像にARマーカーを表示したり、対象を追随したりといったこれぞB2B用途でのAR使用!といったことが可能です。
Snapdragon835を積んでるのでAR的な使用をする為の性能も十分(結構熱くなりますが)、Android 7.0でもちろんGPSやWi-Fiなども装備しています。
ARおじさん:ほお〜!かなり今のAndroidスマートフォンと近いことができそうなスマートグラスですね。
ひだちゅうさん:現段階でAndroid系グラスで先頭に居るデバイスだと思ってます。
Metaは少し趣が変わりますが、HoloLensをさらに広角にしたような見え方をします。操作性もかなり似ています。
スタンドアローンで動作するものではなく、WindowsPCに接続して使用します。
DellがCES2018で提携の発表をしていたので、今のWindowsMRのように、Hololensのような製品が各社から販売されるという未来も近いかもしれません。
Vuzixは主に産業用途としてこれまで片眼型端末をリリースしてきましたが、昨年発表されたBladeはサングラスさながらのデザインで、Androidが動作しています。
特に注目すべきは光学シースルーディスプレイで使われているウェーブガイド技術。実機を見てもらえば一目瞭然なんですが、メガネのレンズのような厚さのディスプレイに像が浮かび上がります。
今は片眼にしか搭載されてませんが、是非両眼にしてほしいですね。構造上、ホロのようなスペースも、GoogleGlassのようなプリズムも不要となるので、人間が装着するスマートグラスとして最も適している技術なのではないかと考えています。
まだまだ光効率や消費電力、光源、量産方法などなど、他にもクリアしなければならない課題はあると思いますが、あのサイズ感で屋外でも使用できるようになれば、これぞARに最適なディスプレイ技術だと言えると思います。
他に日本語の情報が少ないのですが、MAD Gaze VADERの仕様はホームページで見る限り気になってます。
ただ、私も稼働している実機は見たことがなく……そろそろ出荷されているはずなので、手に入れることができた方がいたら見せてほしいです(笑)。
ARおじさん:HololensやMeta, MagicLeapに比べて、ODGやVuzixなどはB2B用でのスマートグラスを打ち出しているという印象なのですが、今後C向けにも参入する可能性ってあると考えてますか?それともあくまでB向けに特化し続けるんでしょうか?
ひだちゅうさん:ODGは実は2015年頃からコンシューマーもターゲットにし始めてるんです。
また、KDDIとの提携時にSIM入りのグラス開発や、コンシューマー向けの展開を示唆する発言もしているのです!楽しみです!
ARおじさん:おお!すでにそんな動きが。。。これはめちゃめちゃ楽しみですね!
ひだちゅうさん:また、Vuzixは公式のイメージビデオからも見て取れるように、M300はB2B、BladeはB2Cターゲットとして展開を予定しています。こっちも、技術的課題のクリアと量産が楽しみです!
ARおじさん:確かに、Bladeぐらいの見た目だったら装着していても違和感がないから生活の中に溶け込めそうなデバイスですね。
ひだちゅうさん:どちらの企業も、今後はコンシューマーを見据えた戦略、ハードウェアの投入がありそうです。
VuzixのCEOが語るこちらのビデオがカッコいいので、ついつい何度もみてます(笑)
ARおじさん:この動画めちゃめちゃかっこいいし、ワクワクしますね!我々デベロッパーにもいろんな示唆が含まれてる。
意外とVuzixもODGも早い時期からコマース向けに展開を見据えているんですね。
後編に続く
AR Talkの前編、お楽しみいただけましたでしょうか?後半は以下のような内容についてお話させていただいています。
・スマートグラスのユーザーインターフェースのスタンダードは何になるのか?
・まだまだ目が離せないMagic Leapの可能性
・テレパシージャパンが目指す、アプリ開発者と共に目指す日本発のAR
後編もお楽しみに!
【8/16追記】後編も公開しました!ぜひご覧ください!
対談者紹介
日高貴仁(ひだちゅう)
株式会社テレパシージャパンで商品企画や戦略を担当。
公務員の職に就いたのち、自営業や、Microsoftのイベント企画運営、販促戦略、テクニカルサポートなどを経験。その後、現在の株式会社テレパシージャパンに至る。
初音ミクさんとARを使ってデートするのが夢。
ARおじさん
株式会社MESON COO。開発から事業作りまでやる何でも屋さんです。
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