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クリエイティブ職が食品開発に挑戦!? 新規事業開発の過程で体験したリアルな学びを業務に活かす
アクアリングでは、起業家の上野聡太さんをお招きして、新規事業開発の社内ワークショップを不定期開催しています。
「新規事業」と聞くと、チャレンジングで心が踊るプロジェクトのように思えますが、実は、その道中は常に不安と隣り合わせ。ハードな場面に直面しながらも前へ進み続ける熱意とマインドセットが不可欠です。また、持続可能な事業にするには、お金の動きや経営知識も必要です。
社内ワークショップは、アイディエーションよりも実際にチームで事業計画を立て、具体的な財務諸表を作成するなど、新規事業開発過程のリアルを体感できる実践的な内容に重きを置いた設計となっています。
上野さんからの厳しいフィードバックを受け、実際にアクアリングの新規事業検討案件として採用が決定し、現在進行中のプロジェクトが「エッグストリーム」です。
2024年7月24日に開催された新規事業報告会では「エッグストリーム」がどのように誕生して変遷していったか、その過程で何を学んだか、新規事業に取り組んでいるチームを代表して、大橋さんから「産みの苦しみ」の体験を振り返ってもらいました。
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2007年アクアリング入社。Webサイト構築、SNSプロモーション、リアルイベント、映像制作など多岐にわたる制作ディレクション・プランニングを行う。近年は企業ブランディングに関わる案件を多く担当。iF Design Award、German Design Award、Webグランプリなどの受賞歴あり。
なぜアクアリングは新規事業に取り組むのか?
アクアリングは、デザイナー、ディレクター、エンジニアからなるクリエイティブ専門集団です。主な業務は、デジタルクリエイティブによる課題解決とデザインコンサルティングです。クライアントの新規事業開発支援も手がけています。また、自社新規事業やM&Aを通じて、新たな領域への展開と業容拡大を目指しています。
自社での新規事業への取り組みには、業容拡大以外の目的が二つあります。
一つはクライアントの新規事業開発支援において「クライアントと同じ苦悩を共有する」ことを重視し、イントレプレナーの立場をより深く理解するためです。もう一つは”社員のスキルアップ”です。
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新規事業では、仮説を立て、それを疑って検証し、プロトタイプを作ってさらに検証を重ねるというサイクルを何度も回します。
そうしたテクニカルスキル・マインドセットは、通常の受託業務だけでは学びにくいものです。
アクアリングではスキルアップに繋がる貴重な機会として、社員に向けて新規事業開発の門戸を開いているのです。
ワークショップから生まれた企画が採用!
ワークショップでは、事業の成り立ちを学ぶために既存の事業をトレースして規模感や市場の状況、リスクとリターンを探ることからスタートしました。
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大橋さんチームが最初にトレースしたのが「鶏卵場」事業です。そこから「卵」を軸にピボットしながら「飲食店」に、最終的には卵に付加価値をつける「食品小売」にたどり着きました。
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さらにターゲット層やニーズを掘り起こし、商品の概要を詰めていきます。
「私たちが注目したのが、ビッグマーケットとして成長中のボディメイク市場と完全栄養食市場です。安価で良質なタンパク源として注目されている卵は、ビタミンCや食物繊維が不足している『ほぼ』完全食です。マッチョ層に向けて、この『ほぼ』を補完するコンパクトな食品がビジネスになるのではと着想しました。合計5000億円を超す市場ですから、0.04%のシェア獲得で2億円の売上が見込めます」
こうして誕生したのが、ゆで卵に付加価値を創出するビジネス「エッグストリーム」です。チームは計画概要書と財務諸表を作ってプレゼンに挑みました。
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上野さんは、この事業案を「宿題のレベルを超えていた」と振り返ります。
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”ハードな新規事業にマストなのが担当者の熱意です。『エッグストリーム』の事業案は密度が非常に濃く、群を抜いた熱意の高さが伺えました。
一般的に飲食関連事業の難易度は高いものですが、社会的に盛り上がっている市場にフォーカスしていることから初期仮説の打ち出し角度が良く、可能性を感じました。さらに、本業とは全く違う領域に取り組むことで獲得できる経験は大きく、その学びはアクアリングに還元できるはずだと判断しました”
ワークショップの開始からはや6ヶ月。
上野さんが相談役として補佐しながら、3ヶ月毎に経営陣への事業報告会で継続判断を仰ぐ形で、プロジェクトが始動したのです。
想定ターゲットは本物か? 仮説を何度もアップデート
喜んだのもつかの間、大橋さんは早速迷走してしまいます。
「最初は舞い上がっていましたが、具体的に何から手を付けて良いのかイメージがつかめず、徐々に不安でいっぱいになりました。不安を払拭したくて、デスクトップサーチやウェビナー、書籍など闇雲にインプットを始めましたが、全く解決しません。早々に迷子になってしまいました」
ここで上野さんから示唆されたのが「フィットジャーニー」です。新規事業において、今どのフェーズにいて、何の課題に取り組むべきかの地図です。フィットジャーニーによって、チームで現在地を最初のフェーズ「顧客に課題は存在するのか」の段階に置きました。
「私たちは、ボディメイク市場と完全栄養食市場を構成するマッチョ層をターゲットに想定していたので、そこに卵摂取の課題が存在するはずだと考えていました。課題解決策として試作品を作るフェーズ、試作品をECでテスト販売をするフェーズに進みたいとウズウズしていたのですが、上野さんからのGOが出ませんでした」
上野さんに指摘されたのは、訴求軸が本当に「勝ちパターン」なのか検証することでした。いわゆる一本足打法で1軸にベットするのはリスクが高く、複数の訴求軸を持って仮説検証を何度も繰り返すべきだと伝えられたのです。
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大橋さんチームは、当初想定していたマッチョ層というターゲットから一旦フォーカスを緩め、仮説のバリエーションを増やして改めて顧客ニーズを徹底的に洗い出しました。そこからさらに11パターンに絞り、デスクトップリサーチではなく実際の消費者にアンケートを取り、オンラインインタビューも実施してニーズの深堀りを行いました。
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結局、誰にどんな価値を提供できるの?
400件超のアンケートと40回のインタビュー調査の結果、購入見込みの高い層は、想定していたボディメイク市場と完全栄養食市場ではないという仮説が見えてきたのです。チームは改めて顧客の絞り込みを行いました。
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「顧客ニーズのキーワードから#ギルトフリー、#おやつ以上食事未満、#手軽でポータブル、#バリエーションという4つに絞り、それぞれにターゲット市場を再設定しました。ボディメイク市場と完全栄養食市場は捨てることになりましたが、市場規模のトータルは大きく、目標の2億円も十分に圏内です。ここで、ようやく真の顧客が見えてきました。一歩前進です」
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迷走状態から脱して3ヶ月。ようやく、フィットジャーニーのファーストステップをクリアしました。
「クリエイティブの領域でも、検討チームの中だけで立てた仮説を磨ききってしまうと、後戻りができなくなります。デスクトップリサーチだけではなく、リアルな情報収集を行いながら、仮説を疑って問いを投げかけ、検証してアップデートし続けることが重要だと実体験しました」
既存のパートナーから繋がりを開拓しプロトタイプを実現
続いてのフェーズは、試作品の開発です。大橋さんチームはターゲット再設定での学びを活かし、チームで数百個以上のゆで卵を食べ続け、同時に社内へも展開してヒアリングを行いながら、仮説と検証を繰り返していきました。
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「塩とマヨネーズに代わるゆで卵の食べ方、食べやすさ、満足度など、様々な観点から検証を重ねました。見た目やパッケージももちろん大事です。当初はふりかけのようなパウダー状の食品を想定していましたが、食べやすさと満足感からスープスタイルのレトルト食品が優位そうだという結論が出ました」
いよいよ、プロトタイプを作って検証しようと意気込むチームですが、ここで、新たな壁が立ちはだかります。
「20社ほどの食品関連会社に打診したのですが、どこも相手にしてくれないのです。これまで関係性のなかったweb制作会社から食品事業に着手したいという打診を突然受けて、そんなリスクを取る会社はないでしょう。逆の立場で考えれば、当然のことだと思います」
解決の糸口は、大橋さんがあるパートナー企業と雑談している際に生まれました。
「パートナー企業さんが運営しているビルに偶然カフェと食堂が入っていて、その2店と繋げてくれたのです。実際にプレゼンに赴くと、最初は訝しげでしたが、熱量を持って話をしているうちに前のめりで聞いてくれて、試作品作りに協力してもらえることになりました」
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2店舗の協力のもと、数種類の試作品が完成。来店客への試食も実施しました。5営業日で223食の試食を配布したアンケート結果では、10点満点中なんと9.5点の高評価! 好意的な応援コメントも得て、チームは確かな手応えを感じたそう。
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「友人やクライアントなど、既に関係値のある人に声をかけることで話がグンと進む体験をしました。直接関係のない業種の人や企業でも、その先には新たな繋がりがあります。実際に商品化した際の未来の販路として、マルシェや大手スーパー、置き型社食などに繋がる糸口も見つけています」
新規事業で気づいたパートナーシップの大事さ
現在、プロジェクトはテストマーケのためにOEMパートナーを探すフェーズに入っています。
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量産にあたって、再現性、ロット数、コスト、賞味期限といった様々な条件の掛け算は、クリエイティブの現場と置き換えられると大橋さんは話します。さらに、発注者の立場でパートナー企業に求めるものに「熱量」があるということにも気がついたそうです。
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「発注者にとってプロジェクトとは、汗を流して磨き抜いた我が子のようなものです。それを形にしてくれるパートナーがどれだけ面白がってくれるか、大切にしてくれるかといった姿勢があると、安心してお願いできます。これは、受託で制作業務に取り組む際のマインドとして念頭に置くべきだと実感しました」
加えて「卵」の付加価値を創出するという軸はそのままに、新たな変数での仮説と検証も重ねています。
未経験領域での事業開発に挑んで得られた学び
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アクアリングの自社新規事業「エッグストリーム」。
まだまだ道半ばではありますが、ここまでの過程で得たリアルな学びは大きく5点あると、大橋さんは話します。
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「まず1点目に、不安を持つことは悪いことではないとお伝えしたいです。不安を解消する過程で事業の解像度が上がります。ひとりで、チームで不安を抱え込むと足が止まってしまうので、不安は周りと共有していきましょう。
2点目は、アイデアを仮説に変えるためにリアルな情報収集をして検証していくことです。私たちが上野さんに止められたように、アイデアだけを磨いていきなり市場に出すのは危険です。
3点目は、仮説はメンバーだけで温めずに、外部と壁打ちしながら育てていくことです。仮説と検証のサイクルを細かく回すことで、意見を言われることに抗体ができます。
4点目は、クライアントやパートナー、友人などに『繋げてもらえますか?』と積極的に声をかけることです。事業内容が競合する場合は慎重にすべきですが、困ったときは近しい人が糸口を持っていたりします。
最後に、既に関係値がある相手でも、温度感や熱量は対面しないと伝わりません。共に面白がってくれるパートナーを探しに、実際に足を運びましょう」
アクアリングでは、クリエイティブスキルを上げるための社内セミナーのほか、社外の方にもご参加いただけるセミナーも開催予定です。
セミナーの詳細や申込方法などは、随時SNSにて発信してまいります。
名古屋エリアにお住まいのディレクター、デザイナー、エンジニアの皆様は、ぜひこの機会にアクアリングのnote・SNSアカウントフォローをよろしくお願いいたします!