生物から生物へつながるバトンで水をキレイに。~養殖に欠かせない「生物ろ過」とは?後編~
>>中編
生物ろ過に+αで必要なコト
生物ろ過槽で働くバクテリアは、環境づくりをしてあげることで有毒なアンモニアを分解してくれます。
分解されたアンモニアの最終的な姿は、「硝酸塩」
この硝酸塩は、アンモニアや亜硝酸塩ほどは有害ではありません。
ということは、高濃度になるとやはり魚や環境に悪影響を及ぼす可能性があります。+アルファの定期的なメンテナンスが必要となりますが、どんな方法があるのでしょうか。
硝酸塩の除去方法
1. 定期的な水換え
最も一般的な方法です。
新しい水と交換することで、硝酸塩を物理的に減らすわけです。
ポイントは、必ず水槽内の水と同じ温度・㏗の水を使うこと。
急激な環境変化は魚にとってストレスとなるため、避けます。
【頻度と量の目安】
1~2週間に1回、全水量の20~30%の水を交換するのがおすすめされます。また、水換え後はバクテリアの活動が落ちないように、バクテリア添加剤を追加するのも効果的です。
…ここで、
「あれ、水換えするなら生物ろ過する意味無くなるのでは?」
とお思いの方、鋭い洞察ですね。
結論から申し上げますと、水換えだけで良い場合も確かにあります。
水換えだけで良い場合
条件が整った大規模なシステム、あるいは、極端に小さい規模での飼育の場合は水換えだけで水質を維持できます。
・かけ流し式養殖
陸上養殖の中には、川や地下水から常に新鮮な水を引き入れる「かけ流し式」のシステムがあります。こちらは常に一定量の水が交換されることとなるため、水槽を循環するろ過のシステムが不要となる場合が多いようです。
こうしたシステムを組めるかどうかは、養殖する場所に大きく依存します。水源や、かけ流しの設備を確保できなければ難しい方法と言えます。
・とても小さな水槽
小さな水槽でメダカを数匹飼う程度ならば、そもそも生物によるアンモニアの蓄積が少ないですし、交換が必要な水量も少なく、水換えが簡単です。あえて生物ろ過をする必要が薄いと言えます。
ただし、やはり交換する水を水槽内の環境に合わせた水質にしておくことは必要です。
こうした例外はありますが、閉鎖的な環境で、ある程度以上の規模で魚を飼育する場合、基本的には生物ろ過と水換えの併用が推奨されます。
定期的な水換えは頻度が多すぎると魚にストレスをかけ、頻度が少ないとアンモニアの急激な上昇が起こった際に対処しにくくなります。この点、水を循環する中で24時間アンモニアを分解してくれるバクテリアの働きが効いてくるわけですね。
2. 嫌気性バクテリアによる脱窒素
生物ろ過のバクテリアは、有害なアンモニアを毒性の低い硝酸塩に変換するものでした。
アンモニアを分解するバクテリアがいるなら、硝酸塩を分解するバクテリアもいるのでは?
はい、います。
硝酸塩を窒素ガスに変換し、水槽外へ排出できるバクテリアが。
ただし彼らが活躍できるのは、酸素が少ない環境。そのため「嫌気性バクテリア」と呼ばれます。
生物ろ過のバクテリアは酸素を必要とするのに対し、嫌気性バクテリアは酸素があると機能しません。酸素が豊富な場所と酸素が少ない場所の両方を作る設備が必要になります。
コストや設置スペースの考慮が必要ですが、この方法で硝酸塩を効率的に減らすことができれば、水換えの頻度を減らすことができるので大きな省力化が見込める方法ですね。
3. 水草や大型藻類
硝酸塩を利用するのは、嫌気性バクテリアだけではありません。
実は水草や藻類も、硝酸塩を栄養源として利用します。
これらの導入により、自然に近いエコシステムが形成され、有益なバクテリアやその他の微生物が繁殖しやすくなるのがメリットです。
アクアリウムの水草は見た目を華やかにする効果だけではないのです。
ただし、成長が早い水草は、養殖槽の栄養分を過剰に吸収することがあるため、定期的なトリミングや一部の除去など、また別の手入れが必要になるというデメリットもあります。
そんな手入れが必要ならば、もう野菜を育てちゃおうぜ!という発想で「アクアポニックス」と呼ばれる農業×養殖業のシステムも開発されています。
デメリットの部分を裏返してメリットにしてしまう知恵が生まれているのですね!
まとめ
生物ろ過で発生する硝酸塩にも対策が必要。
一般的な方法は水換え、魚へのストレスに注意。
嫌気性バクテリア、水草など他生物も加える方法もある。
でした!
現代の陸上養殖業界には、
環境負荷の小ささを売りにした発信が多く見られます。
前・中・後編と続けて紹介してきた「生物ろ過」の仕組みからは、その理由の一端を見つけられるかもしれません。
生物ろ過は、目に見えない生物からもたらされる恵みによって成り立っていたのでした。
そして、そんな目に見えない生物たちの働きを発見し、活性化する仕組みを考え、システムとして発明した先人たちがいたことで成り立っていたのでした。
ろ過に必要な条件は実に多様であるため、ザックリとした紹介が限界となりましたが、皆さまに新たな気づきをお渡しできていれば幸いです。
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