見出し画像

仁と義 12章 仁侠短編小説抗争編 7 (シリアスコメディ)




抗争編  これまでのあらすじ。

仁義を重んじる頭鬼組組長による、「組員異性化計画」に一方的に抜擢された「一之江将一」こと、源氏名「ラン」は頭鬼組の資金源である、頭鬼組分家「パブスナックレインボー」のママとして働く事になった。

パブスナックレインボーになる前の、スナック経営者のママが行方不明になり、空き家となっていた賃貸物件を頭鬼組組長が買い取り、頭鬼組資金源としてパブスナックレインボーの経営を始めた。

しかし、レインボーのママになると行方不明になるか、すぐに辞めてしまう。
というのも、当時は不仲であった石頭(いしず)一家の縄張りに隣接する店だったことでトラブルが多かった。

更には、石頭一家を名乗り悪さをする膝織一家の連中も出入りするようになってから、ママの行方不明が相次ぎ、パブスナックレインボーのママだけに起こる不可解な怪奇現象に恐怖を抱き辞めてしまうママも多かった。

そんな問題を抱えている店だからこそ、頭鬼組分家として、組長は気合の入った若衆を女性に仕立て上げる「組員異性化計画」を実行して、レインボーのホステス(根っこはヤクザな男)として愛想を振り撒くのだが、皆喧嘩はめっぽう強く、怒らせると危険な存在である。

そんなレインボーメンバーとなった「ラン」は女性ホルモン投与を始めてから体質が変わり、幽霊が見えるようになった。

そして、レインボーのママだけに襲いかかる不可解な超常現象がパブスナックレインボーになる前の店の、行方不明になっているオーナーママの仕業と幽霊が見えるようになったランには分かった。

パブスナックレインボーになる前の行方不明になっているママは、自分が殺された事と、行方不明になっているレインボーのママ達も殺され自分の近くに埋められているとランに訴え掛けた。その犯人が石頭一家を名乗り悪さをしていた膝織一家の幹部だと知ったラン。

そこへ、パブスナックレインボーの新しいママにまたもや悪さをしようと、挨拶にきた殺人犯の膝織一家幹部を警察に突き出した事で、膝織一家の報復である今回のレインボーホステス「ミオ」と恋仲である石頭一家の立石尚樹の拉致事件へと発展したのである。

頭鬼組と石頭一家は警察沙汰にしないまま、ミオと立石尚樹の救出に成功したが、それは更なる膝織一家との対立の火蓋を切る事になるのであった。

膝織一家の逆恨み

頭鬼組分家、レインボー組が仲を取り持ち、頭鬼組と杯を交わしファミリーとなった石頭一家と頭鬼組。

その両組と対立する、大きな組織である膝織一家との一夜の抗争は、拉致されたレインボーホステスのミオと石頭一家幹部、立石尚樹の救出により収束したかに見えた。が、膝織一家代表、膝織忠義(ひざおりただよし)の腹の虫は収まらなかった。

膝織一家舎弟頭 、八木亮一(やぎりょういち)と
若頭、安曇孝信(あずみたかのぶ)がヤられた事により膝織忠義は組員の鉄砲玉を使い、その日の午後、石頭一家組長宅に爆弾を仕掛けようとした男が石頭一家組員により取り押さえられた。

同様に、頭鬼組事務所周辺でも怪しい男がうろつく姿が頭鬼組組員に目撃されていた。

石頭一家組員に取り押さえられた男は膝織一家を名乗ることは無く、石頭一家が気に入らない単独行動だと言い張った。
頭鬼組同様、仁義を重んじる石頭一家舎弟頭の水谷雄一は、仕方なく男を警察に突き出した。

仁義を重んじるとはいえ、ヤクザではあり、頭鬼組と杯を交わす以前は、大小あるが悪い事をしていた石頭一家。

何処かの組に恨みを買うような事をしたのではないか、と組同士の抗争を警戒して事務所周りには警察が警戒に当たっていた。

石頭一家と杯を交わした頭鬼組にも警察は来たが、怪しい男がうろついていたことは話さず、異常はないと警察に伝えた。

怪しい男の事を言えば警察が張り付く事になるのを、頭鬼組若頭 阿久津龍一は嫌がった。

万が一、パブスナックレインボーに膝織一家が殴り込みに来た時に動けなくなるからだった。

そんな日の夕方。

テレビのニュースでタクシーが大型ダンプカーに追突され、タクシードライバー死亡、乗客1名が重傷というニュースが流れた。

タクシー運転手の名前が出て、たまたまニュースを観ていた頭鬼組舎弟頭  新島浩二は坂下一雄の名前を聞いて驚いた。

『カズ!カズっ!』

新島は、組員の荒巻和幸 通称カズを呼びつけた。

『叔父貴、何でしょう』

『カズ!ニュース観てみな‥‥』

(死亡)タクシー運転手、坂下一雄さん(35)
(重傷)タクシー乗客 金市徹さん(28)

ダンプの運転手はその場から逃走。

と、ニュースキャスターの音声と共に、テレビ画面に映し出されていた。

タクシーは右後部からダンプにより追突され、タクシーの前に信号待ちで停まっていた大型トラックに挟まれ、車体はくの字に折れ曲がり運転席まで押し潰されていた。

左後部座席に座っていた乗客、金市徹は石頭一家の組員であり、パブスナックレインボーではタクシー運転手の坂下と同じ飲み仲間で、二人より歳下の荒巻和幸は、弟のように接してくれていた。

金市徹は、タクシーの左後部座席で押し潰される事無く、前助手席が前に倒れて僅かな隙間に入り込み、大きな怪我はしたが命に別状はなかった。

カズは自分で、頭に血が上るのを感じていた。

『叔父貴‥‥これってやっぱり膝織の仕業でしょうか‥‥』

新島はカズの怒りを犇々と感じていた。

『まだ何とも言えねぇけどな‥‥』

『‥‥‥』

カズは何も言わなかったが、カズの握り拳に怒りが現れていた。

『カズ‥‥』

『はい‥‥』

『一人で突っ走るんじゃねぇぞ‥‥』

『‥‥はい』

カズはそれ以上の事は言わなかった。

ティップと坂下

一方レインボー組4人は、坂下と同じタクシー会社のレインボー常連客である水無孝夫(みずなしたかお)から坂下の事故を聞いた。

ラン、メッチ、ナッチ、ティップは言葉を失った。

つい数時間前には笑顔を見せていた坂下。

ティップの客である坂下は独身で、休みの時には必ずティップに会いに来ていた。
もちろんティップが元は男だと、坂下は知っていた。

独身の坂下には、ティップが元男だとか関係なかった。

女性を演じている訳でもなく、声も仕草も自然な女性そのままでいるティップが、坂下は好きだった。

『本当は女として生まれたかったんだ‥』

と、ホテルで坂下に本音を打ち明けた事があった。

『え〜、ティップは十分女じゃん。レインボー皆、俺は女として見てるし接してる』

坂下はそう言ってティップを抱きしめた事があった。

『中学、高校はオカマオカマって散々虐められて、高校卒業してからはナメられないように喧嘩ばかりしてた。舐めるのは好きだけどさ』

『だから喧嘩もペロペロも上手いのか〜』

そんな何でも話せる坂下とは、何度もアフターデートを重ねていたティップ。

『できる事ならティップと一緒に暮らしたい』と坂下に言われてその気になっていたティップにとって、坂下の死は深い深い哀しみとなった。

そして今までに無い怒りが込み上げていた。

その怒りはランもメッチもナッチも同じだった。

数時間前の朝方には笑顔を見せていた坂下。

ミオと立石尚樹の救出に手を貸してくれた坂下は『今夜は休みだから飲みに行くよ』と笑顔を見せていた坂下。

レインボー4人は、石頭一家の組員  金市徹が運ばれた病院にいた。

その病院には坂下も運ばれていたが、会うことはできなかった。

そして、ミオと立石尚樹にも坂下の死は伝えられていた。

『膝織の息子掻っ拐って、膝織の野郎必ず膝ま突かせやる』

立石尚樹は怒りに打ち震え、点滴を毟り取るように腕から外し病院を出ていこうとした。

『尚樹!ダメだよ動いちゃ!まだ傷口塞がってないんだよ?』

ミオは尚樹の前に立ち塞がった。

『ミオ、どいてくれ!俺とミオを助けてくれた坂下さんの弔合戦だ!カタギのもんに手ぇ出しやがって!俺は絶対許さねぇ』

そう言って病室を出て行こうとする尚樹にしがみつくミオ。

『アタシの血、無駄にしないでって言ったよね?』

『‥‥‥』

『傷が治ってからでもいいじゃん。アタシだって今すぐ膝織の頭ひっぱたいてやりたいよ!
 ティップはアタシ以上に哀しいだろうし怒っていると思う。
 でも勝手に動けないし、もし本当に膝織の仕業だとしたら、頭鬼組と石頭一家全員集めても、頭数は膝織の奴等の半分位しか居ないんだよ?じっくり話を進めたほうがいいよ‥‥ねっ?尚樹もそうして!』

『‥‥‥あぁ‥‥分かったよ、ミオ』

立石尚樹は、そう言ってベッドに座った。


続く

表紙、挿入画 illust ac
今回はずっとシリアス💦




主な登場人物

関東頭鬼組   組長 頭鬼洋次郎(48)
       
        若頭      阿久津龍一(38)
石頭の
        舎弟頭     新島浩二(37)

        相談役     相田真二(38)


 構成員    荒巻和幸   通称カズ(23)
        三澤謙二   通称ケン(25)
        須藤弘道   通称ヒロ(23)
        小林幸弘   通称ユキ(23)
        


パブスナック レインボー組メンバー💕

メッチ 木ノ内健(20)(きのうちたけし)
(めんちきることが多い。何でも武器にする) 

ナッチ  中沢義男(20)(なかざわよしお)
(よくナイフをちらつかせる) 

ティップ 榊枝真二(20)(さかきえだしんじ)
(ダーツの矢を数本いつも太股に隠している)

ミオ 安桜芙美乃(20)(あさくらふみお)     
(アイスピックを両足太股に6本常時備えている)

ラン 一之江将一(20)(いちのえまさかず)
(通販で買った伸縮警棒とスタンガンを持つ)

タクシードライバー
坂下一雄(さかしたかずお)


石頭一家の相談役

舎弟頭  水谷雄一 38 (みずたにゆういち)

相談役  立石尚樹(たていしなおき) (ミオの恋人)


膝織一家 

代表 膝織忠義(ひざおりただよし)

膝織一家舎弟頭 八木亮一(やぎりょういち)

若頭 安曇孝信(あずみたかのぶ)

いいなと思ったら応援しよう!