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妹‥ 8 【連載小説】



亮介の過去



亮介と須藤は、吉田達を振り切り西城ビルへと向かった。


『須藤さん、奴等に銃があると迂闊に手を出せないですね…』

亮介は車を運転しながら須藤をチラッと見た。

『まぁな…。でもよ、素人の銃なんてそうそう当たるもんじゃないぜ』

『へぇ~、そんなもんなんですか…』

亮介は前を見たままで言った。

『なんだ亮介。怖じ気付いたか?』

『まさか。俺は吉田を半殺しにしてやりたい気持ちは変わりませんよ』

『でもよ、撃たれたら死んじまうかもしれないんだぞ』

須藤は亮介の気持ちを確かめるように言った。

『人間なんて死ぬときは死んじゃいますからね。死ぬつもりがないのに死んだり、死のうと思っても死ねなかったり…。だから、俺がもし死ぬ時が来るとしたら、それが俺の終わり方なんだなって素直に受け入れますよ。たとえ病気だとしても、事故だとしても…』

亮介はそう言って運転席で座り直すように姿勢を正した。

『お前腹座ってるな。でもよ…吉田みてぇな悪党に殺られるんじゃねえぞ。万が一の事があったら由美ちゃん一人になっちまうんだからな』

『生きて帰れそうになかったら、俺は必ず吉田を道連れにしてやります…必ず…。もしもそうなったら…由美はきっと琴音ママの側に行くかもしれません。ママのこと慕ってましたから…』

須藤は亮介の話を黙って聞いていた。
そして亮介の腹の座った度胸に興味をそそられた須藤。

『なぁ亮介…』

『はい?』

『お前、今仕事何やってるんだ?』

『警備会社の派遣です。と言っても道路工事の車の誘導がほとんどですけどね』

『何年働いてるんだ?』

『警備会社は一年です』

『警備会社の前は?』

『どうしたんですか須藤さん。何処かの面接みたいじゃないですか』

亮介は須藤を見て笑った。

『いや、お前のその度胸は何処から来てるのかと思ってさ…』

『あぁ、そう言うことですか。警備会社に入る前は自衛隊に四年間居ました。陸自です。度胸はその時に付いたのかも知れません』

『なるほど…それで納得できたよ。国のためなら命の限り戦うんだろ?』

『えぇ、まぁそうですね』

『なら、さっき奴等が銃をぶっぱなした時それほど怖いと思わなかったのか?』

『いや~、やっぱり怖いですよ。自衛隊でも実弾射撃は殆ど無いですからね』

『俺にはそれほど怖がってるようには見えなかったけどな。そうかー、自衛隊にいたのか…』

『10代の頃から喧嘩ばかりしてましたよ。それが自衛隊でも役に立ちましたからね。格闘訓練で』

亮介は須藤を見て笑った。

『こりゃ俺でもお前には敵わないかもな。よく一人で神栄商事の奴等をぼこぼこにできたなぁって思ってたけど納得したよ』

その時、前方の脇道から車が出てきて、亮介が運転する車の対向斜線からみるみる近付いてきた。

すれ違い様にパトカーだと分かった。

亮介はバックミラーでパトカーの様子を見ていた。

パトカーのブレーキランプが光ってUターンをしているのが分かった。

亮介はアクセルを踏んで加速した。

『どうした亮介?』

『今すれ違った車パトカーです。Uターンしてたからバレたかもしれないです』

『今度は警察かよ…。逃げ切れそうか?』

『だいぶ距離が開いてますから何とか逃げて見せます』

須藤が後ろを振り向くと、後方の遠くに赤色灯が見えていた。

亮介はアクセルをベタ踏みしてパトカーを振り切り横浜大黒ふ頭へと向かった。

埠頭に着き、亮介は車を物陰に隠した。

証拠隠滅


そして車に着いていたカーナビをむしり取り車を降りて海へ投げ捨てた。

『おいおい、何やってんだよ。カーナビぶっ壊して』

車を降りた須藤が亮介の側へ歩いてきた。

『あのナビには遠藤医院へ寄った記録が残ってると不味いと思ったので…』

『なるほど…遠藤先生にまで迷惑かけたかねぇな…』

『須藤さん、車はここに置いておきましょう。後で吉田に電話して車の中にいる奴と一緒に回収させましょう。警察に見付かるよりはいいかもしれません。奴等の数人も車回収に来るかもしれないから、ビルに何人いるか分からないけど少しでも奴等の頭数が少ない方がいいですからね』

『そうだな…。しかしお前は冷静だな。神栄商事の奴等に追われても警察に追われても動じないんだな。見事な肝っ玉だぜ』

『いや、けっこうビビってますよ。それより何処かに消火器ないですかね?』

そう言って亮介は辺りを見回した。

『消火器なんか何に使うんだ?』

『車の中の指紋を消すんです。あの車は俺しか乗っていないことになってるかもしれません。須藤さんの指紋は消したいので…』

『俺の事なんか気にしてんじゃねぇよ。もう俺とお前は同罪のようなもんだ。捕まるときは仲良く捕まろうぜ。勿論死ぬときも一緒だ。吉田を道連れにな…』

亮介は須藤の言葉に自衛官の時に同期の仲間と誓いを立てたことを思い出さずにはいられなかった。

万が一の有事の時には、お互い助け合おう。どうしてもダメだと思ったら死ぬときは皆一緒だ。

仲間でそんな誓いを立てた亮介。

須藤に言われて自衛官の時の苦しい訓練を思い出し、須藤と共に逝くのも悪くない、と思う亮介だった。

『消火器はよくトラックに積んであるの見たことあるぞ。何処かにトラック止まってないか?』

そう言った須藤の目に2トントラックの影が見えた。

須藤はそのトラックへ駆け寄り荷台の鳥居上部に取り付けられている消火器ボックスを見つけた。

荷台へ上がりボックスを開けると消火器が収まっていた。

須藤はそれを取り上げ荷台から降りて亮介に渡した。

『ありがとうございます、須藤さん』

亮介は後部座席の足元で手足を縛られ寝転がっている鈴の音で暴れた男に近くにあった薄汚れたブルーシートを被せ、この埠頭まで乗ってきた神栄商事の神崎の車の車内に消火器の消火剤が無くなるまで運転席と助手席を中心に車内に満遍なく消火剤を吹き付けた。

鍵は付けたままで車のドアを閉めた。

『これでオッケー。須藤さんの指紋も俺の指紋も警察には分からない筈です』

『お前、感心するくらいよく頭が回るな…』

『消火剤で指紋が解らなくなるのはテレビで知ったんですよ』

『ふーん、そうか。で、これからどうするつもりなんだ?』

作戦は頭の切れる亮介に任せる須藤だった。

『通りに出てタクシー呼びましょう。それで、どこか24時間開いているレンタカー屋を探して車を調達しましょう』

『そうだな…』

そして二人は歩いて埠頭から出て、大通りにでて大きな会社の前で、ネットでタクシーを手配した。

『7〜8分で来れるそうです。ここで待ちましょう』

『そうか‥‥便利になったんだなぁ‥タクシーも』

『ネットでタクシー手配すると、近くにいるタクシーが来てくれるんです。場所もタクシーと位置情報共有してるから場所言わなくても来てくれるんです』

『なるほどね〜』

時間通りに来たタクシーに乗り込み、亮介はドライバーに24時間営業のレンタカー会社を知っているか尋ねた。幸い知っているということで、後はドライバーに任せることにした。

湾岸線の一般国道でベイブリッジを渡り中区にあるレンタカー店に着いた。

亮介は料金を払いタクシーを降りた。

男達のメロディー


須藤と二人でレンタカー店に入り、亮介は重要参考人として指名手配されていることで名前でバレる可能性があったので須藤がレンタカーを借りる手続きをした。

身分証として須藤は免許証の提示を店員に求められたが、怪しまれることなく車を借りることができた。

須藤の好みで借りた車はランドクルーザーだった。

そこそこ速く、吉田を捕まえて監禁するには十分ということでランドクルーザーに決めた。

運転は亮介に任せて須藤は助手席に乗り込んだ。

ランドクルーザーはでかい上に重たそうな車だったが、加速は驚くほど速かった。

亮介はランドクルーザーに満足した。

二人はコンビニに立ち寄り、弁当とおにぎり、パンと飲み物、そして週刊紙を2冊買って再び走り出した。

『その週刊紙何かに使うんですか?』

亮介は不思議な思いで須藤に聞いた。

『後で分かる…』

途中深夜まで開いているディスカウントスーパーに寄りバット二本とガムテープ二つ、薄いゴム手袋、ビニール紐と太めの結束バンド、そして布がよく切れるハサミを購入した。

再び走り出し亮介はおにぎりを食べ、須藤は豪華なのり弁をたいらげた。

そして二人は東神奈川にある西城ビルの見える場所に着いた。

『須藤さん、あの白いビルが西城ビルです。あの男は8階に事務所があるって言ってましたね…』

『あぁ、8階って言ってたな』

『ちょっと待ってくださいね。吉田に電話してみます』

『分かった』

亮介は自分のスマホを取り出し、神崎の携帯から移した吉田の電話番号に電話番号が着信表示されないように184を付けていた。

亮介は吉田の携帯に非通知で電話をかけた。

10コールの呼び出しに吉田は出なかった。

亮介はもう一度電話をかけた。

やはり10コールでも吉田は出なかった。

亮介は三度目の電話をかけた。

『はい…』

男の声が聞こえた。

『神栄商事の吉田か?』

『誰だよ!』

『佐久間だよ。佐久間亮介だ。お前の手下の神崎の車、鈴の音で暴れた男の一人と神崎の持ってた金、三百万。大黒埠頭の何処かに置いてあるからさ。寒いんだから早く行ってやらないと死んじゃうぜ?あいつ…』

『佐久間ー!テメェこの野郎!見つけたら必ずらぶっ殺すからな!須藤って野郎も一緒だろ!お前ら二人生きたまんます巻きにして海に放り込んでやるからな!楽しみに待ってろよ!』

『須藤?誰だよそいつ?』

『知らばっくれるんじゃねぇよ!あんまり舐めた真似してるとお前の帰る家、燃えて無くなるぞ!お前の妹、またかっ拐って風俗に売り飛ばしてやるよ。お前は薬を警察に売ったんだからな!お前の妹に稼いでもらうからな!覚えとけよ!』

『おいおい、威勢だけはいいんだな…。寄せ集めの愚連隊のような奴等にお前を守る事が出来るのかな?まぁ、俺がお前を取っ捕まえに行くまで、せいぜい怯えて待ってな…』

亮介はそれだけ言って一方的に電話を切った。

『亮介…お前ヤクザみてぇだな…』

『えぇ〜?須藤さんに言われるとは思いませんでした』

亮介は須藤を見てニヤリと笑った。

『それは悪うござんしたね』

須藤も亮介に笑って見せた。

それから数分後。

東神奈川にある西城ビルから四人の男が出てきて、隣にある駐車場に入っていった。

すぐに車が一台出てきた。

亮介と須藤は体を低くして出てきた車を見た。

車は2世代ほど古いクラウンだった。

四人が出てきて一人もビルに戻らないのを確かめて、亮介は静かに車を走らせた。

そして西城ビルの入り口から少し離れたところにランドクルーザーを止めた。

『亮介、この週刊紙腹のところでベルトに挟んどけ』

『あ〜、そういうことか〜。週刊紙の防具ですね?』

『そんなとこだ。以前殴り込みの時これに助けられたことがあってな』

『分かりました。腹に入れときます』

『そうしてくれ。お互い無傷で吉田を拐いたいからな』

そう言って二人はズボンと腹の間に週刊紙を半分のところで拡げて挟んでベルトをきつめに締めた。

そして須藤はゴム手袋を嵌めてバットを右手で握りしめ、亮介にガムテープを渡しバットと右手をガムテープでぐるぐる巻きに巻いてもらった。

亮介も同じようにゴム手袋をしてバットを握る手をガムテープでぐるぐる巻きにした。

『よし、これでバットが手から離れることはねぇな。でもよ、亮介‥‥』

『なんですか?』

『運が悪けりゃ死ぬだけさー、死ぬだけさーって歌知ってるか?』

『あー、知ってます。YouTubeで聴いて好きになりましたよ、その歌。男達のメロディーですよね。自衛隊にいた時、同期と歌ってました。何かのドラマの歌ですよね?』

『おぉ〜、知ってたか。若い世代も知ってるとは嬉しいぜ。自衛隊にいた時歌ってたのか。昔の軍隊の同期の桜の代わりみてぇだな』

『そんなとこです。中に何人いるか分かりませんが、運が良ければ死なないさー、しなないさー、で吉田をかっ拐いましょう!』

『よっしゃ、行こうぜ』

『はい!』

須藤と亮介は必ず吉田を拐うつもりでいた。


続く。。。


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