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狐の嫁入り


『恋唄』

恋が心を苦しめるなら
捧げる愛もまた苦しくて

潤む瞳で見つめる花を 
伸ばした指の摘み取る痛み


愛をあなたに捧げてみても 
届かぬ想いは高嶺の花

堕ちてあなたにしがみつき 
紅い花弁散らしましょう


惚れて叶わぬ恋路を一人 
寝乱れた床で後れ毛直す

晴れた秋空そぼ降る心 
やがて狐火照らしましょう



むくろを置いてあなたのもとへ

想いを遂げに参ります

私の心のそぼ降る雨を

晴れたお空に降らせたら

あなたを迎えに参ります

狐火連ねて参ります…






『狐の嫁入り』

遠い昔。
とある山の峠道で人間やあやかしに化けて旅人を脅かしては、その驚きようを見て楽しんでいた悪戯好きな若い女狐。

ある日、若く美しささえ漂う旅の男「中村定吉」に会った女狐は一目惚れ。

女狐は妖艶な人間の女に化けて定吉に近付いた。


「もし…旅人のお方。お里へ参るのでしょうか?」

「そうですが…あなた様はこのような物騒な峠でどうされましたか?」

「はい…この峠にあやかしが出るとの噂に怯えております。よろしければお里までご一緒いただけないかと…」

「そういうことでしたらご一緒致しましょう」


定吉も妖艶な女に化けた女狐に一目惚れ。

人間の女に化けた女狐は「あやめ」と名乗った。

あやめは定吉と共に山を降りて、言葉巧みに合わせて妖しい仕草を見せて里で定吉としばらく暮らすこととなった。その後二人は夫婦になることを約束した。

しかし定吉は美男であり、婚姻の約束をしたあやめが居るのを知りながらも、寄り付く女は数知れず。

気が気ではない女狐あやめ。

事あるごとに定吉に近付く女を、女狐あやめは「あやかし」に化けては定吉に近付くなと脅かしていた。

そして、雲一つ無い晴れた秋の空が広がるなかで、定吉と あやめ の婚姻当日…。

女狐あやめが脅かした女により、定吉との婚姻の当日に あやめ の正体がバレてしまった。

夫になるはずだった定吉は、自分を騙したあやめを罵り罵倒して、山へ追い返してしまった。

哀しみに暮れる女狐は、来る日も来る日も泣き続けた。

そして、女狐は哀しみのあまり崖から身を投げてしまった。

女狐の身投げを目撃した旅人の話が人伝に里に広まった。

その日から山の峠道では、よく晴れたお天気の日でもしばしば雨が降るようになった。

そんな晴れた空に雨が降った夜には峠道に人魂のようなものが見られるようになった。

それは「女狐が身を投げた峠」ということから狐火と呼ばれるようになった。

狐火は鬼火とも言われて人々に恐れられ、夜の峠道を歩くものは居なくなった。

そして、その狐火はお天気の日でも雨が降ると少しずつ里に降りてきていた。


沢山の星が瞬くある日の夜。

突然雨が降り出して、定吉は神隠しにあったかのように忽然と姿を消してしまった。

翌朝、里の人々は突然消えた定吉を探し回るのだが、定吉が見つかることはなかった。

女狐のあやめが連れて行ったのだろう、と里の村にはそんな噂が広がった。

里の人々は、また神隠しが起こらないように山の峠に狐を祀る祠を建てた。


それは狐たちにも風の噂で聞くこととなり、あやめのような悲劇を繰り返さないよう、峠道には狐があやかしに化けて人を脅かすことは無くなった。


人間に惚れた女狐の狐火の行列は、定吉を連れ去った「女狐の嫁入り」と呼ばれるようになり「人に見られてはいけない」という風習があり、狐の嫁入りには人間たちに見られて正体がバレないように、晴れた日でも雨を降らせ人々を家に追いやるようにして、狐の嫁入り行列を見られないようにしたのでございます。


          著 小麦(美香)

このお話は、昨年、美香(現 小麦)の短編オリジナルとして書いたものです。「狐の嫁入り」のお話を書いた後に、あやめの気持ちを唄った恋唄の詞を書きました。

狐の嫁入りが人に見られないように雨を降らせる、ということは古くから伝わる言い伝えであります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 
            著 小麦

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