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妹‥16【連載小説】クライムサスペンス

ハードボイルド クライム・サスペンス


追跡

遠藤医院が神栄商事に襲われた後…

遠藤医院を襲撃して、佐久間亮介と妹の由美、そしてスナック「鈴の音」のママ琴音を拐った神栄商事の吉田達の後を追っている新田興行の中谷秀樹は、吉田達の車を付かず離れず追っていた。

『奴等何処まで行くんだ?隣街に入ったな。誰か兼子の兄貴に途中報告で電話してくれるか?東名の横浜インターに向かってるって言ってくれ』

中谷秀樹は4人の誰にともなく言った。

『そうだな。俺が電話するよ』

後部座席にいる一人が兼子に電話をした。

『分かった。そのまま追ってくれ』

兼子はそう言って電話を切った。

『佐藤、向井。俺と一緒に来てくれ。後の3人は須藤の兄貴に付いててくれ。俺達は先に行った中谷達を追いかける』

それぞれが返事をして佐藤が運転席に座り向井は助手席、兼子は後部座席に座った。

困惑

中谷達はワゴン車の後を付けていたが、助手席の篠原があることに気がついた。

4台いるはずのワゴン車が2台しかいないことに気がついた。

『秀、前のワゴン車2台しかいないぞ』

『おいおい嘘だろ?』

『拐われた男と女ってどの車に乗ってたんだ?』

『知らねぇよ‥‥そこまで聞いてねぇ。兼子の兄貴に聞いてみてくれ』

篠原は兼子に電話をかけて事情を話した。

『分かった。お前達でギャング連中相手にできるか?』

『あのガキどもなら俺達5人いれば大丈夫ですよ』

『そうか。ならその2台の前に割り込んで止めちまえ。そいつらから佐久間と鈴の音のママと由美という女の子がどこ行ったか聞きだしてくれ』

『分かりました』

篠原は電話を切って中谷に兼子の指示を伝えた。

『よっしゃ、そんじゃ一丁やったるか。みんな前の車止めて奴等引きずり出して前を走ってた2台がどこ行ったか聞き出すぞ。あの2台には悪ガキどもが10人くらい乗ってるそうだ。ちょっと虐めてやろうぜ』

5人が気合いを入れたところで、大きな通りから外れている道路で、中谷はアクセルをベタ踏みにして加速した。

トヨタアルファードは加速して、追いかけていた2台の前に出た。

『みんな捕まってろよ!急ブレーキかけるぞ』

中谷の言葉に4人は掴める所に手をかけた。

中谷は急ブレーキをかけて2台の前方を塞いだ。

中谷達5人は金属バットを手に持ち、車を降りて後ろの2台に駆け寄った。

前の車に中谷と篠原の2人。

後ろの車に3人が付いて乗っていた連中に降りるように言った。

中谷も運転席の男に窓を開けるようにドアを手で叩いた。

『なんだよお前ら、俺達に喧嘩…あっ!』

『よう、悪ガキども。俺達が誰だか分かったようだな?』

『ヤクザが何の用だよ』

『降りろよ』

中谷が静かに言った。

『やなこった』

『無理矢理降ろされたいか?』

『降ろせるもんなら降ろしてみろよ』

中谷は運転手の髪を掴み力一杯外に引っ張った。

『痛てーっ!』

『降りるか?』

『い、嫌だね!』

その時、後ろの車の方で乱闘が始まった。

『前にいた2台はどこ行ったか知ってるよな?拐った男と女を何処に連れて行った?』

中谷はもう一度、到って静かに言った。

『知らねぇよ』

中谷は更に強く運転手の髪を引っ張って上下左右に揺らした。

『前にいた2台に大事な人が乗ってたんだけどよ…どこ行った?』

後ろの車の方は既に静かになっていた。

中谷は運転手の髪を思いきり引っ張った。

ごっそりと髪が抜けた。

『スキンヘッドにしてやろうか?それとも降りてくるか?』

運転手は頭を押さえながらドアを開けて降りてきた。

『始めっから素直に降りてりゃ禿げなかったのによ。こいつらの携帯没収。うちに銃を向けるような奴等だからな、神栄商事と一緒に潰してやらねぇとな』

後ろの車にいる組員はギャング連中の携帯とスマホを残らず回収した。

前の車に乗っている者達も素直に携帯とスマホを出した。

『お前とお前、一緒に来い。吉田のところに案内しろ。後ろの車も運転手だけ連れてくぞ。他の奴は必要ねぇから置いてくぞ』

中谷はギャング3人を自分達の車に乗せて走り出した。

そして走りながら車の中で吉田からの報酬で遠藤医院を襲ったこと、自分達は囮だったこと、報酬受け取りは都筑区にある神栄商事の創庫だと分かった。

篠原はその事を兼子に伝えた。

『テメェらよくも騙しやがったな!』

結束バンドで手足を縛られた3人の頭を1人ずつ殴る中谷と篠原。

吉田が向かった場所は、まるっきり逆方向だった。

中谷はすぐにUターンをして、第三京浜の港北インターへ向かった。

意地

その頃、須藤は琴音に電話をかけていた。

須藤の耳に聞こえてきたのは、琴音の怒ったような声と男の声だった。

琴音はバッグの中でマナーモードになっていた携帯が微かに震えているのが分かった。

後部座席に乗せられていた琴音と由美は、両手を前にして結束バンドで縛られていて、二列目と三列目に座らせられ男が一人ずつ着いていた。

横にいる男の目を盗み琴音はバッグに手を入れて着信ボタンだけを押して通話状態にした。

須藤という文字がディスプレイに表示されていた。

『勝手に動くんじゃねえよ!大人しくしてろ』

『ハンカチ取るくらいいいでしょ!大体アタシ達をどこに連れてくのよ!』

『黙ってろって言ってんだろ!ひっぱたくぞ!』

『ここ何処なのよ!第三京浜の横のホテル街に連れてきて何するつもり?絶対身体は許さないからね!』

琴音は須藤に聞こえるように大きな声で話した。

『安心しろ、おばさんより後ろの姉ちゃんしか興味無いからよ。後2~3分で着くから黙ってろ!ギャーギャーうるせぇな』

男は琴音の頭を叩いた。

『痛い!何すんのよ!女に手を出すなんて最低な男だね』

『ママに何すんのよ!』

由美も怒りを露にした。


そんな琴音と男、そして由美の声を聞いていた須藤に怒りが込み上げてきた。

『第三京浜の横のホテル街か…吉田の糞野郎…』

須藤は行ったことはなかったが、第三京浜から見えるラブホテルは何となく記憶にあった。

須藤の頭の中に加藤裕子が浮かび上がった。

『裕子…、同じ失敗なんかしねぇぞ…。俺にとっちゃ琴音は裕子と同じくらい大事な女なんだ』

須藤は痛みを堪えて起き上がった。

点滴の針をむしるように取り、側に置いてあった包帯2本を腹にキツく巻いた。
側にあった血に染まった服を、痛みを堪えて着込んだ。

携帯を耳に当てると車のドアを閉める音が聞こえ、シャッターを開けるような音が聞こえてきた。

『入れ』

『痛い!押さないでよ!全く加減も知らない人だね、あんたは!』

琴音が怒りを露わにした。

『暫くここに居てもらうからよ。大人しくしてろよ。叫んだって誰も来やしねぇからよ』

ドアが開く音が聞こえ、閉まる音もハッキリと須藤の耳に聞こえていた。

『お兄ちゃん!』

由美が叫んだ。

亮介は突き飛ばされて床に転がった。

ゴンゴンという音がして呻き声が微かに須藤の耳に聞こえた。

『亮介…待ってろ…』

腹の傷は包帯をぐるぐるとキツく巻いたことで、須藤は少しだけ痛みが軽くなった気がした。

歩こうとするとふらついたが歩けないことはなかった。

遠藤医師と看護師は部屋で休憩しているのだろう。

そう思った須藤は治療室のドアを開けた。

須藤に気が付いた新田興業の二人が須藤に駆け寄った。

『兄貴!何やってんですか!起きちゃだめですよ』

『お前らさ…第三京浜から見えるラブホテル知ってるか?』

『知ってますけど…寝てなきゃだめですよ』

『今からそこ行くからよ。どっちか運転していってくれ』

『嫌です!傷口開いちゃいますよ!』

『ごちゃごちゃ言わねぇで連れていけ!』

須藤の声に気が付いた遠藤が休憩室から飛び出してきた。

『何してるんだよ、須藤さん!安静にしてないと傷口開くぞ』

『先生、治療ありがとうございました。佐久間と琴音ママ、それから由美のいる場所が分かったんです。俺が行かなきゃ…俺が助け出さなきゃ…琴音も由美も…裕子の二の舞になっちまう‥』

『そんな体で何ができるんだ!佐久間の血も琴音の血も無駄にするのか!』

遠藤医師は須藤を怒鳴り付けた。

『…琴音の血?』

須藤はそう呟いて遠藤医師を見た。

『そうだ!琴音ママは、あんたと同じ血液型だって輸血をしてくれたんだよ!あんたのためにだ!そんな血を、また無駄に流すのか?』

遠藤は何としても行かせたくなかった。

『それなら尚更行かなきゃなんねぇ…先生、許してくれ。
また裕子のように大事なもんを失うようなことしたくねぇんだよ!
俺が護んなきゃいけねぇんだ!
じゃなきゃ俺に生きてる価値なんて無くなっちまう!
何もしねぇであんな苦しい思いするくらいなら、大事なもんを護って死ぬ方がましだ…
先生…すまねぇ』

須藤はそう言って歩き出して立ち止まった。

『ランクルのカギ何処にあるんだ?』

『渡せません』

新田興業の若い一人が言った。

『うん…分かった』

須藤は壁に手を着きながら歩き出した。

新田興業の若い二人は遠藤の顔を見た。

『ちょっと待ってろ』

遠藤は治療室に入ってすぐに出てきた。

『これを飲ませてやれ。強い鎮痛剤だ。あれだけの傷だから気休めくらいだろうがな。あいつに付いていてやってくれ』

新田興業の若い二人は遠藤に頭を下げ、須藤に駆け寄った。

遠藤は3人の後ろ姿を医師として、男として複雑な気持ちで見送った。

須藤は新田興業の二人、斎藤隆と飯塚宏二と遠藤医院を出て、二人が乗ってきたワゴン車に乗り込み、三人は琴音が言っていたホテル街へと向かった。


それから少しして、晩御飯を買いに出ていた一人が遠藤医院に戻ってきた。

『あれ?先生、兄貴達は?』

『あ、おまえ何処行ってたんだ?』

『はい、兄貴達に頼まれて少し離れたコンビニに弁当買いにいってました』

『須藤さんと、お前の兄貴達…出てったぞ。俺は止めたんだがな…頑固だからな、須藤さん』

『マジですか!何処行ったんですか?』

『俺はわからんよ。電話してみたらどうだ?』

『兄貴達、スマホも携帯も忘れてきたって言ってましたから…』

『じゃあ諦めろ』

遠藤医院に駆け付けた10人の中で、一番若い田所修は一人置いていかれたことにショックを受けた。

『先生、弁当食べますか?』

『俺の分もあるのか?』

『もちろんです』

『じゃあ貰うよ』

『はい、どれでもどうぞ。俺、これからやけ食いしますから』

居場所

『須藤の兄貴、すいません…田所置いてきちゃいました…』

『田所?あぁ、あの一番若い奴か。いいじゃねぇか。隆と宏二が居れば大丈夫だろ』

須藤は兼子博之に電話をしようと、ポケットから携帯を取り出した。

兼子の番号を呼び出そうとしたところで、須藤の携帯は電池切れになった。

須藤は舌打ちをして携帯をポケットにしまった。

『お前ら携帯持ってたら兼子に電話してくれないか?』

『すいません、俺達遠藤医院に向かうとき慌てて出てきたんで携帯持ってこなかったんですよ』

助手席の飯塚宏二が申し訳なさそうに須藤を見て頭を下げた。

『そうか…この車に充電器無いのか?』

須藤に言われて助手席の飯塚が、グローブボックスやドアの小物入れなどを探したが見つからなかった。

『仕方ねぇな…』

須藤は自分の座っているシートの下から木刀を取り出し両手で握り刃先を床に突き刺すように立てた。

暫くすると、3人の乗った車の前方に警察の検問が行われていた。

運転する斎藤隆は迷わず脇道に入っていった。

その後も検問一ヶ所を避け、パトカーとすれ違いながらも須藤達は隣街へと入ることができた。

ギャング4人を捕らえた中谷秀樹が運転するアルファードは警察の検問の手前でUターンをするはめになった。

『くそっ、来るときは検問無かったのによ!ここは一本道で脇道無えんだよな…』

中谷が呟くと後ろからギャング達の笑い声が中谷の耳に雑音として聞こえていた。

ギャング達それぞれを、結束バンドで手足を拘束しているので検問は避けたかった。

そんな時にギャング達のバカにするような笑い方が、中谷と新田興業の4人の怒りに火を着けてしまった。

『クソガキ共黙らせろよ!』

中谷が怒鳴った。

『俺もそう思ってたとこだ』

そう言って二列目の後部座席に座っていた新田興業の一人が最後部の座席に座っているギャング3人の顔を一人ずつ力任せに殴って、ヘラヘラと笑った顔を沈黙させた。

『お前らは俺達に銃をぶっぱなしたんだからな…。今回の件が終わったら警察の前に放り投げてやるからよ。生意気にこんな薬まで持ちやがって。てめぇら根刮ぎ潰してやるからな』

そう言って二列目の後部座席に座っている新田興業の一人は、ギャングの一人にギャング達が持っていた違法ドラッグの錠剤を投げつけて前に向き直って座り直した。


一方、兼子達も警察の検問に四苦八苦していた。

『何処か抜け道無いのかよ』

兼子がイラついたように言った。

『抜け道らしいのはありますけど…車が通れるかどうか…』

運転手がカーナビを操作しながら言った。

『そうか…神栄商事の倉庫は都筑区のホテル街の近くだって言ってたよな?タクシーの方が良さそうだな』

兼子が呟いた。

『その方がいいかもしれませんね。タクシーなら検問も問題ないと思います。この車には木刀も積んでありますからね…。検問に引っ掛かったらパクられます』

『そうだな。そこら辺で降ろしてくれ。一人は一緒に来い』

『俺一緒に行きます』

兼子を慕い、須藤を慕う助手席の舎弟が即答した。

そして二人は車を降りてタクシーを探した。

続く。。。

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