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撃攘の盾… 拾捌



変わり果てていくサロマ湖


ウルオロシアナ爆撃機胴体着陸失敗による爆発で、民間飛行場である丘珠飛行場と千歳空港の滑走路と建物の被害、及びウルオロシアナ空対地ミサイルのゴルフ場への誤爆。

自衛隊稚内基地にもウルオロシアナ爆撃機による空爆があったが、陸自の地対空ミサイルに煽られていたせいか、的外れな着弾で深刻な被害には至らなかった。

一方で、新たなウルオロシアナ軍サロマ湖上陸艦隊阻止に備える、即応機動連隊と機甲科の機動戦闘車中隊は、少ない空自援護機と内地から飛来する高射連隊の地対空ミサイルと共にサロマ湖に配備されている高射連隊は、なんとか踏ん張っていた。


サリハンスーク コルサールフ港湾付近より出港した上陸を目論む艦隊は、日本が示す領海ギリギリを航行していたが、一路サロマ湖へ向けて日本の領海へ侵入して速度を上げた。

大型対潜巡洋艦 1
原子力ミサイル巡洋艦 1
ミサイル駆逐艦クラス 4
揚陸艦 4
補給艦と思われる艦船 2
航空機1編隊五機、7編隊サリハンスーク民間空港より飛行確認。

航空機1編隊五機、7編隊三十五機がサリハンスーク民間空港より離陸飛行確認された。

その三十五機は地上攻撃機と、空戦には弱い地上攻撃機を援護するSu57とSu27。

この戦闘機群が、サロマ湖へ群がり押し寄せた。

ウルオロシアナの北海道同時多発攻撃により、航空自衛隊戦闘機が分散を已む無くされるなか、防空が手薄になったサロマ湖ではウルオロシアナ軍上陸阻止のため、陸上自衛隊戦車部隊が展開していた。

国後島飛行場から離陸した地上攻撃三十機とそれを援護する戦闘機二十機、合わせて五十機が加わり、即応機動連隊と機甲科の機動戦闘車中隊は、 万事休すに陥った。

空自戦闘機は敵機の数に押されて一機、また一機と被弾、墜落していった。

機動戦闘車中隊本部2両、各小隊4両の3個小隊編成で14両、4個小隊編成で18両という機動戦闘車中隊長である一等陸尉、石田栄二は空自戦闘機が少ない事に苛立ちを覚えた。

「ウルオロシアナの飽和攻撃に戦闘機が分散されたとは言え、これほどまでに少ないとは‥‥、戦車に戦闘機と戦えというのか‥‥」

石田は夕陽の照らす中、隊員を見渡した。

皆迷彩に身を隠した戦闘車の横で臆することなく空戦を見守っていた。

内地からの地対空ミサイルと、羅臼方向から飛んでくるイージス艦「まや」「しらぬい」のからの艦対空ミサイルが敵機を追い回していた。

その時、上空から別の航空機編隊が飛来してウルオロシアナ戦闘機にミサイルが次々と追い回し始めた。

サロマ湖とオホーツク海を繋げる灯台付近の出入口を破壊していた地上攻撃戦闘機が呆気なく落とされていった。

『隊長、空母「いつくしま」航空隊から、これよりサロマ湖防衛に入る、と通信入りました』

通信班からの報告に、石田はひとまず胸を撫で下ろす思いだった。

内地からは地対空ミサイルと地対艦ミサイルが即応機動連隊と機甲科の機動戦闘車中隊の頭上を通り過ぎていった。

オホーツク沖敵艦隊からは巡航ミサイルが数機飛来し、サロマ湖とオホーツク海を繋ぐ入口の防波堤を破壊し始めていた。

長い間、美しい景観を保ち続けていたサロマ湖は徐々に無残な姿へ変えられていった。

機動戦闘車中隊長である石田は、無意識に握り拳に力を入れていた。

それは道内自衛隊員である、即応機動連隊と機甲科の機動戦闘車中隊、皆ウルオロシアナ軍のミサイル攻撃とウルオロシアナ軍そのものに腹立たしさを覚えていた。


サリハンスーク コルサールフ港湾付近より出港した上陸を目論む艦隊の防空網は固く、飛来する陸自の地対艦ミサイルを尽く撃ち落としていた。

艦隊は巡航ミサイルをサロマ湖へ撃ちながら最大速でサロマ湖を目指していた。

サロマ湖沖では、航空自衛隊と空戦をしていたウルオロシアナ戦闘機が撤退をはじめた。

入れ替わりにウルオロシアナ戦闘機第2波が戦闘域に入ってきた。

サロマ湖沖戦闘空域に、東日本本土からの空自応援機が合流。

「いつくしま」第1波航空隊三十機も、「いつくしま」第2波二十機と入れ替わるように母艦へと戻っていった。

その間にもウルオロシアナ艦隊は、一部陸自の地対艦ミサイルに損傷を負いながらもサロマ湖へ近付いていった。

反戦の訴え

一方、自国ウルオロシアナへ反戦を訴える、北海道在住のウルオロシアナ人の若い夫婦は変わり果てた北海道サロマ湖を目の当たりにして、スマートフォンで変わり果てた夕暮れのサロマ湖を映していた。


『変わり果てた北海道サロマ湖の悲しい現実を見て、私達は自国へ訴えます。
 過去の大戦で日本の戦争の目的は侵略にあった、と学校で教えられた私達。
それは間違いでした。
日本という国が小さいから北方領土を欲しがっている、という間違った認識を植え付けられていたことに私達は気付きました。
 日本が戦争を終えて武器を手にしなくなってから、過去の我が国が北方四島を侵略したのです。
日本から奪い取ったのです。
四島が、元々ウルオロシアナ国の領土という歴史は一つもありません。
皆無です。
四島は純粋な日本国領土なのです。
 私達の世代にも間違った歴史認識を植え付けたウルオロシアナ政府は、四島では物足りない、四島はウルオロシアナ領土と言い張り、再び日本の北海道に侵略攻撃を始めています。
 私達ははっきりと断言できます。
北海道も北方四島も日本の領土です。
日本は、北方四島を返還するのであれば、現在の四島在住のウルオロシアナ国民の意見を聞き入れ最優先に尊重する、と言っているはずです。
 私達は日本の人に言わされていることではありません。
北海道に興味を持ち、やがて日本に興味を持ちはじめて、日本の歴史を知りました。
そして歴史を深く探りました。
 過去の大戦で日本が行っていたことは侵略などではありません。
侵略などではなく、欧米に侵略占領されていた亜細亜から欧米を押し返し、侵略、占領されていた亜細亜各国を解放して亜細亜諸国の独立を勝ち取って、自国も護ったのです。
 欧米の侵略、占領を許していたらいずれ日本にも侵略してくるのは目に見えていました。
旧日本軍の自国防衛の強い意思のもとに、亜細亜全域から欧米列強を追い出し、亜細亜諸国を占領から解放して、亜細亜諸国の独立を勝ち取ったのです。
 私達が学校で教えられた、日本が過去の大戦を始めたのは占領のため、自国が小さい島国だから国土を広げるための戦争で侵略戦争だった、というのは作られた歴史です。
私達が学校で教えられた事は嘘だった事に気付いたときはショックでした。
 そして、押し返された欧米国の中には我が国、ウルオロシアナもありました。
その事を知ったときもとてもショックでした。
信じられなかったし、信じたくなかった。
 しかし、著名な外国の歴史学者や歴史研究家も私達が調べた歴史と同じことを言っています。
私達が学校で教わった歴史とは違う、様々な方向から私達が調べあげた歴史認識が正しいものと思っています。
 私達の言っていることは、ウルオロシアナにとって反逆者であり、裏切り者扱いされる事になると思います。
したがって私達夫婦は日本へ帰化します。
 最後に…核兵器を大量に持ち、他国を脅し、実際に使用する我が国ウルオロシアナを恥じます。
でも、私達は平和なウルオロシアナを愛します』

北海道稚内に住むウルオロシアナ人の若い夫婦はウルオロシアナ語と日本語、英語でSNS発信をした。

ウルオロシアナ人である若い夫婦のSNSは瞬く間に世界へと広がっていった。

このSNSは若い夫婦の母国ウルオロシアナ全土にも広がっていった。

当然のように、ウルオロシアナ大統領Sロマーノフにも伝わっていた。

『エリガノフ補佐官、今すぐネットに規制をかけて検閲をするんだ。
我が国を批判するもの、北海道奪還に意義を唱えるものは全て排除しろ!
デタラメばかり抜かしおって!
あの夫婦も日本に帰化する前に見つけ出して強制送還させるように手筈を整えろ』

大統領補佐官エリガノフは、日本にいるKGB捜査官に連絡をとりはじめた。

「北海道は本来我が国の領土なんだ。日本が過去に我が国から奪ったものと幼い頃から教えられてきた。
今さら歴史をどうこう言って変わるものでもあるまい。
北海道を取り返し、長い目で見れば国益も上がる。
何としても北海道を取り返す。
他国へ攻め入り領地を手に入れるには、その国の2倍から3倍の兵力が必要らしいからな…。
幸い我が国にはそれだけの戦力はある。
明日の演説で国民に話し、あの若い夫婦の言葉を踏みにじってやる」

ウルオロシアナ大統領Sロマーノフは、そんなことを思うのだった。

  

「はぐろ」艦隊に迫る危機



日本のイージス艦「はぐろ」艦隊が弾道ミサイル迎撃のため配備しているオホーツク海上に一時の静かな二日目の夜が訪れていた。

日本とウルオロシアナ連邦には国連から停戦の呼びかけが何度もあったが、ウルオロシアナは聞く耳を持たず、日本へ絶え間ない攻撃を繰り返す事に、日本は停戦を望むも攻撃される以上、応戦と攻撃をしなければならない状態だった。


イージス艦内戦闘指揮所…。
通称CIC(Combat Information Center)

『総員、各所警戒を怠ることなく戦闘食を食べてくれ。ゆっくり味わえないだろうが我慢してほしい』

イージス艦「はぐろ」艦長の声がイージス艦隊各艦艇へ流れた。


『艦長、「ひゅうが」から対潜ヘリ8機が警戒体制に入りました。「さみだれ」と「きりさめ」 「なとり」「やはぎ」搭載ヘリが撃墜されたパイロットの救助をある程度終えました。引き続き「ひゅうが」から救難ヘリで捜索を続けています。ですが夜なので敵のパイロットを見つけるのは困難かと思われます』

イージス艦「はぐろ」副長から報告が入った。

『ご苦労様…』

艦長は副長に敬礼で応えた。

『副長、「はぐろ」乗員は無事か?』

『残念ですが2名の殉職確認。3名の意識が無く蘇生処置を行っています。7名の意識があるが重傷と思われます』

『そうか…ありがとう』


「航空機や艦艇は替えがきく。全ての隊員が無事であることはやはり難しいことなのか…」

艦長は握りしめていた拳に無意識に力を込めていた。

その時、イージス艦「はぐろ」CICに「ひゅうが」から飛び立っていた対潜水艦ヘリコプター「シーホーク」から敵潜水艦探知、魚雷発射可能性の無線が飛び込んできた。

『敵、キロ級潜水艦、魚雷発射管開いた。敵魚雷発射の可能性あり、要警戒!』

対潜ヘリ「シーホーク」からの無線で、イージス艦隊全艦艇艦内に対潜水艦戦闘配置の警報が鳴り響いた。

『各艦、機関全速! 取り舵三十! 対潜戦闘始め!』

旗艦イージス艦「はぐろ」艦長により各艦艇に指示が出された。

『早期警戒機よりイージス艦隊、各艦艇へ! 北方四島の国後より長距離誘導ミサイル5機発射!更に8機のミサイル確認!防空体制厳となせ!あっ、更にサリハンスークからもミサイル10、「はぐろ」艦隊に向かっています』

『各艦艇は防空戦闘配置に着け! 「はぐろ」防空システムリンク確認、これよりミサイル迎撃に入る』

イージス艦「はぐろ」の防空システムが瞬時に「きりさめ」「さみだれ」「はぐろ」の対空ミサイルの割り当てが行われ「なとり」「やはぎ」からは短距離防空ミサイル等、各艦から対空ミサイルが発射された。

『早期警戒樹よりイージス艦隊各艦艇へ!国後より更なる対艦ミサイルミサイル10機の発射を確認!』

『イージス艦「まや」より「はぐろ」へ。四島からのミサイルはこちらで落とす』

『「まや」了解。』

「はぐろ」CICより「まや」へ返信が送られた。

『シーホークよりイージス艦隊、各艦艇へ! 敵キロ級、原潜モノマルフ級潜水艦より12本の魚雷発射!更に攻撃を開始する』

その時、海中で爆発が起きた。

先ほどシーホークが射ち下ろした、アスロック単魚雷がキロ級潜水艦の魚雷回避のデコイに当たり爆発を起こした。

その爆発音を利用してイージス艦隊に魚雷を放った原潜モノマルフ級とディーゼル機関キロ級潜水艦は姿を消した。

イージス艦隊は各艦艇が、魚雷回避の囮であるデコイを発射。

『魚雷接近、距離300!』

「はぐろ」CICに対潜水艦ソナー要員の落ち着いた声が静かに響いた。



続く…

表紙画 Photo ac

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