風の吹く夜に逢いたくて…
優しい夜風が酔いつぶれた私を揺り起こした。
飲みすぎたせいなのか、痛む頭に手を当てた。
「あの人に逢いに行かなきゃ…」
私はただあなたに逢いたくて、夜更けの街をフラフラ歩く。
すれ違う人は誰も私に目もくれず、ただ無表情にすれ違う。
優しい夜風に誘われるまま、私はあなたに逢いにゆく。
たどり着いたあなたの家のドアをそっと開け、あなたの部屋を覗いてみれば、私の知らない女とベッドで抱き合っていた…。
いつもそうだ…。
私が逢いにくると、あなたはいつもその女と一緒にいるんだね…。
失望した私は彼の部屋を飛び出して、折れたヒールを片手に泣きながら、ただ裸足で街をフラフラ歩いた。
すれ違う人は誰も私に目もくれず、ぶつかりそうになっても知らん顔…。
ただ寂しくて、ただ悔しくて、私はビルの屋上へ上がり泣きながら夜景を眺めた。
そして…酔いにまかせた私は夜風に吹かれながら寝てしまった。
いつものように優しい風が、酔い潰れた私を揺り起こす。
私はまた、いつものように歩道で目覚めた。
いつまでも残る頭の痛みを手で押さえた…。
『あの人の家に行かなくちゃ…。あの人に逢いたい…』
折れたヒールを片手に泣きながら、夜更けの街をフラフラ歩く。
すれ違う人は誰も私に目もくれず、ただ無表情に歩いてる。
私はあなたに逢いたくて、今日も夜更けの街を歩く。
たどり着いたあなたの部屋のドアをすり抜けるようにそっと開け、あなたの部屋を覗いてみれば、あの女が一人でいた。
「あの人…いないんだ…」
私が呟くと女は部屋の中を見回しながら、その顔は次第に怯えた表情になっていった。
彼がいないことに寂しさを募らせ、ただただ虚しい思いを抱いた私は静かに部屋を出た。
折れたヒールを片手に泣きながら、今日も夜更けの街をフラフラ歩く。
すれ違う人は誰も私に目もくれず、無表情に歩いてる。
時々ぶつかりそうになって、振り向き不思議な顔をする人もいた。
私は彼に逢えない寂しさを抱いて、今夜もビルの屋上へ行き泣きながら夜景を眺めた。
そして…酔っていた私は‥
夜風に吹かれながら‥
また眠りにつく…
いつかまた優しい夜風が吹き、揺り起こしてくれる日まで…
おしまい
人の未練は切なくて
悔やむ想いは消えぬまま
過ぎる季節も気付かずに
さ迷う心は憂いに満ちて…
小麦
表紙PhotoAC
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