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青天の霹靂 [3] SF連載小説

コメディ要素あり(#^^#)



前回のあらすじ

脳波とセンサーから五感を刺激してリアルなシミュレーションゲームを創り出したUnity VR corporation。

そのゲーム会社の開発した、発売前のバーチャルリアリティ恋愛シミュレーションのソフトウェアとハードウェアに、何らかのトラブルが起きてシステムダウン。
被験者モニターである浅田美桜あさだみおの意識がゲームサーバーの中に取り残されてしまった。

被験者モニターの意識を探し当てた同社の研究開発者達は、被験者モニターである浅田美桜あさだみおの意識を、リアルな記憶の中の美桜の自宅に呼び戻すことに成功した。

そしてメタバースを介してゲームサーバー内へ侵入したレスキュー、イケオジ福谷。
そして浅田美桜との合流に成功した。
だが、浅田美桜のリアルな記憶のその世界はUnity VR corporationの別の新開発ソフトウェアで、販売間近であるサバイバルシミュレーション、リアリティを追求したVRソフト「ゾンビサバイバル•DERIVE」の世界とリンクしていたのである。

だが、それはイケオジ福谷は勿論、Unity VR corporationソフトウェア開発チームも気付いていなかった。

そんな中、浅田美桜の住む3階建ての集合住宅の周りには沢山のゾンビが徘徊していた。
浅田美桜は3階の住人を言葉巧みに操り、囮として建物の外へ誘導して、ゾンビを囮に引き付け自分達の脱出ルートを確保したのである。


隣人

自転車の鍵を手に持ち、私は災害時の避難用品と食料が入ったリュックを背負い、冷蔵庫から500のミネラルウォーターペットボトルを2本取り出し、リュックの両脇のボトルホルダーに差し込んだ。

レスキューイケオジ福谷さんにはキックボードを渡した。もちろん高価な電動ではない。一瞬だが、イケオジ福ちゃんは不満そうな顔をした。

そんなイケオジ福ちゃんにはお構い無しに、脱出ルートの再確認をした。

『福谷さん、Unity VR corporationに繋がる出口のIPアドレスは横浜駅周辺と、みなとみらいの赤レンガ倉庫だけですね?』

『そうです。後は何故だか消えてしまいました』

『分かりました。ゾンビがバラけてるうちにここを出ましょう。ここから恩田川にそって鶴見川に出たら、サイクリングコースで鶴見まで行きましょう』

『そうですね。川沿いならゾンビも少ないはずです。行きましょう』

『オッケー!』

私が返事をすると福ちゃんは、玄関ドアの覗き穴を覗いた。

『今がチャンスだね。浅田さんも、ちょっと覗いてみてください』

イケオジ福ちゃんに言われ、割と広範囲が見える覗き穴から見た外の通路には、ゾンビらしき姿も人の姿も見えなかった。

私は、そっとドアを開けてみた。

この3階建ての集合住宅は各階に6世帯あり、各世帯のドアは左開き、右開きと交互に開くようになっていて、私の部屋の右開きの玄関ドアを開けると、左隣のスケベなオジサマの部屋の左開きドアが開いていて、ゾンビに食い荒らされた隣人スケベオジサマの上半身が玄関からはみ出していた。

『うへぇ〜、福谷さん。あれ何とかして‥‥』

玄関から離れた私は、福ちゃんに外を見るように玄関ドアを指差した。

『どれ、ちょっと見せてください』

女の私を安心させようとしたのか、福ちゃんは男らしく落ち着いた言い方でドアを開けて外を見た。

『ひぃっ!』

情けない声を出すイケオジ福ちゃん。気のせいか、髪が少し逆立ったような気がした。

『浅田さんが部屋に入れてくれたから、僕はあんな姿にならずに済みました』

『じゃあ今度は私を助けてください。あの隣のズタボロスケベオジサマを何とかしてください』

『わ、分かりました。僕が勇気を出して盾になってオヤジを隠しますんで、一気に駆け抜けて下さい』


本能か‥‥煩悩か‥‥

『オッケィ!お願いします』

『じゃ、行きますよ!』

イケオジ福ちゃん、躊躇ためらいの3秒後。ドアを開けて飛び出して、隣人スケベオジサマの、ゾンビに喰い散らかされて通路にハミ出た上半身を、福ちゃんは玄関ドアでオジサマを挟んで、私が楽に通れるようにしてくれた。

いまだっ!と気合を入れて、私が福ちゃんの横を通り過ぎようとした時、隣人スケベオジサマのズタボロの上半身が突然動き出し、這いずりゾンビと化したズタボロスケベオジサマに驚いた福ちゃんの足を掴んで、ドアから這いずり出てきた。

固まってしまうイケオジ福ちゃん。
隣人スケベオジサマの部屋の玄関ドアは再び通路を塞いだ。

ゾンビに食べられて上半身ズタボロスケベオジサマは、固まったままの福ちゃんの足の間を「つぅ〜」っと潜り、私の足を掴んで仰向けになって呟く隣人スケベオジサマ。

『白か‥‥』

オジサマは私のデニムのミニスカートを下から覗いた。私は腹立たしくも恥ずかしく、ゾンビになっても尚、セクハラスケベなオジサマの頭を蹴った。

ゾンビは欲に任せて他の人間を食べて感染者を増やすはずだが、既に動くご遺体となっている隣人のセクハラズタボロスケベオジサマの欲は、食欲より性欲が強かった事で、私も福ちゃんも無傷で済んだ。

いや、私は無傷ではない。少なくとも隣人にパンティは見られたのだ。だが、無傷ではないが助かったのは確かだ。

とは言え、ドラマのウォーキング・デッドはよく観ていたが、幸せそうな笑顔を浮かべるゾンビを私はこの時始めて見たのだ。

だが、動くご遺体ではあるが、普段からセクハラ発言の多かったオジサマとは言え、頭を蹴った罪悪感のようなものは否めなかった。

そして固まったままの福ちゃんの肩を叩こうと思ったが、叩いた瞬間ガラスのようにバラバラと崩れるのではないか、と思うほど固まっている福ちゃん。

私は恐る恐る福ちゃんの肩をトントンと叩いた。

身体をビクッとさせ、我に返るイケオジ福ちゃん。

『福谷さん、早く行きましょう!またゾンビが湧いちゃいますよ!』

『そ、そうですね。行きましょう』

福ちゃんは、そう言いながらも、幸せそうな笑顔のゾンビが逆に不気味に思える、セクハラズタボロスケベオジサマをチラリと見た。

『はい、行きましょう』

返事をした私と福ちゃんは、集合住宅2階の世帯を繋ぐ通路をソロリソロリと歩き、道路に面した階段にたどり着いた。


カンフー福谷

福ちゃんは私を見て、自分の口に人差し指を当て「しー」と囁き階段を覗いた。

一瞬福ちゃんの髪の毛が逆立ったように見えた。

どうやら目の前にゾンビがいたようで、一瞬固まった福ちゃんだったが、今度は男らしかった。

福ちゃんは体勢を変え、頑張るモード突入。
ファイティングポーズをとると、左ストレートを繰り出した。

私の見えないところで、ゴンッゴンッガンッ‥‥ガツン!と音が聞こえた。

福ちゃんは、私には見覚えあるファイティングポーズをとっていた。

そして私は、恐る恐る階段を覗いた。ゾンビが一階と二階の間の階段の踊り場で首をあらぬ方向に曲げて倒れていた。

福ちゃんを見ると見覚えのあるファイティングポーズ。

『えっ?あっ!カンフー映画?あっ、分かった。少林サッカーのゴールキーパーのポーズだ』

悔しそうな顔をする福ちゃん。

『残念、違うんだなー。似てるけど僕のはブルース・リーです』

『‥‥‥えっ?誰?』

『も、燃えよどら‥‥』

『分からないからもういいです。早くここを出ましょう』

『‥‥‥はい』

つれない私の言葉にカンフー福ちゃん意気消沈。

そして3階住人囮効果により、道路にはゾンビがチラホラと見えるだけだった。

私と福ちゃんは身を屈め、そぉ〜っと階段を降り階段下の自転車置場にたどり着いた。

アシスト機能無し、価格リーズナブルなマウンテンバイクのチェーンロックを外した。


市街地へ

私は自転車に乗り、福ちゃんはちょっと不安定な電動じゃないキックボード。階段横の道路は坂道で、左に行けば下り。右に行けば当然上り坂である。

坂を登れば鶴見川も近いが長い上り坂を、自転車押して行く事は、今の状況では誰が考えても危険である。

そこで、当然のように私達は重力に逆らわない下り坂を選び、遠回りになるが平坦な道で恩田川に出て、恩田川が合流する鶴見川に出るルートを選んだ。

あちらこちらにいるゾンビを巧みに避けながら、坂を下り突き当たりに差し掛かった。

この突き当りを左に行けば緑区の恩田川方向になる。

車は走っていない状態で、あちこちに乗り捨てられたように道路を塞いでいたり、電柱にぶつかったまま放置されていた。

ゾンビ達の動きは遅く、キックボードのイケオジ福ちゃんが、私の漕ぐ自転車に掴まっていても、普通に走っていれば追いつかれることはなかった。

家を出て5分。

東名高速道路の下の小さなトンネルが見えてきた。

そのトンネルを抜けると恩田川まではそう遠くない。

『福谷さん、あのトンネル抜けるよー!ちゃんと掴まっててね!』

『オッケー!』

トンネルまで50㍍程まで近付いた時だった。

そのトンネルから、一人の男が血相変えて走って飛び出してきた。

その2秒後、男と同じ位の速さでゾンビの集団が飛び出してきた。

私と福ちゃんは勿論、即Uターン。

血相変えて走る男の『助けてー!』という言葉を聞きながらも、私は福ちゃんを引っ張り全力で自転車を漕いだ。


表紙、挿入画 illust ac

続く。。。


走るゾンビは怖い(`;ω;´)↑↑↑

今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました😊

続きもお楽しみにぃ〜(#^^#)

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