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青天の霹靂 [2] 連載小説




前回までのあらすじ

Unity VR corporation新開発の、脳波と記憶からリアルに演出され、五感を刺激するセンサー搭載バーチャルリアリティ恋愛シミュレーション、発売前の被験者モニターとして選ばれた浅田美桜あさだみお

恋愛シミュレーションの滑り出しは良かったものの、Unity VR corporation恋愛シミュレーションのソフトウェアとハードウェアに何らかのトラブルが起きてシステムダウン。
サーバーに取り残された浅田美桜《あさだみお》の意識を探し当てた同社の研究開発者達は、被験者モニターである浅田美桜あさだみおの意識を、リアルな記憶の中に呼び戻すことに成功した。だが、そこは浅田美桜の記憶の中の世界であり、ソフトウェアで制御できるものではない。同社ゲームソフト開発研究員の中から被験者モニター救出のため、メタバースから浅田美桜の記憶の中へ侵入したレスキュー、イケオジ福谷が浅田美桜の居場所を突き止め向かうのだが‥‥。

そんな浅田美桜の記憶を呼び覚ました世界。それは同社の開発、販売間近であるサバイバルシミュレーション、リアリティを追求したVRソフト「ゾンビサバイバル•DERIVE」の世界とリンクしていたのである。

ゾンビサバイバル•DERIVEのソフトウェアが、何らかのトラブルで他のサーバーにリンクして悪影響を及ぼしていることを、同社の研究員達は誰も知らないのである。

そして、ゾンビに追い掛けられたレスキュー福谷はレスキュー対象者の浅田美桜に救出されたのである。

美桜の疑問

『浅田さん、すいません。あ、ありがとうございます。Unity VR corporationの福谷です。浅田さんを助けに来ました』

あわやゾンビに捕まりそうになった、福谷と名乗る男の顔は青ざめていた。

そんな慌てふためいて青ざめた顔のイケオジに対して、私の頭の中に???が沢山湧き出て「助けたのはアタシなんだけど‥‥?」と喉から出かかった言葉を、私は飲み込み込んだ。

『えっと‥‥、福谷さんでしたっけ?』

『はい。Unity VR corporationの福谷です』

『私を助けに来たってどういう事ですか?何故私の名前と家を知ってるんですか?外にいるゾンビみたいな人達は何ですか?』

頭の中の疑問をイケオジ福谷にぶつけた。

その時、玄関ドアをバンバン叩く音が聞こえ、ドアの横のすりガラスに数人の人影と、いくつもの手がすりガラスにへばりついていた。

同時に玄関のドアノブがガチャガチャと動くのが分かった。

福谷は慌ててドアの鍵をかけた。

「カチャッ」という鍵をかける音がした直後、ドアを激しくバンバンと叩く音がして、ドアノブがガチャガチャ音をたてていた。

それを見た私とイケオジ福谷は、息を殺して部屋の奥へと入った。

部屋の奥と言っても、ここは8畳サイズのダイニングキッチンと6畳のワンルーム。

玄関から筒抜けの間取りで、玄関ドアを壊されたら終わりだ。

だが息を潜めていると、次第にドアを叩く音が少なくなり、叩く音も弱くなった。

そして、私は再び福谷さんへ質問を投げかけた。

『福谷さん?』

『はい』

『福谷さん、さっき私を助けに来たって言ってましたよね?』

『はい』

『その理由を教えてください。今の状況がさっぱり分かりません』

『そうですね。詳しくお伝えします』

事の真相

『お願いします』

『えっと‥‥‥浅田さんは、当社の恋愛シミュレーションのモニターだった事覚えてますか?』

『覚えてます。Unity VR corporationの恋愛シミュレーションですよね?』

『そうです。その恋愛シミュレーションの途中でシステムにトラブルが起きて、浅田さんの脳波と意識がサーバーに直接リンクしてしまい、サーバー内に閉じ込められた状態になっています。
 そして今のこの世界は、浅田さんの記憶を元にサーバー内のAIが関連情報を集め創り上げた世界です。
 言わば浅田さんはこの世界の創造主です。そこへ私も潜り込み、浅田さんの脳波と意識をサーバーから脱出させて、もう一つのクライアントコンピュータに移動させるために私がレスキューとして来たのです‥‥が‥‥』

『え?ですが?えっと‥‥ですが‥‥って?』

『何でゾンビがいるのか分からないんです』

イケオジ福谷さんは、相当怖い思いをしたのか恐怖に怯えた顔をしていた。

その時、私の脳裏を横切るものがあった。

『もしかしたら最近観たウォーキング・デッドのせいかな?福谷さんの説明だと私がこの世界の創造主だとすれば、ゾンビ消せないかな?』

『確かに浅田さんの記憶から創られた世界ですからね‥‥もしかしたら消去デリートできるかもしれないですが‥‥』

『でも待って‥‥その前に、この世界からどうやって脱出するんですか?』

消えゆく脱出ルートと創造主 美桜

『はい、その事なのですが‥‥所々に脱出場所があるはずなのですが見当たらないんですよ。さっきまであった脱出場所も消えています』

福谷さんは、そう言って私にスマホのディスプレイを見せた。

『緊急用のサーバー脱出アプリです。AIに作らせました。当社接続IPアドレスの残りは横浜駅周辺と「みなとみらい」の赤レンガ倉庫にあります』

『そこまで行けば元に戻れるんですね?私の身体もUnity VR corporationにあるんですよね?』 

『はい、現在意識不明の状態です』

『えー!早く帰らないとダメじゃん!』 

『努力します!先ずはゾンビを何とかしないと!』

『私が「消えろ!」て念じたら消える?』

『分かりません、そもそもゾンビが居る意味が分かりませんが、試しに念じてみて下さい』

『わかりました』

私はゾンビが消えることを願いながら5分ほど念じた。

『まだいますか?ゾンビ‥』

私は窓から外の様子を見ていた福谷さんに問い掛けた。

『えぇ、まだいます。あっ!ゾンビから逃げてる人が捕まった。うわぁ‥‥食べられてる‥内臓が‥‥』

『福谷さん!解説しないでいいですから!』

『あ、す、すいません‥‥。浅田さんは車持ってますか?』

『無いです』

『自転車は?』

『あります。でも道路に面した階段下の自転車置場』

『他には?』

『キックボードなら‥‥』

私は部屋の片隅にあるキックボードを指さした。

『道路にはゾンビがいるからな‥‥』

『そうだ!ここは2階だから、このベランダの下にゾンビ集めちゃいましょう!ウォーキング・デッドだとゾンビは音に敏感みたいだから試してみましょう』

『そうだね。ここにゾンビ集めれば道路の方も少なくなるかもしれない。やってみましょう』


生贄にされる住人

相変わらず磨りガラスにゾンビの影が映っているので、私は鍋の蓋とフライパンをキッチンからそっと取り出し福谷さんにフライパンを渡した。

福谷さんと私は顔を見合わせて、せーので鍋の蓋とフライパンをベランダの手摺に叩きつけて大きな音を出した。

少しして、最上階の3階の部屋から『うるせぇぞ!』と声が聞こえた。

『うわぁ、何だこいつら!』

上の階から声が聞こえた。

『こっちにゾンビ集めますから今のうちに道路から逃げて下さい!』

私はそう叫んだ。

『分かった』と上の階から声が聞こえた。

私は3階の住民が建物を飛び出していくのを待った。

上の階からドンドンッと足音が聞こえて3階の通路を走る音が聞こえた。

その音につられたのか、2階の通路にいたゾンビ達も磨りガラスから見えなくなった。

3階の住人であろう男が、ゾンビに捕まりそうになりながら道路を走り去って行った。

『生贄完了。福谷さん、今なら通路も道路もゾンビ少ないかも』

私はキックボードを福谷さんに渡し、自転車の鍵を手に持ち災害時の避難用品と食料が入ったリュックを背負い、冷蔵庫から500のミネラルウォーターペットボトルを2本取り出し、リュックの両脇のボトルホルダーに差し込んだ。

そんな手際の良さと、3階の住人を囮に使う浅田美桜という、したたかな女の怖さを知るレスキュー福谷であった。


続く。。。


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