妹‥11【連載小説】クライムサスペンス
ハードボイルド クライムサスペンス
明暗
〇〇警察 捜査四課、武藤警部は同課の黒田警部補の押収拳銃横流しを嗅ぎ付けているであろう顔見知りの新聞記者、伊丹と密かに警察署内の人目の付かないところで接触した。
『お宅の新聞社、どこから拳銃と黒田の情報手に入れたのよ』
『俺達は上の指示で動いてるから分かりませんよ。武藤さんだって分かってるでしょ?』
『まぁね。今回の神栄商事襲撃事件も、ギャングの新田興業幹部宅の発砲事件も一番に駆け付けてるからさ。どこから情報手に入れてるのか気になってさ』
『上司に聞いてください。その事での話なら帰りますね』
伊丹はショルダーバッグを肩にかけ直し帰ろうとした。
『…面白い話があるんだけどさ…』
武藤がポケットに手を突っ込んだまま下を向き視線だけを伊丹に向けた。
帰ろうとした伊丹の視線が、興味ありげに武藤を見返した。
『何ですか、武藤さん。声潜めちゃって』
伊丹は下を向きながら視線だけを向ける武藤に向き直った。
『今回事件に使われた銃のことなんだけど…お宅ら黒田と銃の関係を探ってるよね?上の者は否定してるけどな。俺が身内の恥晒すのも何だけど…、実は俺もあんたらと同じで黒田が神栄商事に銃を横流ししたんじゃないかと思ってるんだ』
『あらら、そんなこと俺らに言っちゃっていいんですか?本当の話なら俺達には最高のご馳走ですがね』
『まぁ、俺の勘でもあるんだけど…十中八九間違いないと思うんだ』
『勘ですか…。そんなこと俺に話してどうするんですか…。上層部にバレたら大変ですよ?武藤さん』
『あんたたちだって何処で仕入れた情報か知らないけど、勘で動いてるんじゃないの?それにお宅の口の固さは折り紙つきだしな』
『上司がどこまで黒田と銃の関係を知ってるのか分かりませんけどね』
『だろうな…。
そこでだ…お宅らに黒田と銃の関係をとことん警察に対して追究してほしいんだ。
俺は…もう臭いものに蓋をするのは懲り懲りなんだ。
俺が黒田と銃の関係を上に言ってもうやむやにされるのが落ちだしな。
できるだけ情報は流すよ。やってくれるか?』
『情報料は?』
『そんなもんいらないよ。俺も黒田と同じになっちまう。あんたらが膿を絞り出してくれればそれでいいよ』
『なるほどね。そう言うことなら上の者も飛び付いてくると思う。この話は上の者にだけ話すから漏れたりすることはない。俺も上の者も口は固いからさ』
『あぁ、分かってる』
『じゃあ後で連絡する』
伊丹は手に持っていたスマホを武藤に見せた。
『分かった。電話より俺の携帯にメールで頼む』
『分かった』
そう言って二人は別れた。
記者の伊丹は、社に戻り上司である加藤に武藤警部が言った事を報告した。
『そうか…。うちとしても動きやすくなるな。伊丹、ありがとう。早速明日からでも出来る限り情報集めてくれ。俺達が警察の壁ぶっ壊してやろうぜ』
加藤の反応を見た伊丹も気合いが入った。
覚悟
その頃、須藤と亮介はこれからの事を話していた。
『なぁ亮介。このまま吉田を連れ回すのも無理だと思うんだ。
どうだろう…、俺の知り合いの新聞屋の言うように吉田を黒田に会わせてみないか?』
『そうですね。でも…吉田から俺と須藤さんの事が黒田の耳に入ったら、西城ビルの神栄商事を襲ったのは俺達だってバレますよ?せっかくギャングの仕業になってるのに…』
『そうなったら俺は琴音ママに金を渡して潔くパクられることにする。
吉田から巻き上げた金のことは一切口にしないけどな。
まぁ巻き上げたんじゃなくて店の弁償金で吉田が出した金だけどよ。
どの道、俺とお前は警察に終われてる身だし…今回の襲撃でも、亮介が最初に神栄商事を襲撃したときも死んだ奴は居ないみたいだしな。
刑務所行っても亮介は妹を拐われたのに警察が動かないから最初の神栄商事襲撃事件になった。
情状酌量の余地もあるだろう。
入って一年半、執行猶予が付いても二年くらいだと思うぜ』
亮介は考えていた。
由美を一人にしたくはないが、だからと言って警察から逃げ回るのもしんどい。
須藤は腹を決めてる…。
自分だけが逃げるのは亮介自信のルールに反する事でもあった。
『分かりました。吉田と黒田の繋がりが大っぴらになったら出頭しますか。俺達がぶっ倒した連中から俺と須藤さんの名前も何れは出てくるでしょうからね』
『お前はやっぱり腹が座ってるな。亮介は遠藤先生の所に金置いとけよ。遠藤先生は信用できる人だからさ。俺はママに全部預けとくよ。警察に金のことは知らぬ存ぜぬを押し通せよ』
『分かりました。実は、遠藤先生には由美の治療代として100万置いてあります。最初にとっ捕まえた神栄商事の神崎が持ってた金です。
とにかく、善は急げですね。昨日から会社から電話来てるんで辞めると伝えてきます』
『やるなぁ、亮介。機転が利くって言うか隙がねぇよな、お前には。さすがだ!
よっしゃ!腹を据えた所で、俺も会社に電話しとく‥‥か‥うっ‥‥』
須藤が言葉を詰まらせ腹を押さえた。
『須藤さん!?大丈夫ですか?』
『‥大丈夫だ。血は出てないから問題ない。俺も会社に電話しなきゃな‥‥』
病院に行くのは、この一件を終わらせてからだ、と病院行きを頑なに拒む須藤に、亮介は心配でならなかった。
二人はそれぞれ勤め先に電話を入れ一方的に辞める事を告げて電話を切った。
事実
その日仕事を終えた加藤は、須藤に電話をして伊丹の報告は伏せたまま、吉田と黒田の情報をどうやって手に入れたのか。そして黒田と接触させるために吉田を泳がせたいと須藤に告げた。
『加藤さんも感付いていると思うので、正直話すと神栄商事を襲ったのは俺です』
『…うん、そうだと思ってた。じゃなきゃ黒田と吉田の繋がりなんて解らないよね。
スナック鈴の音が神栄商事に襲われた件と関係してるのかな?
須藤さんも出入りしてたよね?鈴の音…。
俺に吉田と黒田の情報流したんだからさ…俺には全部話してくれないかな…』
『そうですね。分かりました』
須藤はそう言って、亮介の妹が拐われて吉田に薬射たれてオモチャにされたこと、行方不明の届けを出していたにも関わらず、見つからないことで、痺れを切らした亮介が単独で神栄商事を襲撃して妹を助け出したこと。
須藤はお気に入りのスナックのママに神栄商事の連中が怪我をさせたことと、店をメチャクチャにした事に腹を立てたことで二人で西城ビルに入っている神栄商事を襲撃した事を、お金の事以外洗いざらい加藤に話した。
『二人だけで?あの人数を?』
『そうです。ギャングの仕業になっているようだけど俺達とは一切関係ないです』
『怪我してないのか?須藤さんと佐久間くんは…』
『体のあちこちザックリ切れてます。もう血は止まってるから大丈夫だと思いますよ』
『痛くないの?』
『メチャクチャ痛いっすよ。一応薬は塗ってますがね。この件が終わったら病院と警察にお世話になります。だから早く楽になりたいので吉田を泳がすことにします』
『そうか…明日にでもできるかな。吉田と黒田の接触』
『吉田から黒田に電話させます。黒田が誘いに乗ってくれればいいんですけどね』
『もし黒田と連絡ついたら会う場所教えてくれるか?』
『もちろん』
『分かった。なるべく早く蹴りつけてしまおう』
『そうしてください。この件が終わったら俺達警察に出頭しますんで』
『出頭?』
『えぇ、佐久間と話して決めたことです』
『そうなのか…。分かった。神栄商事の事は極悪非道な記事で書いてやる。あんた達二人が読者から同情されるくらいにね』
『ありがたいです。じゃあ明日電話します』
『分かった』
須藤は加藤の返事を聞いて電話を切った。
仕込み
翌朝…
黒田へ電話させようと、須藤と亮介はトランクで縛り付けている吉田を起き上がらせようとしたとき、思いがけなく黒田から電話がかかってきた。
須藤は吉田に電話に出るように促した。
須藤はうっすらと汗をかいていて、顔色が悪くなっているのを亮介は見ていた。
「吉田…やっと出てくれたな。お前誰かに銃の事喋ったのか?」
亮介は自分のスマホをボイスレコーダーにして、吉田の携帯にくっつけるようにスマホを持っていた。
『誰にも言ってねぇよ』
「お前何処に居るんだ?話があるからこれから会えるか?」
吉田は亮介と須藤の顔を見た。
吉田の携帯に耳を近付けて聞いていた須藤が頷いた。
亮介は汗をかきながら、時々顔をしかめている須藤を見ていた。
『あぁ、会える』
「拳銃渡した場所覚えてるよな?」
『覚えてる』
「じゃあ一時間後の九時にあの場所でな」
『分かった』
電話は黒田から切った。
『吉田…場所何処だよ』
須藤が吉田を睨み付けるように聞いた。
『大黒ふ頭にあるベイブリッジスカイウォークの駐車場の奥だ』
『‥亮介分かるか?』
須藤は吉田が言った場所を亮介に確認した。
『はい、分かります』
『大黒ふ頭なら、ここから一時間掛からねぇな』
須藤はそう言って二人から離れて携帯を取り出し加藤に電話をかけた。
須藤は少し前屈みになり腹を押さえていた。
『はい加藤です』
『須藤です。黒田から吉田に電話がありまし…た。今から一時…間後に大黒ふ頭のベイブリッジスカイウォークの駐車場で…吉田…と黒田が会うことになりま…した』
『ほんとか!分かった!うちの記者を向かわせる。また電話する』
『分かった』
加藤は須藤の電話を切り、伊丹に電話して現場に向かうよう指示して、後武藤警部にも連絡するように言った。
伊丹は加藤の電話を切り、武藤警部にメールで吉田と黒田が会う場所を知らせた。
伊丹の連絡で、武藤は家から大黒ふ頭へ直行する事になった。
40分ほどで伊丹は大黒ふ頭にある、ベイブリッジスカイウォークの駐車場が見える場所に着いた。
左側には運動公園があり、伊丹は路上駐車のトラックに紛れて、ベイブリッジスカイウォークの駐車場の出入り口が見える所に路上駐車した。
伊丹から現場付近到着の連絡がきたことで、須藤と合流させるため、須藤が乗るランドクルーザーのナンバーを、加藤は伊丹に伝えた。
『分かりました。待機します』
『うん、もう少し待ってくれ』
『了解』
加藤は電話を切って須藤に電話をかけた。
『はい、須藤です』
「もしもし須藤さん。加藤です。黒田との接触場所付近にうちの記者で伊丹という者が待機しているので合流してください」
『‥‥わ‥‥わか‥った』
「須藤さん、体…痛いんじゃないですか?病院行った方が…」
『俺の事は気にしないでいい…』
須藤は加藤の言葉を遮るように言った。
「…分かった。うちの記者の車の車種は白のキャラバン。ナンバーは〇〇-〇〇。部下の名前は伊丹だ。部下には連絡してある。別の刑事も来るから部下の車に乗り換えてくれ」
『‥‥別の‥刑事?ど‥ういう事だ。お‥俺達を‥‥ハメたのか?』
「違う違う、別の刑事は黒田を追ってるんだ。あんた達じゃない」
『そうか…すまない…じゃあ…加藤さんの…部下の車見つけ次…第…佐久間と俺…は乗り換える…から…話つけといて…ください』
須藤の息は乱れていた。
「分かった。スカイウォーク入り口近くの運動公園の横にいるはずだから合流してくれ」
『分かった』
ほどなくして、大黒ふ頭運動公園の横で待機していた伊丹の車を見つけた亮介と須藤は伊丹と合流した。
続く。。。