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撃攘の盾… 弐拾壱



海中の攻防

ウルオロシアナ空軍と航空自衛隊が空戦を始めた同じ頃、オホーツク海海中では静かな戦闘も始まろうとしていた。

海上自衛隊最新鋭潜水艦「やまぎり」は単独で、紋別沖40㌔の海底深度800の深度600㍍で静止していた。


潜水艦「やまぎり」戦闘指揮所

『スクリュー音確認。ウルオロシアナ、ディーゼル機関ハルキロ級2、音紋一致。距離400。ブロー音確認、両艦浮上しています』

海上上空では戦闘機が夜の空戦中であることに、ハルキロ級潜水艦が艦対空ミサイルを使うと判断した潜水艦「やまぎり」艦長は、ソナー水測員の報告から即座に魚雷攻撃の命令を出した。

『アップ30、魚雷戦闘用意。目標ハルキロ級潜水艦、1番から4番魚雷装填..5番6番有線魚雷用意、有線魚雷は1から4番を撃った後5秒後に発射』

艦長の指示で、静かに艦首を上げる「やまぎり」の魚雷発射管に魚雷装填が開始された。

『魚雷発射管1から4番、有線魚雷5番、6番装填完了、目標ハルキロ級潜水艦』

水測員による艦長指示復唱が行われ1番から6番の魚雷発射口が静かに開かれた。

『撃ち方始め!』

『撃)てっ!』

艦長指示の後、水測員の操作により「やまぎり」から魚雷が放たれた。

海中から浮上中のウルオロシアナ、ハルキロ級潜水艦のディーゼル機関とスクリュー音がインプットされた長距離自動音紋追尾魚雷1番から4番まで「やまぎり」から発射された魚雷は55㌩(時速100㌔)でウルオロシアナ潜水艦を追いかけていった。
5秒後に長距離有線追尾魚雷が放たれた。

ウルオロシアナ潜水艦艦長の決断

ウルオロシアナハルキロ級潜水艦戦闘指揮所ではソナー員は魚雷発射管開口音らしき音を感知した。

海上自衛隊の最新鋭潜水艦「やまぎり」は、従来の潜水艦より飛躍的に静寂性を向上させていて、スクリュー音も魚雷発射口の開閉も音紋は多国に録られていなかった。

『ソナーに魚雷発射口扉らしい開放音を探知、魚雷発射確認!本艦後方400、魚雷4、本艦に向かう、更に魚雷2』

「デコイ発射、回避行動深度500急速潜航、前方海底に向けて魚雷1撃て。爆発で巻き上がる砂に隠れて海底ギリギリでかわすんだ」

『艦長、この艦で深度500は‥‥』

艦を操る操舵手が艦長を見ると、真一文字に閉じた口と、いつもと変わらない冷静さに言葉を飲み込んだ。

『この艦は大丈夫だ。私とこの艦を信じて復唱しろ!』

『はい!深度500急速潜航。前方海底に向けて1番魚雷装填完了』

艦長の指示に操舵手が復唱、ソナー担当兼魚雷射出要員が最終準備段階に入った。

『1番魚雷射管海水注入、発射口開放完了!』

『発射しろ!』

ウルオロシアナ、ハルキロ級潜水艦は艦長の指示により回避行動に入り、魚雷を海底に向けて発射。
更に囮のデコイを吐き出して急速潜航。

潜水艦設定深度380㍍の限界を超える深度500へ向けて潜航を始めた。

ウルオロシアナ、ハルキロ級潜水艦は、艦長命令でオホーツク海では比較的浅い600㍍の海底に向けて魚雷を放った。
海底の岩石と砂に魚雷を撃ち込み、巻き上がる岩石と砂で、音紋追尾魚雷を撹乱しようと考えた。

「やまぎり」が放った長距離自動追尾魚雷4発は、距離を縮めたハルキロ級潜水艦に音波を発し目標をロックした。

だが2発の魚雷が囮のデコイにより爆発消滅した。

ハルキロ級潜水艦艦長は、自艦のスクリュー音を撹乱する囮であるデコイを4発発射していたが、2発の魚雷がデコイに吸い寄せられ爆発、消滅しただけだった。

残りの音紋追尾魚雷2発は、デコイに当たった魚雷の爆発で、一瞬だが迷走した後、再び追尾を開始。有線誘導魚雷はデコイを完全無視ししてハルキロ級潜水艦を追尾。

音紋追尾魚雷2発と有線長距離誘導魚雷2発、計4発の魚雷がハルキロ級潜水艦を追いかけた。

再びデコイを発射するハルキロ級潜水艦は深度360を超えて尚も潜航。

迷走した魚雷2発はデコイに吸い寄せられ爆発、消滅した。


「やまぎり」戦闘指揮所

『敵艦潜航続く、深度400を超え尚も潜航中!』

『航行不能になったか』

『スクリューは稼働しています。ただ、潜航直前に魚雷を発射しています』

「魚雷?なるほどな。奴は海底の砂に紛れて逃げるかもな。どのみち有線魚雷からは逃れられないだろう。若しくは最悪の‥‥圧壊」

「やまぎり」艦長は口に出さないままそんな事を考えていた。

『モノマルフ級スクリュー音確認。距離380深度300。こちらに向かってきます』

『このまま待つんだ。おそらく大きな爆発が起こるだろう。その一瞬を狙って潜航、深度750』

ソナー水測員の報告に艦長は指示、命令を下した。


ハルキロ級潜水艦艦内

『魚雷2消滅、魚雷残り2。自艦魚雷海底着弾まで後5秒』

『ピンガ撃て』

ハルキロ級潜水艦は音波を発する「コーン」という音を出した。

艦内操舵席前のモニターに海底地形が浮び上った。

『爆破後に突っ込むんだ。おそらく有線誘導魚雷を撹乱できるだろう』

ハルキロ級潜水艦は深度400を超えて深度420に達した時、艦体はギシギシと嫌な音をたて始めた。

そこへ、ハルキロ級潜水艦が海底に向けて発射した魚雷が海底を抉り爆発した。

岩石と海底の砂が気泡と共に激しく巻き上がった。

『気泡に突っ込め』

ハルキロ級潜水艦艦内にギシギシと嫌な音が聞こえた。

海底爆破の衝撃波に艦体は激しく揺すられながら、爆発後の気泡に潜り込んだ。

『深度480』

ハルキロ級潜水艦内に「ギギギィィ」「ガンッ」「ガキッ」という音が響いていた。

艦内乗員の顔は恐怖と不安にまみれた汗に濡れていた。

ハルキロ級潜水艦後方で二つの爆発が起きた。

激しい衝撃波が艦尾を襲った。

『メインタンクブロー、急速浮上!ダメージ報告急げ!』

自艦を追いかけていた魚雷爆発を確認して、ハルキロ級潜水艦艦長は急速浮上の命令を下した。

『艦尾損傷航行に支障あり。ディーゼル機関停止、バッテリー動力異常無し。艦内艦尾より浸水あり。防水ハッチ閉鎖する。艦尾乗員避難急げ』

ハルキロ級潜水艦副長の艦内艦尾防水ハッチ閉鎖指示から2分後に艦尾防水ハッチの閉鎖が完了した。

掠り傷や頭をぶつけ血を流す者も居たが大きな怪我もなく犠牲者が居ないことに艦長は胸を撫で下ろした。

『深度350、依然浮上中。バッテリー発火するも自動消火完了。バッテリー航行不能となりました』

『そのまま海面に出て、ハルキロ級、モノマルフ級に救助を求め総員退艦せよ』

近付くサロマ湖上陸艦隊

魚雷による海底爆破と同時に急速潜航した海上自衛隊潜水艦「やまぎり」は海底で静止したまま、ウルオロシアナ潜水艦群の動向を伺っていた。

圧壊を免れた事に、同じ潜水艦乗りとして敵ながらホッとする思いの「やまぎり」艦長だった。

『ハルキロ級海面浮上。ハッチ開いた。モノマルフ級、ハルキロ級が海面で集結しています』

『おそらく航行不能で総員退艦だろう‥‥』

『新しい複数のスクリュー音確認、大艦隊の模様。こちらに向かっています。サロマ湖上陸艦隊でしょうか‥』

『うむ、間違いないだろう。通信アンテナ深度まで浮上』

ソナー水測員の報告に艦長は浮上を指示した。


サリハンスーク コルサールフ港湾から出港したサロマ湖上陸艦隊は、空戦域を避け、サロマ湖まで3時間の所まで来ていた。

ミサイル対艦、対空、駆逐艦 2
ミサイル対地、対空、駆逐艦 2
ミサイル原子力巡洋艦 1
揚陸艦 4
対潜コルベット艦 4 
大型対潜巡洋艦 1 
ハルキロ級潜水艦 2
補給艦 2

サロマ湖上陸艦隊援護機は、破壊された国後、択捉島の飛行場から破壊を免れた戦闘機が破壊されていない誘導路から離陸を始めた。

離陸は何とかできるものの、着陸は不可能で戦闘後はサリハンスーク空港へ向かう事になった。

国後、択捉島飛行場からの戦闘機は対地攻撃機40機、戦闘機50機のみだった。

戦闘機25機がサロマ湖上陸艦隊直掩機となり、残りはサロマ湖上陸支援のため待機となった。

海上自衛隊と航空自衛隊をサロマ湖と空戦域を分散させるため、空戦域にはウルオロシアナの航空機が押し寄せていた。

「いつくしま」空母艦隊は、釧路沖から根室海峡へ向かっていた。

サロマ湖周辺には高射連隊が広範囲に増援されていた。

本州からの応援で、根室中標津空港へ高射部隊を載せた輸送機が次々と着陸していた。

女満別空港には「いつくしま」飛行隊中継飛行場となり、根室中標津空港には対戦車ヘリが待機していた。

変わり果てたサロマ湖は、破壊された防波堤に白い波をたてながら、砕ける波は痛みに耐えているかのように今までとは違う波音をたてていた。


続く。。。

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