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妹‥ 5 【連載小説】



須藤の協力

新栄商事の男達4人が、スナック「鈴の音」を襲撃した。

そこへ亮介が店に飛び込み乱闘が始まった。
亮介が3人を沈黙させたところで、須藤が店に入ってきた。

めちゃくちゃになった店内を見回し、亮介を見てから新栄商事の男を睨み付けた。


『テメェが店をこんなにしたのか?』

須藤は、そう言いながら床に転がっていた木刀を拾い上げた。

『だったら何だ!テメェは横から口出すんじゃねぇよ!』

そう言って男は亮介に木刀を振りかざした。

須藤は拾い上げた木刀で、素早く男の木刀を弾いた。

その勢いで須藤は男の足の脛を目掛けて木刀を叩きつけた。

男は呻き声をあげて床に倒れた。

その時、体の大きな男を残して他の三人は店から出て外に停めてある車に乗り込んで逃げていった。

『ママ、大丈夫か?顔から血が出てるぞ…』

脛を叩かれ床に体を丸めて転がる男を横目に、須藤は琴音の側に行きハンカチを取り出し琴音の傷口にそっと当てた。

『怖かった…須藤さん…怖かった…』

琴音は須藤に抱き付き体を震わせて泣き出した。

琴音は泣きながら事の経緯を須藤に話した。

『そうか…分かった。ママ、ちょっとここに居てくれ…』

須藤は琴音の側を離れて亮介に歩み寄った。

『亮介、大丈夫か?やられたのか?』

須藤は亮介に声をかけた。

『須藤さん、俺は大丈夫です。ママの側に居てあげてください。俺、コイツらのアジト聞き出して吉田を取っ捕まえてきます。ママの店までこんなことしやがって、もう許せないです。必ず吉田に償わせてやる』

『俺もその話乗るよ。ママに手を出したこと後悔させてやる。このでかい男から聞き出すか?』

『いいんですか?須藤さん…』

『昨日電話でも言ったろ?ママに手を出したら許さねぇって。この男別の場所に連れてくぞ』

『それなら話も早いや。須藤さん、これ使いましょう』

亮介はポケットから落ちたビニール紐を須藤に見せた。

『おっ、いいものあるじゃん。こいつの手足縛っちまおうぜ』

『俺も神栄商事の奴等を捕まえて吉田の居所掴もうとして用意してたんですよ。車持ってきますからこいつ乗せちゃいましょう』

『そうだな。ママ、こいつ車に乗せたら警察に電話して店が襲われたって言って』

須藤は琴音に向かって言った。

『分かった。でも襲われた理由何て言う?』

『そうだな…あっ、ママがコイツらを出入り禁止にしたからって言うことにしとこう。コイツらから店の弁償代も貰わないといけないからな』

『分かった。コイツらから500万くらい取っちゃって!』

琴音はそう言ってカウンターから出てきて亮介がビニール紐で縛り上げた男を蹴り飛ばした。

須藤と亮介は顔を見合わせてニヤッと笑った。

『俺、車持ってきますね』

『おう、頼む』

『ママ、後は上手く口裏合わせといて。亮介が居たことバレたら不味いから』

『わかってる』

それから五分も掛からないで、須藤と亮介は男と投げ出されていた木刀を車に乗せて走り去った。

困惑する琴音


『亮介、今夜中に片付けちまおうぜ。あまり長引かせたくないからな』

『そうですね』

須藤が話に乗ってくれたことが、亮介は心強く感じていた。

たった今大乱闘があったことが幻のように思えるような、夜の町のクリスマスイルミネーションが亮介の目に揺れていた。

スナック「鈴の音」のママでえる鈴木琴音は、須藤と亮介が神栄商事の男を捕らえて店を出ていった後、店が荒らされたと警察に通報して10分程で警察官数人と刑事二人が現場の鈴の音に到着した。


『捜査四課の黒田です。派手にやられましたなぁ…』

刑事の黒田は被害者である琴音に事情聴取を始めた。

『えぇ…。男四人が突然店に入ってきて…あっという間にこの有り様です』

琴音は顔の傷を須藤のハンカチで押さえながら応えた。

『その四人組ですが…顔に見覚えはありましたか?』

『はい。つい最近、店の中で他のお客さんに喧嘩をふっかけたグループがいて、それまでも他のお客さんに変な言いがかりつけたりしていたので、出入り禁止って私が言ったことがあるんです。その時のグループの中の二人は、さっき店を滅茶苦茶にした四人の中に居ました。今回の4人の名前は知りません』

琴音は本当の事を、捜査四課の黒田に伝えた。

『新栄商事のグループの中の誰か一人でも名前分かりますかね』

『はい、神栄商事の社長だと名乗る吉田という人しかわかりません…』

黒田の視線が不意に琴音から逸れて、酒のビンが散乱する床を見て琴音に視線を戻した。

『なるほど…。その時ですが…その神栄商事の吉田や連れの者に危害を加えたお客さんが居ませんでしたか?』

『助けてくれたお客さんはいましたけど…』

琴音は須藤の名前を出すのを躊躇った。

『その助けてくれたお客さんは常連さんですか?』

『えぇ…まぁ、そうです…』

『もしかしたら須藤という男ではないですか?』

琴音は、心臓が跳び跳ねたように感じた。

『なぜ名前を言わなければいけないんですか?お客様の事はお話しできません』

黒田刑事は琴音の目を2〜3秒見つめて口を開いた。

『そうですか…。あのですね…その須藤という男に、その神栄商事の社員から大怪我を負ったと被害届が出されているんですよ…』

琴音は黒田の言葉に対し、あからさまに呆れた顔を黒田に見せた。

『ちょっと待ってください。その事とこの滅茶苦茶にされた私のお店となにか関係あるんですか?うちの被害で刑事さんが来たんじゃないんですか?それに私の店を滅茶苦茶にして私も怪我してるんですよ?神栄商事の連中の方がよっぽどたちの悪い暴力団じゃないですか!』

『勿論そうだと思います。しかしここまでさせたのは須藤という男が原因でもありますからね。とりあえず須藤を障害の容疑で我々も捜査中でしてね。須藤は元々暴力団でもありましたから我々四課が出向いたわけです』

黒田は被害者である琴音を他所に、須藤の事に重点を置いていた。

『私被害者なんですよ?私の事はどうでもいいんですか?』

琴音は黒田に対して怒りを露にした。

『分かってます。後程神栄商事の吉田という人に聴取してみます。それとここで働いていた佐久間由美という女性の行方不明の届けが由美の兄の佐久間亮介から捜索願いが出されているんですが佐久間亮介はご存じですか?』

亮介の名前が黒田から出たことで、琴音はわざと大袈裟に呆れた顔を黒田に見せて何も言わなかった。

『ニュースでご存じかと思いますが…佐久間亮介は神栄商事の社員に対して暴行監禁、傷害で容疑がかけられていまして捜査一課の方で行方を追っています。佐久間亮介もここの店に以前は出入りしていたようですが、最近は来ていませんでしたか?』

黒田は尚も琴音に食い下がった

『もう刑事さんとはお話ししたくありません!私の被害には関心が無いようですから…別の刑事さんとお話しします』

琴音はそう言って黒田から離れた。

琴音はもう一人の若い刑事に黒田とは話したくないと告げ、若い刑事に事情を話始めた。

そこで黒田は琴音が居ないかのように若い刑事を呼びつけた。

黒田は若い刑事に耳打ちして、若い刑事が琴音のところへ戻ってきた。

戻ってきた若い刑事は開口一番に須藤の事を琴音に聞くのだった。

琴音は若い刑事に食って掛かり、それ以降一切口を開かなかった。

そして琴音は須藤に刑事の対応と須藤が傷害で訴えられていて警察が探していることをメールで告げた。

電話だと聞かれる恐れがあったので、それは須藤と亮介に対する琴音の精一杯の配慮だった。

燻り

琴音からメールを受けた須藤は舌打ちをした。

『亮介…』

『何ですか?』

『不味いことになった…』

『えーっ?何ですか不味いことって!』

『奴に聞かれたくないからちょっと待ってろ…』

須藤はガムテープを探したが無かったので、残っていたビニール紐を小さく丸めて、助手席から後ろの席に移動して、鈴の音から連れてきた体の大きな男の両耳に詰め込んで顔をビニール紐でぐるぐる巻きにした。

男は手足を縛られ、その縛られた手足と首をビニール紐で繋がれていて、口には自分の履いていた靴下を詰められていたので、男は顔を左右に動かす以外、ほぼ無抵抗だった。

『これでよし!』

そう言って須藤は助手席に戻った。

『不味いことって何ですか?』

亮介は運転しながら須藤をチラッと見た。

『その事なんだけどよ~。俺も警察に追われてるみたいなんだ』

『えーっ!何でですか!』

『あぁ、どうやら吉田と吉の部下が俺に怪我させられたって警察に届け出たらしいんだ。どうせ吉田の入れ知恵だと思うけどな…。でも、何かおかしいんだよな…』

『何処がどうおかしいんですか?』

『琴音ママから教えてもらったんだけどよ、俺達が店を出たら警察に連絡しろってママに言ったろ?』

『はい』

『ママが警察に連絡して刑事が来たらしいんだが、店の被害状況を全然聞かないで俺と亮介の事ばかり聞いてたらしいんだ。おまけに店が滅茶苦茶になったのは俺が悪いようなこと言ってるそうだ。何かおかしくねぇか?』

『妙ですね…。須藤さんに全部責任を押し付けてるみたいじゃないですか』

『まぁ、確かに怪我してたかもしれねぇけどな』

須藤は口許だけでにやっと笑った。

『俺が元暴力団だったから四課の刑事が来たってママのメールに書いてあったよ。神栄商事の方がまんま暴力団じゃねぇかよ。なぁ?』

『奴等は暴力団以外何者でもないですよ。妹拐ってボロボロにした挙げ句ママの店まで滅茶苦茶にしやがって!』

『だよなー。でもよ、その四課のデカおかしくねぇか?もしかして吉田とつるんでたりしてな…』

須藤の言葉に亮介は沈黙した。

須藤自信もその後なにも言わなくなった。

少しの沈黙の後、亮介は口を開いた。

『須藤さん…もしかしたらじゃなくて本当の事もあり得ますよ…』

『やっぱりお前もそう思うか…。だとしたら、何としても今夜か明日中にけりを付けなきゃな』

『吉田取っ捕まえましょう』

『おう』


続く。。。



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