決意の盾… 伍
表紙画 海上自衛隊HP
稚内空港基地 航空機増援部隊
二等空佐、伊上編隊長率いる千歳基地202飛行隊 F15パイロット20名。
二等空佐、小林編隊長率いる千歳基地203飛行隊 F35パイロット20名。
新たに対艦ミサイル1機装備の
電子戦機 F2 一機 搭乗2名。
三沢基地からは二等空佐の加藤率いる302飛行隊 F3 7機増援で、F3は10機となった。
更に、青森大湊基地から 旗艦イージス艦「まや」
護衛艦「ゆうだち」「しらぬい」第3護衛艦隊
3艦が根室沖に向かっていた。
各パイロットはミサイル飛来のアラートとともに、自衛隊支給の戦闘食である晩御飯も途中のまま出撃準備を整え、各戦闘機 駐機場所である稚内空港管制塔横の格納庫内に駆け込んできた。
稚内基地司令 神田一成
『みな、食事中だったようで申し訳ない。どうやらウルオロシアナ軍は昼も夜も関係ないようだ。
ミサイルの後には間違いなく航空機も飛来するだろう。北方四島にはウルオロシアナ戦闘機が本土から集結している。飛行場がない島は幹線道路を滑走路にしているようだ。
航空機の数も更に増えると思う。
弾薬等の消耗戦も覚悟しなければならない。現在、イージス艦「はぐろ」護衛艦「さみだれ」「きりさめ」ヘリ搭載護衛艦「ひゅうが」哨戒ミサイル艇「はやぶさ」「くまたか」二艇は、稚内と網走の間の沖合いで道内陸自とデータリンクによりミサイル6機の迎撃待機中、射程に入り次第迎撃を開始する。海自の潜水艦も数隻展開している。
そこで202, 203、302飛行隊にはミサイル迎撃のイージス艦隊を、後から群がるであろう敵戦闘機からの援護を頼む。
青森むつの大湊基地からは第3護衛艦隊 旗艦イージス艦「まや」
護衛艦「ゆうだち」「しらぬい」が現在根室沖に向かっている。
それから日本海側には、今年に入ってからミサイル試射を頻繁に行っている北鮮共国家に睨みを利かせている米空母艦隊が小樽沖に向かっている。
米空母艦隊はそこに存在するだけで抑止力になると思う。
北海道の原発である泊発電所は現在稼働停止しているが、敵のミサイル攻撃の可能性もあり、現在陸自の千歳第7師団が展開中だ』
稚内基地司令、神田一成はここで一呼吸おいた。
『そこでだ…正直な話、専守防衛だけでは埒が明かないのは皆も十分にわかっていると思う。軍の規模で見れば我々は圧倒的に不利だ。
専守防衛を念頭に置きつつも積極防衛も意識しなければならない。
そして日本本土にはウルオロシアナ軍を絶対に上陸させてはならない!
幸いにして我が国は海に囲まれた島国だ。場合によっては艦の撃沈、航空機の撃墜もやむを得なくなるだろう。ウルオロシアナ軍は躊躇無く撃ってくる。
我々はあくまでも盾ではあるが矛も持つ。それはただの飾りではないはずだ。躊躇無く反撃、または攻撃しなければならない。
過去の大戦で日本を守り抜いた英霊の基に、我々は再び国土、国民、家族を守り抜かねばならない!
皆の無事と健闘を祈る。
そして…必ず帰って来てくれ。
これは隊の願いであり、私個人の思いであり私個人の切望‥‥いや、命令として受け取ってほしい。必ず帰ってきてくれ。以上!』
神田はパイロット達の顔を見ながら、専守防衛の中で積極防衛もやむ無し、とパイロット全員に無事な帰還を望むと伝えた。
最後の司令個人の「命令」にパイロット達は、全員の連帯感が一体感になったような気がしていた。
各パイロットの士気は格段に高まり、お互いの手に持ったヘルメットをぶつけ合い、気合いを入れて自機戦闘機に向かい走り出した。
敵機大編隊出撃
一方、稚内沖で新たなミサイル6機を捕捉しているイージス艦隊旗艦「はぐろ」にヘリコプター搭載護衛艦「ひゅうが」から発艦している夜間哨戒の対潜水艦ヘリコプター「シーホーク」から無線が入った。
『ウルオロシアナ原潜、モノマルフ級2, ディーゼル艦、ハルキロ級2。それぞれがキロ級1マルフ1のペアで潜航中。キロ級においては対空ミサイル8基装備、機雷多数装備、警戒を厳にされたし』
シーホークからは、それぞれのウルオロシアナ潜水艦の位置を知らせるデータが「はぐろ」に送られてきた。
続けて早期警戒機から北方四島のうちの一つである「択捉島」「歯舞群島」から航空機確認との通信が「はぐろ」へと送られてきた。
そして、その数は30機の編隊へと膨らみ最終的に50機の編隊となった。
編隊は二つに分かれイージス艦「はぐろ」艦隊と根室沖に向かっている
旗艦イージス艦「まや」護衛艦「ゆうだち」「しらぬい」の第3護衛艦隊へと向かう2編隊に別れていった。
『機雷か…ばらまかれたら厄介だな…』
イージス艦「はぐろ」の兼石艦長が呟いた。
『もし、ばらまかれるとしたら、おそらく浮遊型の機雷と思われます』
副長の水橋が応えて水橋はあることを思い付いた。
『艦長、これは先にこちらで機雷を仕掛けたという嘘の情報を流してみてはどうでしょう。
向こうもレーダーでこちらを監視しているはず。
哨戒ミサイル艇に魚雷配備の動きを見せて、情報をわざと漏らして敵の動きを見てみましょう。
恐らく疑心暗鬼で戸惑うかもしれません。
そこへ電子戦機で敵の目を奪いましょう』
その時、潜水艦「やまぎり」より敵艦隊の中に揚陸艦と思われる艦影確認、との一方が「はぐろ」へ送られてきた。
「はぐろ」艦長、兼石は躊躇することなく、副長、水橋の案を実行するよう促した。
補給艦より燃料補給を終えていた哨戒ミサイル艇「はやぶさ」「くまたか」ニ艇に5海里程先で機雷の配備をする振りをするよう旗艦「はぐろ」から指示が来た。
疑心暗鬼
『どういうことですかね、艦長』
「はぐろ」からの通信を傍受した「はやぶさ」通信長は艦長への報告と疑問を投げ掛けた。
『うむ…恐らく敵艦隊を疑心暗鬼に陥れろということだろう。ミサイル艇「くまたか」に我に続け、と伝えるんだ』
数秒後、哨戒ミサイル艇ニ艇は最大戦速で航行、数分後に5海里へと着いた。
航行中、「くまたか」と作戦を練り、「はやぶさ」は5海里地点から根室方面へ、「くまたか」は稚内方面へと左右に展開、1 往復して機雷配備完了の報告を通常無線で「はぐろ」へと打診した。
その間、遥か上空で六つの閃光が小さな花火のように光っていた。
『奴等、どう出てきますかな?』
「くまたか」の艦長はライトを使ったモールス信号を「はやぶさ」へと送った。
『騙されずとも迷いはでるはず』
と「はやぶさ」艦長は自艦のライトのモールス信号で返信するのだった。
一方、ウルオロシアナ空母艦隊は日本哨戒艇が左右に展開したところから7海里ほど手前にいた。
その時点で日本哨戒艇ニ艇と航空自衛隊の10機編隊が空母艦隊のレーダーに映り込んでいた。
そこへ、駆逐艦通信班より「敵、機雷配備完了」の通信傍受が空母司令室へと送られてきた。
艦隊旗艦である空母艦長は、艦隊に停止命令を出した。
『機雷だと?』
空母艦隊が呟いた。
『おそらく、さっきの敵艦の怪しい動きがそうだったのでしょう。ちょうど日本が決めている領海ですから…』
そう言って、艦隊上空を2つに分かれて飛び去る自軍の戦闘機から発する点滅する光を見つめながら副長が何かを考えるように顎に手を当てていた。
『艦長、あの短時間で設置できる機雷があるでしょうか…』
『うむ、私もそう思うんだが…日本の新兵器かもしれんしな。日本という国は何を隠し持ってるかわからんからな』
空母艦長の言葉の後、駆逐艦から通信が入った。
『我が艦隊の前方400、国籍不明潜水艦2 魚雷発射開口部開! 魚雷3、 発射しました』
通信班が叫んだ。
艦内に対潜警戒アラームが鳴り響いた。
『全艦、回避反転!デコイ発射、対潜警戒してなかったのか!』
『魚雷、距離300! 対潜警戒は怠っていません。突然ソナーに反応しました』
駆逐艦ソナー要員が叫んだ。
『距離200』
ソナー要員が叫ぶと同時に魚雷は自爆して、反転回避する空母艦隊の近くで高い水柱が3本立ち上がった。
爆発音に紛れて、国籍不明潜水艦2艦は姿を消した。
夜のオホーツク海で右往左往した空母艦隊の陣形は崩れた。
『くそったれの潜水艦はどこの潜水艦かわかったのか!?』
空母艦長が叫んだ。
『爆発音に紛れて消えました。国籍分かりません。魚雷発射管開口部音紋データ一致無し』
『何時でも攻撃できるってことか…』
ソナー要員の報告に空母艦長は、ふと、そんなことを考えるのだった。
三沢302飛行隊 F3散る
その頃、既に制空権争いをしていた加藤率いる三沢302飛行隊 F3 10機と小林率いる千歳203飛行隊 F35 10機と電子戦機1機は、25機ずつで2つに分かれた1編隊敵戦闘機と空戦の真最中だった。
夜間空戦は緊張の連続だった。
暗い海の上で、上下感覚を見失いそうになることもあり、突然目の前に敵機が現れて接触寸前も頻繁に起きていた。
その中から電子戦機 一機とF35 三機は空戦を抜け出し、敵空母艦隊へと向かった。
その三機を追いかける敵戦闘機三機に、三沢302飛行隊の斉藤と大崎が食らい付いた。
その時、大崎の操るF3のキャノピーに「ガガガガッ」という敵機機関砲の衝撃音と共に数個の穴が開いた。
大崎は何が起きたのかわからなかった。
突然なんの音も聞こえない世界に引きずり込まれた。
自機の翼が燃えているのを、コックピット内のミラー越しに何となくみていた大崎は、何故かその時スクランブル待機室で観ていた自衛隊を蔑視するプラカードを持っていた年配の女性を思い出していた。
『ふざけんじゃねぇよ…』
呟いた後、大崎は燃える翼を見ながらオホーツク海に飲まれていった。
続く…
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