撃攘の盾… 参
日本の意思
相次ぐミサイルの飛来、領空、領海侵犯、F15撃墜に日本政府はウルオロシアナ連邦国家に対し、強固な姿勢で遺憾の意を表明するとともに、如何なる領空、領海侵犯に伴う侵略を許さない事を強い意思をもってウルオロシアナ連邦国家を非難をした。
一方、ウルオロシアナ連邦国家は…。
『北海道は古くから北方四島とともに我々の領地である。侵略しているのは貴国であり速やかに返還願いたい。我が国は世界最大の核保有国である。
しかし我々も簡単に核を使うほど愚かではない。
今、貴国に向けているミサイルは通常弾頭、または弾頭のないミサイルである。
北海道が我々の文化に戻る事を望む。
私は以前から北海道を我が国へ取り戻すべきだと考えていた。
私は歴代大統領とは違う事を貴国にお伝えする。
応じていただけないのであるなら、我々も更なる強固な姿勢になると思っていただきたい』
ウルオロシアナ現大統領、Sロマーノフは核を持たない小さな島国である日本を過小評価していた。
『歯舞群島(はぼまいぐんとう)、色丹島(しこたんとう)国後島(くなしりとう)、択捉島(えとろふとう) 北方四島は1855年の我が国と貴国の通好条約以前から我が国の領土であり、日本ウルオ露通好条約以前も以降も我が国の領土でありウルオロシアナの人々も他の国の人も存在していない。
貴国はもう一度歴史を学ぶべきだ。
歴史を学び、その上で北方四島を返還しろというのであれば、愚かとしかいえない。
北海道においてはウルオロシアナに返還など我々は呆れてものもいえない。
とにかく、我が国に対する無駄なミサイルの攻撃、愚かな領空、領海侵犯は即刻止めていただきたい』
日本総理大臣である木嶋雄一は、ウルオロシアナ連邦国家とのホットラインを終えて、大きくため息をつきながら総理大臣執務室にいる自分より歳上の官房長官である大泉悟の顔を見た。
大泉は、よく言ってくれた! という表情と右手で拳を握り小さくガッツポーズを木嶋に見せた。
『総理、簡単に引き下がる相手ではありません。まずは万が一のために北海道の民間人を即刻避難させるべきです。米国大統領にも支援要請を…』
『そうですね…前回のウグリャーノ侵略の時のNATO加盟国や米国の振る舞いを見ていた私には、正直あまり当てにできないところはありますが、伝えるべきところは伝えておかないといけませんからね…』
そう言って木嶋は日本国総理大臣として自衛隊発足以来初めての有事に米国始め同盟国に自衛権発動を伝え支援を要請した。
米国は即応して経済制裁、金融制裁を発動した。
NATO 加盟国もウルオロシアナへの経済制裁を宣告した。
ウグリャーノ有事の失態をまたもや繰り返そうとするウルオロシアナ連邦国家に対し米国始めNATO加盟国は強い非難を露にした。
大中東亜共和国六場奪還計画
そんな中で、東アジア最大国家である大中東亜共和国家がウルオロシアナと日本を非難するのだった。
『古くは我々の領土であった沖縄、尖閣諸島は我が国の人工増加を恐れた小さな島国に占領され奪われた。
我が国もウルオロシアナ連邦国家同様領地奪還計画として六場奪還(六つの戦争)を行う計画がある。
この六場奪還(六つの戦争)計画は、2028年から2030年にかけて台南湾を取り返し、2031年から2034年にかけてベイナムトから南沙諸島を奪回し、2035年から2040年にかけて南チベートを手に入れるためインナドアルと戦争を行い、2040年から2045年にかけて尖閣諸島と沖縄を日本から奪回し、2045年から2050年にかけて外蒙古(モーンゴルテン国)を併合し、2055年から2060年にかけてウルオロシアナ帝国が奪った160万平方キロメートルの土地を取り戻して国土を回復する計画である』
各国への宣戦布告ともとれる計画ではあるが、机上の理想は絵に描いた餅でもある。
江戸時代の琉球国(現、沖縄)は、薩摩藩の支配下にあり、江戸幕府は琉球国を薩摩藩の一部とみていた。
一方で、琉球国はまた、清国と朝貢(ちょうこう)関係を結び福州を窓口として交易を行なっていた。
明治維新後の1872年に琉球国は琉球藩に改められて日本への帰属が明確化され、1879年には沖縄県が設置された。
そして尖閣諸島は、東シナ海を行き来する船に航路標識として利用され、琉球国の資料や絵図に描かれるなど、古くから知られる存在だった。
1819年頃には琉球王族の上陸記録があり、1859年には琉球国の人物が近付いて観察したという記録がある。
しかし、その時点で無人島だった尖閣諸島は、日本が領土編入した1895年まで、どこの国にも統治されたことはなく現在も日本の領土となっている。
大中東亜共和国家の声明は後に世界各国からの非難を浴びることになるのだった。
特に、台南湾とインナドアルは大中東亜共和国家の声明に即応し、激しく反発し真っ向から対立することを宣言したのだった。
ウルオロシアナ軍の日本国北海道侵略は、新たな冷戦の幕開けとなった。
ミサイル艇はやぶさ、くまたか
一方、稚内と網走の間のオホーツク沖では、対艦ミサイル1艇2基を積んでいる、機敏な動きで機動力のあるはやぶさ型哨戒ミサイル艇2艇「はやぶさ」「くまたか」はウォータージェットの水飛沫をあげながら40ノットを越える約80キロの速さで、既に日本の排他的経済水域に侵入したウルオロシアナ空母艦隊に近付きウルオロシアナ空母の甲板を破壊する作戦でいた。
敵艦隊が日本領海に入るまで対艦ミサイルの射程に入りながらも敵空母艦隊が攻撃してくるのを待ち構えていた。
そして、北方四島の領有権の領海が日本とウルオロシアナの違いによりウルオロシアナ空母艦隊は日本が示す領海に侵入してきた。
ウルオロシアナ軍は自分達の決めてある領海の認識で日本の領海に侵入していることに気付いてはいたが、自国の決めた領海域として前進していた。
哨戒ミサイル艇「はやぶさ」「くまたか」は日本領海に侵入したことを分からせるため、レーダーをウルオロシアナ航空母艦に照射した。
『貴艦は日本領海に侵入している。速やかに領海の外へ出るように。指示に従わない場合、警告射撃も辞さない』
「はやぶさ」からウルオロシアナ空母艦隊に無線が入った。
『日本という国は、国自体小さいから船も小さいんだな』
ウルオロシアナ空母の艦橋内では失笑の声が漏れた。
『断る! 我々は北海道奪還のための軍隊であり退くわけにはいかない』
「はやぶさ」「くまたか」哨戒ミサイル艇二艇は、ウルオロシアナ空母艦隊からレーダー照射を受けた。
それがウルオロシアナ空母からの返答だった。
今や自衛権発動の時。防衛出動が出ている今、「はやぶさ」艦長は躊躇なく砲雷長に主砲による威嚇射撃を指示した。
「はやぶさ」「くまたか」二艇の小さな主砲から四発の主砲弾が空母艦隊の前方に打ち込まれた。
それほど大きくない水柱が空母艦隊の前に立ち上がった。
『攻撃しろ』
水柱を見ていた空母艦隊司令は冷たい視線を遥か前方にいる、小さなはやぶさ型哨戒挺に向けて命令を出した。
『せめて敵からの攻撃を待っては…』
空母艦長は艦隊司令に意見を申し出た。
『なんだ? 艦長…文句でもあるか?』
空母艦長は司令の冷たい眼差しが更に冷たさを増したかのような冷酷な眼差しに何も言えなくなった。
『あんな小さい船にミサイルなんか使うな、どうせ反撃もできないだろうからな。主砲で十分だ』
そう言って司令は艦橋から出ていった。
『駆逐艦左右展開主砲発射用意、目標前方向 日本哨戒艇二』
この間「はやぶさ」「くまたか」哨戒ミサイル艇は動かないままでいた。
『艦長、敵艦隊に動きあり! 駆逐艦級2、左右展開します』
『おそらく奴等、主砲で攻撃してくるかもな…主砲の動きをよく見ていろ!すぐに動けるようにしておくんだ』
「はやぶさ」艇内、航海科の報告に、艦長は敵の動きに神経を尖らせていた。
『了解!』
『左右展開の駆逐艦、主砲展開します!』
『よし!全速前進、最大戦速!皆転ばないように掴まっとけ!』
『了解、最大戦速!』
駆逐艦主砲発射のボタンが押されるほんの数秒前に、ウォータージェットの水しぶきをあげながら敵艦隊に突っ込んでいく「はやぶさ」「くまたか」。
駆逐艦からの主砲と機関砲は水しぶきとともに哨戒ミサイル艇「くまたか」「はやぶさ」の前甲板を掠めた。
『砲雷長、レーダー照射してるよなー!?』
『ロックしてあります』
『よし撃てーー!』
艦長の叫び声に「はやぶさ」「くまたか」から四基の対艦ミサイルが弾き出された。
ミサイルは大きく弧を描き上昇してウルオロシアナ空母目掛けて四方から急降下を始めた。
ウルオロシアナ空母艦隊の艦艇から対空砲であるファランクスの機関砲の軌跡が「はやぶさ」「くまたか」が撃ち放った4機のミサイル目掛けて発射されていた。1機2機と破壊され3機破壊されたところで最後の4機目のミサイルが空母の甲板を直撃した。
穴が空いたかどうかは解らないが、甲板に駐機していた戦闘機が数機炎上したことを、哨戒ミサイル艇「はやぶさ」「くまたか」艦長は確認した。
『対艦ミサイル1、敵空母被弾、駐機航空機炎上!』
航海科見張り要員の報告を艦長は確認した。
『よし、引き上げるぞ! イージス艦隊に向けて最大戦速!』
「はやぶさ」と「くまたか」は最大戦速のまま40ノットを越える速さでイージス艦隊に向かった。
自衛隊千歳基地
一方、千歳202飛行隊のF15 5機 F35 5機
三沢302飛行隊 F3 3機のうち、 F15 1機墜落、
F35 2機被弾 F3 3機被弾無しで空戦を終えていて、各機は待機していた空中空油機で給油を行い千歳基地へ集結した。
北海道へ向かっていた弾道ミサイル3機はイージス艦「はぐろ」が撃ち落とした。
ウルオロシアナ軍においては、撃墜された航空機多数被弾した航空機多数、航空母艦中破、母艦は甲板で航空機多数炎上中。
千歳基地内では戦況が報告されていた。
母艦を失った航空機も空中空油機が待機していたならどこかの基地へ戻っているのかも知れない。
千歳基地202飛行隊、三沢基地302飛行隊のパイロット達はそんなことを考えていた。
墜落した岡部二等空佐は「ひゅうが」より発艦していた救難ヘリで10分後に救助された。
空自と海自に撃墜されたウルオロシアナパイロットの捜索及び救助が「ひゅうが」航空隊と護衛艦「きりさめ」「さみだれ」により行われた。
救難ヘリ護衛のため、F15 五機、F35十機、三沢基地から301飛行隊F3五機が護衛任務に着いた。
イージス艦「はぐろ」艦橋内では、政府からの通達で、ウルオロシアナの弾道ミサイルは通常弾頭か、若しくは空の弾頭だということがわかった。
日本政府は、全ての北海道民に本州への避難を呼び掛けた。
政府関係者は避難民受け入れ場の確保に右往左往していた。
北海道の空港には政府の用意した民間機と、道内各港に停泊している旅船、等があれば乗船してほしい、また船舶会社には極力協力して頂きたい、費用は国が持つ、ということで北海道全域に避難勧告が出された。
続く…