お化けの憂鬱な長い夜…【コミカルホラー 短編】
どもです(^_^)/
いつもご訪問ありがとうございます♪
これから読んでいただくショートストーリーですが、数年前に私が書いたお話しです(*^.^*)b
巷ではハロウィン🎃の季節となりましたところで、実際に私が見た夢をモチーフに、落語を意識して書いたコミカルホラーをアップさせていただきます。
時は8月蒸し暑い夜。
ある大学生5人組が、廃墟となっている村へ涼を求めて?車で進入。
しかし、人の居ない静かな廃村に集まっていたお化けや幽霊たち。
だが、幽霊は見える人にしか見えない。
しかもこの世に未練を残して物悲しい顔で人を驚かすことがない。
そこで妖怪でもあるお化けが静かな廃村を護るため5人組を追い返すべく奮闘するお話です。
読みながら情景を思い描いて楽しんでいただけたら幸いです♪
では、本編へお進みください…👻
17390字あるので目次を使って休憩しながら読んでいただけたら嬉しいです☺️
【ゴーストクエスト•クインテット】
『ねえねえ、ここの廃墟の村…幽霊が出るってほんとかな?』
尾上美香(おのうえみか)は、友人の柏木由美(かしわぎゆみ)と大学の学食で、スマホでネットを観ていて幽霊が出る、という廃墟の村を見つけて由美に見せた。
『うわぁ…この雰囲気ヤバそう。お侍さんの幽霊を見た人がいるんだ…。怖いけど、幽霊が本当にいるなら見てみたいね‥‥』
『アタシは、お化け屋敷はわりと平気だけど、こういうリアルな場所はちょっと苦手‥』
『でもさ、車で入っていけるんだよ?車から出なきゃ大丈夫だよ。行ってみようよ。いつもの男子3人組にに話して車出してもらおうよ』
美香と由美が学食でそんな話をしているところへ、そのいつもの男子3人組が現れた。
『おっ、美香と由美じゃん。相席いいかな?』
3人組の一人、入江敏志(いりえさとし)が美香と由美を見つけて、テーブルの相席を頼むのだった。
『あ、いつもの仲良しトリオ。今あなた達3人のこと話ししてたの。座って。相席許可してあげる』
由美が3人に座るように促した。
『サンキュー。助かる〜』
『ありがと、で?なに?俺達とデートしたいな〜っていう話し?』
『俺達とデート?仕方ねぇな‥‥スケジュール空けといてやるよ』
石川昭(いしかわあきら)
小岩井博史(こいわいひろし)
入江敏志(いりえさとし)
3人組が順番に口を開いた。
『敏志、見栄張ってんなよ!』
『お前スケジュール帳なんて持ってないだろ?』
『うるせぇ!男は皆見栄っ張りなんだよ!』
昭と博史に茶化される敏志。
『で?何の話ししてたの?』
そう言って、博史が美香と由美を見た。
『相変わらず仲良しトリオだね』
『ねっ』
由美が美香を見て呟いた。
『実はさ‥納涼廃村ツアーを美香と二人で計画してたの。でも、アタシたち車持ってないからあなたたち3人に声かけようと思ってたところ』
由美はそう言って、美香のスマホの画面に映る廃墟の村を3人に見せた。
『お〜、ホーンテッド•ビレッジ』と呟く昭。
『よし!ゴーストクエスト•カルテット結成だな』昭の呟きにゴーストバスター結成の博史。
『カルテットは4人だろ?5人だからクインテットだな。涼しくなりそうだ。いつ行く?』博史の間違いを訂正する敏志。
『さすが仲良しトリオね。相談無しの意思疎通。ただいまここに、ゴーストクエスト•クインテット結成!今度の土曜日、雨天決行よ!』
【村の入り口】
決行当日、よく晴れた土曜日の夜。5人で肝だめしのため訪れた所は、鬱蒼とした山奥にある小さな村。
既に人は住んでおらず、数十メートルおきにポツンポツンと朽果てた家が建っている。
その家に沿うように、車一台が通れる道がある。
そんな村の入り口で、ゴーストクエスト•クインテットの5人は車の中に居るのである。
辺りには当然街灯など無く、漆黒の闇に包まれていて、車のヘッドライトの明かりだけが闇の入り口を照らしていた。
ネット情報によると、この村の中の数件ある家の中で、何処かに『出る』という家が『ある』ということだった。
美香は後部座席で腕時計をチラッと見た。
時計の針は午前零時を少しまわっていた。
『まぁ、あくまでも『出る』という噂だけどな!本当かどうかはわかんないけど、こんな蒸し暑い夜はこういうところで冷やぁ~ってするのもいいんじゃね?』
5人の中で、一番おちゃらけている博史(ひろし)が言った。
『お前、そんな事言ってるけどよ、ほんとは心臓バクバクなんじゃねーの?』
わりとクールで冷静に物事を考える敏志(さとし)が博史を茶化した。
『敏志こそ途中で怖くなって、おしっこちびるんじゃねぇぞ!』
『それはだいじょぶだ!さっきコンビニ寄った時、トイレ行ったからな!心配無用!』
敏志はきっぱりと言った。
『…俺も行っときゃよかったかな…』
緊張感のない二人だった。
後部席の美香の横では、由美が興味深々で落ち着き無く、前後左右キョロキョロと見回していた。
『由美、あんた怖くないの?』
そう言いながら美香は由美の顔を見た。
『怖いよ…怖いけど、ホントに幽霊みたいのが居るのなら見てみたいじゃん。ワクワクドキドキブルブルだよ』
そんな話をしている5人の乗った車は村の入り口で止まっていた。
車のヘッドライトに照らされた、暗く狭い朽ち果てた村の入り口だけが、ぽっかりと口を開けている。
5人が村に入るのを拒むかのように、雑草が道に迫り出して狭い道をより一層狭く見せていた。
『うわぁ~、狭い道だなぁ…これじゃ車が傷だらけになっちゃうよ』
運転している昭(あきら)が誰にともなく呟いた。
『だから昭の車にしたんだよ。いつも汚れたまんまだし、それに四駆だしな』
博史は笑いながら当たり前のように言った。
『そうそう、俺らの綺麗な車じゃこんなとこ通れないからね』
敏志も博史に賛同して大きく頷きながら言ったのだった。
『俺はお前らと違って毎日が忙しいんだよ!』
『ほぉ~、昭にとっちゃ寝ることが忙しいんだ~。へぇ~、ふ~ん』
博史が追い討ちをかけた。
『うっさいなー!もう行くぞ!皆ちゃんと捉まってろよ!ガッタガタの道みたいだから舌噛まないようにしてな!』
そして車は誰ひとり居ない朽ち果てた村へと、ゆっくり入っていった。
【ついてくるもの】
5人が乗った車は、雨水で抉られたであろう道の轍で、上下左右に揺すられながらガタガタの悪路を人が歩く早さより、少し早い速度でユックリと進んでいた。
道に迫り出した雑草は車のボディーをサワサワと撫でながら、時折雑草に紛れて小枝があるのか『きぃぃ~~』と車のボディーを擦り、耳障りな不快な音が聞こえていた。
そんな中、5人の乗った車の後を音もなくついて来る者がいた。
『それ』は、やがて車に追い付き、車の後部ガラスに両手をついて顔を近付けて中を覗こうとしていた。
と、その時だった。
左の草村から5人の乗った車の前に『何か』が跳びだしてきて、昭はブレーキをかけた。
『うわっ!』
思わず声を出す昭。
ゴンッ!!
鈍い音が車のボディーに伝わってきた。
しかし、それは前の方ではなく後ろの方で何かがぶつかったような音がしたのである。
運転手の昭以外全員が後ろを振り返った。
『キャッ!』
『何だ?』
皆が後ろを見たが、ガラスにはフィルムが貼ってあり外も暗いため何も見えなかった。
『なんか木の枝でも当たったんじゃねぇの?』
敏志が関心なさそうに言って、前を向き座り直した。
『きっとそうだろう。周りには木もたくさんあるしな。それより、今飛び出してきたの動物?…あれタヌキだった?』
助手席の博史が昭に聞いた。
『あぁ、たぶんタヌキだったと思う。尻尾が太かったもん。草村に逃げて行ったよ。それより、今後ろに何かぶつかったろ?何だったんだ?』
『たぶん木の枝か何かが当たったんだろ?』
『木の枝かよぉ?あぁ…俺の車が傷だらけに…』
『大丈夫!帰ったら皆で綺麗に洗ってやるからよ』
敏志が気の毒そうに、しかし笑いながら言った。
そして昭は、またユックリと車を走らせた。
暗く狭い道の真ん中で、少しずつ遠ざかるテールランプを涙目で見つめている者がいた。
『痛って~…なんでブレーキ踏むんだよ…思いきり鼻ぶつけた…』
5人が乗った車をつけてきていた者が、真っ暗な道で鼻を押さえうずくまっていた。
『おいっ!』
うずくまっている『者』の背後から突然声がした。
『うわっ!』
『うわっ!じゃねえだろ!お化けがお化けに驚いてんじゃないよ!』
『ビックリしたぁ~』
『お前さ~、今見てたけど間が悪すぎでしょ。まぁ、新人お化けだからしょうがないけどな。お化けはさぁ、人の目に入る所で脅かさないと。後ろから行ってどうすんの!』
『いやぁ…ガラスに顔をくっつければ驚くかなぁ~って思ったんですが…後ろのガラスは中が何にも見えなかったっす。見えたのはガラスに顔をぶつけた時に星がチカチカ見えただけでした…あはは…』
『全く何やってんだか…俺達お化けや幽霊は此処が住みやすいから此処に来る人間を追い返さなきゃならない。此処に人間を来させないようにしないといけないんだ。頑張れ新人!もう一度脅かしてこい!』
『わかりました…もう一度行って来ます』
『あそこの大きな木の横を通れば、あいつらの先に出られるからな!気張って行ってこい!』
先輩お化けに促され、新人のお化けは渋々と暗い草村を通り大きな木に向かった。
『やだなぁ…怖いなぁ…。此処は、いろんな所に幽霊の人達がいるんだもんな~。いくら俺がお化けだって幽霊の人達と鉢合わせになると…やっぱ怖いもんな…』
新人お化けはぶつぶつ言いながら大きな木の横を通り過ぎようとしたその時…。
木の陰から 『すぅ~』 っと現れた中年の男の幽霊。
『うわーっ!!出たーっ!!!』
新人お化けは驚いて、後ろに3メートル程跳びはねていた。
驚いてガタガタ震えてうずくまる新人お化けの横を何も言わずに、すぅ~っと通り過ぎていく中年男の幽霊。ただ寂しそうな顔をして俯いたまま、滑るように遠くへ消えていった。
『うぅ…や、やっぱり怖い…何回見てもダメだ…あの暗い表情…俺達お化けとは違うよ』
しばらくして新人お化けは、身体の震えが収まり気を取り直して立ち上がり、5人の車の行く方へ先回りするため先を急ぐ事にした。
5人の乗った車は、相変わらず悪路の為ノロノロと走っていた。
【廃墟探究】
一軒目の家を何事もなく通り過ぎ、5人の乗った車は数十メートル離れた二軒目にたどり着こうとしていた。
伸び放題に伸びた雑草に囲まれた暗闇の中、その大きな家は更に黒い染みを浮かび上がらせていた。
そして…この廃屋には侍の霊が住みついていた。
幽霊とはいえ、やはり屋根のある家が忘れられないのだろう。
怖いもの見たさに、この廃墟の村に訪れる若者達にしばしば目撃されていて、噂となり広がっていった。
この村が廃墟の村と化したのは、実はこのお侍さんが原因だった。
数百年前、戦に敗れたお侍さんがこの地で安らかに眠ることとなった。
そして長い年月に時代は代わり昭和の時代に入り、この村ができた。
眠りを妨げられたお侍さんは、再び眠る事もできず昼夜構わず村を徘徊するようになった。
そんな訳で各家では、このお侍さんを見ては悲鳴をあげる事が絶えなかった。
遠くの家で悲鳴が聞こえて『また出たか』と思っていると今度は自分が悲鳴をあげたり…。
そんな毎日が続き、一人、また一人と村人が去り最後まで残っていた村長までもが村を離れていった。そして村には誰も居なくなった。
誰も居なくなった村には、何時しか様々な魂が集まりだした。
そして時代は代わり二十一世紀になった今でも村はそのまま残っているが、朽ち果てた村に訪れる者は殆ど無く、時々この村の噂を聞き付け怖いもの見たさにやってくる者も居た。
しかし、あまりの異様な雰囲気に村の入り口で引き返す者が多かった。
しかしながら、今夜の5人は異様な雰囲気を知ってか知らずか躊躇することなく村に侵入してきた。
幽霊達は、そこに居るだけで怖い存在だが人を脅かそうとはしない。
ただこの世に未練を残し徘徊するだけだった。
それに、幽霊は見える人と見えない人が居るため、見えない人達がこの地に来た場合『なんだ、やっぱり幽霊なんて居ないじゃん』ということになってしまい、また人が来てしまう。
そこで、お化けの登場である。
しかし、初めての脅かしに失敗した新人お化け。
意気消沈しながらも先輩お化けに促されて、そこここにいる幽霊達にビビりながらも5人を脅かして追い返すべく、再びアタックする事になった。
一方、5人は二軒目の家の前に止まり運転していた昭が車の中から懐中電灯で大きな家を照らしていた。
窓枠は落ち、昔の農家らしい外に面した長い廊下が懐中電灯の明かりで、ぼんやりと見えていた。
昭が懐中電灯を左右に動かす度に、懐中電灯に照らされた柱の影が不気味に動いていた。
『うわぁ~、さっきの家より随分と雰囲気でてるな~。窓の所なんか誰か立ってたら鳥肌もんだよな。博史、ちょっとあそこまで行って柱の影に立ってみなよ。記念撮影してやっからよ』
懐中電灯で家を照らしていた昭が、助手席の博史に言った。
『バカ言ってんじゃねぇよ!無理に決まってんだろ!あそこに行くまでにおしっこちびっちゃうぜ!敏志…お前行けるか?あそこまで』
博史は敏志に矛先を向けた。
『無理!昭行ってこいよ。俺が記念撮影してやるから』
『はぁ?俺はドライバーだから運転席を離れられないの!』
『じゃあ美香?行ってみるか?』
敏志は美香の顔を見てニヤリと笑った。
『アタシに振るんですか?行けるわけないじゃない!今は、この車のドアさえ開けたくないわよ!』
その時だった。
由美が昭の持つ懐中電灯の明かりの片隅に何かを見つけたのだった。
『ちょっと待って!今、明かりの中に何か見えた!動いてた気がする!』
皆が一斉に家の方を見た。
『えっ!どこどこ?』
昭が懐中電灯を家の真ん中に照らした。
『そこじゃない!もっと左!』
皆は固唾を飲んで懐中電灯の照らす場所を見つめていた。
『左?この辺か?』
昭が懐中電灯を少し左に動かした時、車の右後方にガサガサと草を掻き分ける音が聞こえた。
『キャッ!』
後部座席の右側に座っていた美香は小さな悲鳴をあげた。
昭は咄嗟に音のする方に懐中電灯を向けた。
伸び放題に伸びた草村を照らした明かりの中に動くものがいた。
『ヤバイ!何かいる!』
皆は一斉に凍りついた。
昭が叫んだその時、懐中電灯の明かりの中に動物の頭が見えた。
『あー、なんだよ!ビックリしたー!し、鹿だよ鹿!』
昭は、明らかに動揺していた。
『ったく脅かすんじゃねぇよ!ドキドキすんじゃねぇかよ!』
助手席の博史も鳥肌全開だった。
敏志はといえば、平静を装いながらも鼓動は二倍になっていた。
それもそのはず、車の左側を女の幽霊がゆっくり通り過ぎたのである。
美香と由美は顔を伏せ、両手で耳を塞ぎ見ざる聞かざるを決め込んでいた。
『えっ?鹿?どこどこ?』
だが、鹿とわかったとたん顔を上げた美香と由美。
美香と由美が見た時には、鹿は懐中電灯に照らされながら跳ねるように遠ざかって行った。
皆は、村に入ってきた時よりも緊張感が張り詰めてきていた。
恐怖感が高まってきたのである。
小さな音にも敏感になってきていた。
そんな5人の乗った車を、お侍さんは外に面した長い廊下の隅で『じぃ~』っと見つめていた。
まさに、さっき由美が『見たもの』は、お侍さんだったのである。
お侍さんが、懐中電灯に照らされる直前に鹿が現れ大騒ぎとなった為『由美が見たもの』に皆の関心が薄れてしまった。
しばらくして、お侍さんは5人に気がつかれる事なく『すぅ~』っと闇に溶け込むように消えていった。
『まったく…ここは動物園ですか?タヌキの次は鹿。次はキリンか?バッファローか?ライオンとか出てきちゃったりして』
博史は気持ちを落ち着かせるために冗談半分でその場を濁すのだった。
『お前、それじゃアフリカのサバンナじゃんかよ』
昭が話に食いついた。
『サバンナか~…行ってみたいねぇ。アフリカの大草原で寝っころがってみてぇな。それに比べて…ここのチンケな草っ原の陰気臭いこと…』
敏志が話に加わった。
『確かに…。まぁ、でも日本には情緒豊かな日本の風土ってのがあるからな。俺は好きだぜ、そういうの。この村だって、できた時は静かでのどかな村だったんだろうな』
『きっとそうだったろうね…』
昭の言葉に美香が頷いた。
『なんで誰も居なくなっちゃったんだろうね』
由美が誰にともなく聞いた。
『やっぱり不便だったんじゃねぇの。この山奥じゃ、宅急便も四駆じゃないと来れないだろ?』
昭が冗談混じりで何となく応えた。
『確かに…てか、この村ができた時に宅急便なんてないし。それよりさ、さっき由美が何かいるって言ってたとこどこ?』
助手席の博史が振り返り、後部席の由美を見て聞いた。
『あぁ、そうそう。さっき何か動いてたように見えたんだよ。あそこの柱の所』
由美が身体を乗り出し、運転席の昭の顔の横から『何か』を見た方に指を指した。
『えっ?どこどこ?』
さりげなく由美の手に顔を近づけた昭は徐(おもむろ)に由美の人差し指をペロッと舐めたのだった。
『ひゃあ~~~っ!!』
由美の声に博史、敏志、美香はドキッとした。
『ヤダヤダッ、何!?どうしたの?』
『何だよ!なんか居たのか!?』
『何何?どした?とうとう出たのか!?』
三人が矢継ぎ早に叫んだ。
ほんの数秒の沈黙の後。
『ヘンタイ!!』
由美が叫んだ。
『?』
『?』
『?』
『…ヘンタイ?』
事情を知らない三人が口を揃えて呟いた。
『昭がアタシの指を舐めた…』
三人はため息をついた。
そんな中、敏志が口を開いた。
『サイテーだなお前!…それじゃヘンタイと言われても仕方ないぞ!まったく…で?どんな味だった?』
敏志が昭に小声で詰め寄った。
しかし小声とは言え狭い車内。筒抜けなのである。
『味?ん~、ちょっとしょっぱいかな…それでいて何となくほろ苦いような…』
『何よそれ!失礼ね!もうちょっと良く言えないの?甘酸っぱい、とか美味しいとか。デリカシーのない人!』
『じゃあ、もう一回舐めさせてみな』
『やだよ!もう昭はヘンタイの殿堂入りだね』
由美が昭の後頭部を指先で突いた。
『そうか~。由美の指はしょっぱいのか…じゃあ美香の指はどんな味なんだろうな?』
敏志が言った。
『はぁ?やらしいわね!敏志もヘンタイの殿堂入り決定だね!』
美香がニヤリと笑いながら敏志を見た。
『よーし!お前ら。俺と一緒で立派なヘンタイになったな!三人で美香の指を味見してみるか?』
『ヤダー!!やめて~!!』
暗い山奥の廃墟の中、狭い車内で騒いでいる5人。
【幽霊達のいたずら】
そんな5人を待ち構えていた新人お化け。先回りしてから既に10分が経過していた。
『遅いな~、あの5人』
あちらこちらに居る幽霊に驚きながらも、やっとのおもいで5人の先回りをしてきた新人お化け。
道路に張り出した太い木の枝にしがみつき、5人が来るのを待っていた
。
『おしっ!ここも何も出なかったな!異常無し!先行ってみよう!』
5人が二軒目の廃墟の前でひとしきり騒いだ後、車は再び上下左右に揺れながら、ノロノロと動き出した。
二軒目から三軒目に向かう途中の道に張り出した太い枝の上に新人お化けはしがみついていた。
『遅いな~…まだ来ないのかよ…』
5人の乗った車を待伏せている新人お化け。
『今度はどうやって脅かそうか…。そうだ!小さな子供に化けてみるか…。
こんな所に子供が居るなんて想像もつかないもんな。想像しえない者が居れば驚く事間違いなし!よぉ~し!男の子か女の子か。
着物か洋服か…どれにしようか…』
そんな事を考えていた新人お化けのすぐ横に、女の幽霊が新人お化けを見つめながら浮かんでいた。
『ギャーッ!!』
お化けは驚いて、バランスを崩して木から落ちてしまった。
その時、5人の乗った車のライトが雑草に見え隠れしながら近付いてきていた。
『チクショー!痛てぇ…思いきり腰打った…』
女の幽霊は、新人お化けを見つめながら薄笑いを浮かべ『すぅ~』っと消えていった。
『痛てて…。もぉ、居るなら居るって言ってくれよ…』
道の真ん中で腰を摩るお化け。
そこへ5人の乗った車が近付いてきた。
『あちゃー、あいつらきちゃったよ。まだ子供にも化けてないのに…。しょうがない、ここは一先ずやり過ごすか…』
新人お化けは、こそこそと草村へ入っていった。
そのすぐ後に5人の乗った車は、お化けが落ちた所へやってきたのである。
そして、お化けが身を隠しているすぐ横で車は止まった。
『どした?』
助手席の博史が運転している昭を見た。
昭は、何やら上の方を気にしていた。
『うん、ちょっと上見てみ』
『何?』
『木の枝…結構低くないか?』
『あ~、ほんとだ。ちょっと待ってな』
助手席の博史が屋根にあるサンルーフを開けて顔を出した。
『昭、大丈夫だ。60センチ位は空いてると思う』
博史がサンルーフから顔を出しながら言った。
そんな博史の頭の後ろを、新人お化けが驚いた先程の女の幽霊がふわふわと暗闇に浮かんでいた。
博史は『ぞくっ』とした。
全身の毛が総毛立ち、身体が『ぶるっ』と震えた。
身体にビリビリと伝わる異様な気配に恐怖さえ感じていた。
博史は重苦しい気配を頭の後ろで感じていた。
この重苦しい気配を、振り返って確かめてみたかったが怖くて振り向けなかった。
むしろ振り向かない方がよかったのかも知れない。
なぜなら、女の顔だけが博史の頭のすぐ後ろで浮かんでいたのである。
博史は、またブルッと身体を震わせてサンルーフから顔を引っ込め、サンルーフを閉じて、更にサンルーフの内側の目隠しも閉じた。
『なんで閉めちゃうんだよ。星が見えないだろ?』
敏志が不満げに言った。
『何一人でロマンチッカーになってんだよ!似合わねんだよ!』
昭が敏志をちらっと見て笑った。
『うるせー。俺は今、由美とロマンチックブルーの世界に浸ってたんだよ!邪魔すんな!』
『はぁ?アタシはそんなのに浸ってた覚えはありません!ヘンタイチックな人にロマンチックなんて言ってほしくないわねーだ』
『あらら…振られちゃった…』
『そうそう、ヘンタイはヘンタイらしくしてなさい。なぁ、博史!』
昭が博史の顔を見た。
【妖怪アンテナ】
博史は髪の毛をつまみ、それを真っ直ぐに立てていた。
『何やってんの?博史…』
『いや、俺の妖怪アンテナが何かを感知したんだ』
『お前、鬼太郎かよ!』
敏志がツッコミを入れた。
すかさず、昭が目玉の親父になった。
『おぃ!鬼太郎!この近くに妖怪が出たのか?』
冗談のつもりで言う昭だが事実なのである。
『父さん、今外に顔を出した時、物凄い妖気を感じたんだ。やっぱり此処には何か居るんじゃないかな?』
助手席側の草むらに新人お化けが隠れていて、サンルーフから顔を出した時の、女の幽霊の存在になんとも言えない重苦しい空気を感じた博史も冗談混じりに『本当』の事を言った。
『う~む…わしには何も感じんがのぉ…。なぁ、ねずみ男、おまえさんは何かを感じたかい?』
目玉の親父にふんする昭が、敏志をねずみ男に仕立てた。
『へっへっへっ、目玉の親父さんよぉ。俺様には何も感じてないぜ!鬼太郎博史がビビってるだけじゃねぇのぉ~?なぁ猫娘、そう思わないか?』
敏志が由美を見た。
『実はね…アタシもさっきから変な感じがするの。鬼太郎博史がサンルーフから顔を出してる時、鳥肌ぶぁー、だったよ。なんか…空気が違うのよね…。ねぇ、砂かけ婆?』
そう言って由美は美香を見た。
『やっぱりそうきたか……そうじゃのう…わしも鬼太郎博史がサンルーフから顔を出した時、異様な霊気を感じたぞ』
『いいね~。皆良いノリしてるじゃん!』
昭が関心したように皆を見て言った。
そんなふざけた会話をしながらも、博史、由美、美香の三人は今までとは違う空気を敏感に感じ取っていた。
『よし、じゃあ先に進むか』
昭が、ゆっくりと車を動かした。
そして、草の陰から遠ざかるテールランプを見つめていた新人お化け。
『ふぅ…やっと行ったか…』
草村からノコノコと出てきた新人お化けの目の前を、女の幽霊の上半身だけが通り過ぎて行った。
新人お化けは声も出ず、両目をバッチンと閉じ、その場で固まってしまった。
『あわわわ…』
その場で固まっている新人お化け。
少しの間、動く事ができなかった。
そこへ先輩お化けがやってきた。
【先輩お化け】
『ん?あいつあんなとこで何やってんだ?』
先輩お化けは新人お化けに、後ろからそぉ~っと近付いていった。
新人お化けは気付いていない。
先輩お化けは新人お化けの前に回り込み、デコピンを喰らわせた。
『痛でーっ!!』
『何やてんだい、お前は!』
『せ、先輩~っ!』
『何情けない声出してんだよ、まったく!あの5人はどうしたんだよ?』
『はぁ…。実は木の上で待伏せていたんですが…』
事のいきさつを先輩お化けに話した新人お化け。
『はぁ~…。お前ねぇ、人を脅かすお化けが人から隠れてどうすんの?』
『ごもっともです…』
『…しょうがねぇな~。じゃあ、俺が一つ手本を見せてやるからよく見ときな!』
『お願いします!』
『あぁ、じゃあついて来な!』
先輩お化けは、そう言って五人の先回りをしようと横の草村を両手で掻き分けたその時、目の前に女の幽霊の顔があった。
『おわーっ!!!』
驚いた先輩お化けは後ろにのけ反った。
そして先輩お化けの後頭部が、後ろにいた新人お化けの顔面を直撃してしまった。
『痛でーーっ!!!』
またもや鼻をぶつけた新人お化け。
その時、女の幽霊はニヤけた顔で『すぅ~』っと消えていった。
『あぁー、ビックリしたー。わりぃわりぃ、ちょっと油断してた』
引き攣った笑い顔で先輩お化けが新人お化けを見た。
『どうじだんでずが(どうしたんですか)?』
『ん、?あ、あぁ。ちょっと足を滑らせちゃってよぉ』
実は、この先輩お化けも突然現れる幽霊には弱かった。
遠くに見える幽霊なら、なんてことない先輩お化けだが、目の前に突然出られるとやはり驚くのであった。
(あぁ~…ビックリした…今は近道するのやめとこ)
『草村辞めて、この道を行くぞ!』
『えぇっ!それじゃ追い付かないですよ!』
『いや、だってよぉ。草村で突然幽霊が出たら、お前ビックリしちゃうだろ?』
『先輩が一緒なら大丈夫ですって!さぁ、あいつらの先回りしましょう!』
『お、おぉ…じ、じゃあそうするか…』
少々不安の残る先輩お化け。
近くに落ちていた長い木の枝を拾い、それで草村の草を、そぉ~っと掻き分けた。
『どうしたんですか?先輩。なんか…腰が引けてますよ?』
『ば、ばかやろ!足元が悪いと、また転んじゃうだろ!』
それを聞いた新人お化けは、おもわず先輩お化けから少し離れた。
また頭を鼻にぶつけられるのではないかと思ったのだ。
そして、お化け二人は5人の乗った車のライトを横目で見ながら草を掻き分け、なんとか五人の先回りができた。
幸いにも、二人は幽霊に遭遇する事もなかった。
『よしっ!じゃあ、お前がやろうとしていた子供に化けて、俺が奴らを脅かすからよく見てろよ!』
そう言うと先輩お化けは、昔の着物姿のおかっぱ頭の女の子に化けた。
『これで奴らの車の上に乗って、フロントガラスの上から半分だけ顔を出して脅かしてやるからよ』
顔だけ出すなら着物は意味ないんじゃ?一瞬そう思った新人お化けだが…。
『はい!お願いします!早く、あいつらの驚くところ見てみたいっす!』
本音と建前を弁えた?新人お化けだった。
『よし!見てろよ!そこの木の上から奴らの車の上に乗るからな!』
先輩お化けは、新人お化けのお手本になろうと、意気揚々と木に登っていった。
そして、側の草村に隠れている新人お化け。
間もなく五人の乗った車が、先輩お化けの居る木の下に差し掛かった。
すかさず車の屋根に降りた先輩お化け。
『ととん』
車の中の五人が、その音を聞いた。
『…何かしら?』
美香が由美の顔を見て呟いた。
『屋根に何か落ちたのかな…?』
博史が真剣な顔で上を見た。
敏志も不思議そうな顔をして上を見ていた。
『…よぉ~し、第一段階成功!後は前進するのみ!』
女の子に化けている先輩お化けは、少々腰を浮かせ気味に歩腹前進で車の屋根をつたい、フロントガラスの方へ近付いていった。
その時、車が轍に落ち込み大きく揺れた。
車の屋根にいる先輩お化けは危うく落ちそうになったが、屋根の縁に手をかけて落ちずにすんだ。
車の中では由美が写真をパチパチと撮っていた。
そして屋根の上では、先輩お化けの手がフロントガラスに届いた時、先輩お化けは突然何かに強い力で身体を引っ張られた。
(えっ?な、なんだ?あれ?うわっ!あぁあ…)
『ギャギュ~ギュキュゥウー』
先輩お化けの手の平が車の屋根を撫でながら前から後ろへ滑っていった。
『いゃーっ!何?』
由美は耳を塞いだ。
『今度は何だよ?今のは絶対、木の枝じゃねぇだろ?』
昭が博史を見て言った。
『俺は、外は見ないからな』
博史は、先程の全身の毛が総毛立つ感覚に少なからず恐怖心を覚えていた。
昭は、数十メートル進んだ所で車を止めた。
『敏志、ちょっと屋根見てくれよ』
昭は懐中電灯を敏志に渡そうとした。
『えぇ~、俺が見るのかよ…』
『あぁ~?怖いのか?お前』
『怖かないけどよ、屋根の上にお化けがいて目が合っちゃったら何て言えばいいんだよ』
『お邪魔してます~、とか言えばいいじゃん』
昭はふざけて言った。
そんな会話をしているとき、車の数十メートル後方では、先輩お化けが木の枝に引っ掛かっていた。
『先輩…何やってるんですか…』
新人お化けの冷めた視線が先輩お化けに注がれていた。
先輩お化けは、女の子に化けていて着物を着ていたので、帯がその先にあった木の枝に引っ掛かったのだった。
『そんな目で見るな…新人。とにかく俺をここから降ろしてくれ…』
『…はい』
新人お化けは木によじ登り、先輩お化けがぶら下がっている枝に腹ばいになり先輩に近付いていった。
『じゃ、先輩。引っ掛かってる帯、外しますよ』
と、その時だった。
新人お化けの顔のすぐ横に若い男の幽霊の顔が現れた。
それに驚いた新人お化け。
腹ばいなのに、物凄い早さで先輩の上を通り越し、枝の先の方へ逃げたのである。
『ミシッミシッ!バキッ!』
枝は見事に根元から折れ、二人のお化けは重力に逆らう事なく落ちた。
落ちる瞬間、先輩お化けは若い男の幽霊の顔を見た。
目と目が合い、男の幽霊が ニヤリと 笑ったような気がした。
そして、その数十メートル前方では、敏志が後部席左の窓から身体を乗り出し懐中電灯で車の屋根を照らしていた。
『昭!特に傷らしい傷はないぞ。ただ屋根の真ん中辺が綺麗になってるような気がする』
その時、敏志は懐中電灯を下に落としてしまった。
『あらら、懐中電灯落としちゃったよ』
敏志は後部席に戻り、ドアを開けて懐中電灯を拾おうとした時、空気が急に冷たくなったのを感じた。
『なんか空気が冷たいな…』
敏志は懐中電灯を拾い上げ呟いた。
『敏志!早くドア閉めてよ。なんか嫌~な感じがする』
由美が敏志の腕を引っ張った。
『あぁ、今閉めるよ』
敏志が由美の方を見た時、車の下から白い小さな手が『ヌゥ』っと出てきた。
だが、敏志はそれを見る事なくドアを閉めた。
『なんかさ…、空気が違うって言う意味がわかったような気がする。外の空気、冷たくて重いぜ。昭、先行こうぜ』
『オッケー。じゃ行くぜ!』
昭は、多少荒めに車を動かした。
タイヤは砂と砂利を蹴り上げスピンした。
そして小さな白い手を踏み潰していったのだった。
『痛っ!!!!』
小さな白い手には、タイヤの跡がくっきり付いていた。
腕を押さえてうずくまる先輩お化けに駆け寄る新人お化け。
『先輩!大丈夫っすか?だから危ないって言ったじゃないですか』
以下回想シーン・・・
新人お化けの前で恥を晒した先輩お化けは、名誉挽回とばかりに木から落ちた後、すぐに止まっている車に近付いて車の下に入り込もうとした時、
『先輩…下に潜るのは危ないんじゃないですか?』
新人お化けは小さな声で先輩お化けに言った。
『大丈夫だ。多分、後ろに座っている奴が窓から身体を出して懐中電灯を落とすと思うんだ。その時がチャンスよ!』
先輩お化けは今までの経験から、そうなると先を読んだのだった。
車高の高い四輪駆動車のため、小さな女の子に化けている先輩お化けは、容易に車の下へ潜り込んでいった。
そして先輩お化けの予想通り敏志は懐中電灯を落としたのだった。
が、しかし懐中電灯を拾った敏志は、ちょうどその時由美が敏志に声をかけたので、由美の方を振り返った。
敏志は、先輩お化けが化けている小さな女の子の白い手を見ることなくドアを閉めたのだった。
そして車は走り出し、先輩お化けの手の上を乗り上げていったのである。
先輩お化けは、予想外の出来事に腕を押さえながら痛みに耐え、新人お化けに慰められるのであった。
そして5人の乗った車は、ボロボロになって潰れている三軒目、四軒目を何事もなく通り過ぎ…、少し広い場所に出た所で車を止めた。
『この辺りには家が無いんだなぁ』
昭が懐中電灯で辺りを照らしながら呟いた。
『あ~…、腹減ったな…。美香、さっきコンビニで買ったドーナツある?あとコーヒーも頂戴』
博史が美香の方を見て手を出した。
『は~い、ようこそ(Cafe.ミカ)へ。ドーナツは何がいいですか?』
美香はコンビニの袋にガサガサと手を入れ、コーヒーを博史に渡し三種類のドーナツを両手の平に載せた。
博史は、砂糖だけが塗してあるドーナツを一つ手に取った。
『俺も一つもらうよ』
昭が手を伸ばしてきた。
釣られて敏志も由美も、ドーナツとコーヒーやジュースを手に持ちパクパクと食べはじめた。
『おにぎりもあるし、から揚げもあるよ』
『おぉ~、ピクニックじゃん!外にシート敷いて食べてみるか?』
美香の後に昭が言った。
『やだ』
『無理』
『昭一人で行ってこい!』
『昭一人で10分、外でディナータイムしたら、俺も行ってやるよ』
それぞれが思った事を口にした。
『一人じゃ無理ですから!』
ドーナツを頬張りながら昭は言った。
それぞれが、ドーナツやおにぎり、唐揚げでお腹を満たした後、再び車は走り出した。
そして、先輩お化けと新人お化けは
更に、5人の車の先回りをしていた。
【妖怪テケテケ】
『先輩、手、大丈夫ですか?』
『どうって事ねえよ!ちょっと痛かったけどな。どうやったって、お化けは死なないからな!
怪我くらいどうって事ねえさ!それよりよ、、、お前、俺達の仲間の妖怪テケテケって知ってるか?』
『はいはい、知ってます。下半身が無くて上半身だけで這いつくばって肘だけで歩く奴ですよね?』
『そうそう!お前それやってみな。あいつらは、この狭い道をゆっくり走ってるから
道の真ん中にテケテケに化けたお前がいれば嫌でも目に付くからよ!奴ら一目散に逃げていくだろうよ!』
『いいっすねー、それ!俺やってみますよ!今度こそあいつらを脅かして見せます!』
『よしっ!その意気だ、新人!』
『はい!行ってきます!』
新人お化けは意気込んで、妖怪テケテケに化けて道の真ん中で5人の乗った車が来るのを待っていた。
ちょうどその頃、5人の乗った車は倒れた木に道を塞がれ立ち往生していた。
『あらら~。この先行けないや。道塞がれてるよ』
『はい、バックバック~♪』
美香が変なリズムをつけて言った。
『えぇ~、今来た細い道バックで戻るのかよぉ~』
昭が泣きそうな声で言った。
『さっきドーナツ食ったとこまで戻ればUターン出来るんじゃね?』
敏志が言った。
『あぁ、あそこ少し広かったもんな』
博史も、思い出したかのように昭の顔を見て言った。
『仕方ねぇな。あそこまでバックするか…』
昭はそう言いながら、ギアをバックに入れた。
『博史左見ててな。暗いからよく見えないんだ。俺は右の後ろだけ見てさがるからさ』
『あぁ、わかった』
博史は窓を開けながら返事をした。
そして、昭は運転席から顔を出しゆっくりとバックしていった。
広い所に戻るまで10分程、時間を要した。
そして、広い場所でUターンを終え、来た道を戻り始めた。
既に、時計の針は午前1時半を回っていた。
『やっぱり、何も見えなかったね…』
由美が美香の顔を見て言った。
『いや、案外すぐ傍に居たのかも知れないよ。アタシ達がみえなかっただけかも知れないし、、、
さっき感じた異様な空気は、本当にゾッとしたもん…』
美香の言葉に由美も博史も頷いた。
『あぁ…、さっきの嫌~な感じは確かに今まで感じた事が無い気がする。全身鳥肌だったしな…。
実際、怖くて後ろ振り向けなかった。よく判らないけど、振り向いちゃいけない、って思ったよ。
あの時は本当に”何か”が居たのかも知れない…』
博史が、いつに無く真剣な表情で言った。
その時だった。
昭が突然スピードを上げた。
『後ろに何かいる・・・』
昭が言った途端、車の窓ガラスの外側全体が曇り始めた。
昭はワイパーをかけて曇りを拭い取った。
ガタガタの轍も気にすることなく、車は激しく揺すられながらも昭はスピードを落とさなかった。
車内は騒然とした。
博史は、身体を揺すられながらも左のバックミラーを見たが何も見えなかった。
『昭!スピード落とせよ!後ろには何も居ないぜ!』
博史は、そう言いながら昭を見た。
『居るんだよ!すぐ後ろに!!』
と、その時、車の前を白く丸い物体が横切った。
『うわっ!!!』
昭は急ブレーキをかけた。
『何だ?今のは!?』
博史が叫んだ。
昭は、恐る恐るバックミラーを見た。
もう、何も見えていなかった。
『昭、大丈夫か?』
敏志が後ろから声をかけた。
『あぁ、、、大丈夫だ。ちょっと取乱した。何か得体の知れないものが追いかけて来てたんだ。
耳の奥で(もっとスピードをあげろ!)って聞こえてきてよ…』
『マジかよ…何気に、すげぇ危ない状況だったんじゃねぇかよ…』
敏志がつぶやいた。
『でも、もう大丈夫だ…。今、目の前に飛び出した丸くて白いもの…あれさ、俺の爺ちゃんだったみたい。
スピード落とせって言ってた…爺ちゃん怒ってたよ。こんなところに来るんじゃない!って』
昭が皆の顔を見て言った。
皆が白く丸い物体を見ていたので、皆、唖然とした表情を浮かべていた。
『とにかく、早くここを出ちまおう』
昭が言うと皆が頷いた。
そして昭は、ゆっくりと車を走らせた。
村の出口はもう目の前だった。
そして、5人はその後何事も無く、村を後にしたのだった。
その一方で、5人を脅かすために、妖怪テケテケに化けた新人お化けは、暗く狭い道の真ん中で5人の乗った車を待っていた。
そんな新人お化けの後ろから一台の車が近付いてきた。
ゴーストクエスト•クインテットの5人が入ってきた逆の村の入り口から入ってきた別のグループの車のヘッドライトに照らされた妖怪テケテケの後姿。
テケテケに化けている新人お化けが後ろから来たライトに気付き、振り向いた。
『あれ?何で後ろから来たんだあいつら…俺逆向いてたのか?』
自分が逆を向いて待っていたのかと勘違いした新人お化け。
自分のお間抜けっぷりに一人ニヤケて、腹ばいのまま方向を変えて、肘だけでテケテケと車に近付いていった。
そのニヤケた顔が車のヘッドライトに映りこんだ途端、車の中から、それはそれは凄まじい悲鳴が聞こえてきた。
車は凄いスピードであちらこちらぶつけながらバックしていき、見えなくなった。
『やったー!!あの5人を脅かして追い返してやったぞー!!』
新人お化けは、脅かしに成功した事にガッツポーズをして、お化けとしてこの上ない喜びに浸っていた。
あの5人の乗った車とは違う事に気付かないままで・・・・・。
お化けの長い夜はこうして更けてゆくのだった。
【本当の恐怖】
廃墟の村を後にした5人は、山を降り麓の村を抜け大きな町に出た頃には、東の空が白み始めていて
夜が明けてきた事を告げていた。
そして、コイン洗車場に入った五人は、埃や泥まみれになった昭の車を洗い始める所だった。
そんな時、敏志が後ろのガラスに大きな手の跡が二つと真ん中に丸い跡があるのを見つけた。
『博史!ちょっと来て!』
敏志は、すぐ横に居た博史を呼んだ。
『なに?どしたの?』
近付く博史に、敏志はリアガラスを見るように指差した。
『うわっ!何だこのでかい手の跡!しかも・・・両手共、指が四本しかないし・・・。
あっ、お前が悪戯で描いたんだろ?』
博史は敏志の悪戯だと思ったのだが、敏志は違うと言った。
『俺達が、あの村に入ってすぐに、後ろから何かがぶつかった音がしたろ…?』
敏志が博史に小声で言った。
『…あの時の?』
『あぁ、もしかしたらな…』
『指が四本ってどんな奴なんだよ…』
『俺の中では妖怪みたいのが頭の中に浮かんでるぜ…』
『やっぱり…何か居たってことか』
『そう思わざるを得ないな…』
二人は改めてゾッとした。
『どうする?昭に言うか?』
『いや、言わないほうがいんじゃねぇか』
『だな・・・』
そう言って、敏志はリアガラスに水をかけて雑巾で手の跡を拭い取った。
それを見ていた博史は、敏志に向かって口を一文字に閉じ、チャックを閉める仕草をした。
敏志も同じ事を博史にやってみせた。
美香は車のボディーの横を丁寧に洗っていた。
昭は前を適当に洗っていて、由美は手を休めデジカメで撮った写真を見ていた。
その仲の数枚の写真に怪しい影や、白く透き通る丸い『オーブ』のようなものがたくさん写っていた。
その中の2枚の写真を見て、由美はカメラを博史に急いで渡した。
『博史、これ見て・・・』
『何だよ?』
写真を見た博史は思わず声を出した。
博史の声を聞いた他の三人が博史に近付いてきた。
『なに?どしたの?』
『どうしたんだ?博史』
『?』
皆が博史の所に集まり、博史が持っている由美のデジカメを覗き込んだ。
それは由美が撮った数枚の写真の中に写りこんだ小さな『子供の手』だった。
車のサイドガラスの上から伸びる小さな細い4本の指。
もう一枚はフロントガラスの上から見えている小さな指。
それを見た5人は改めて鳥肌を立たせ恐怖が襲ってきた。
『昭・・・この車、一度御祓いしてもらった方がいいんじゃねぇか?』
『そうしたほうが良いかもな』
敏志に言われて昭は頷いた。
車の屋根から伸びた小さな指。
リアガラスの大きな四本指の手の跡。
新人お化けと先輩お化けは、ある意味脅かしに成功していたのである。
そして、そんな5人を見下ろす空は次第に明るくなり、真夏の空が広がってきた。
セミも慌しく鳴き始めた。
夏の暑い一日が始まろうとしていた。
おしまい(*^.^*)
【あと書き】
お化けの憂鬱な長い夜・・・いかがでしたか?
私の夢の中で見た怖い村。
実際の夢は、とてもとても怖い夢でした。
その夢の記憶を曖昧にさせるために面白おかしく書いてみました。
幽霊を見て驚いているお化け。私の夢の中ではお化けが私自身の状況でした。
5人のグループは夢の中で私を助けてくれた人達。
面白半分でこういう場所には行かないようにしましょうね^^b
最後に『テケテケ』について・・・
テケテケを知らない人のために動画を用意しました。
グロテスクな表現も含まれておりますので苦手な方は見ないでね・・・(>_<)
【テケテケ2(映画予告)】
最後まで読んでいただきありがとうございました
(人´∀`)♪
では…(@^^)/~~~マタネ♥