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妹‥14【連載小説】クライムサスペンス

ハードボイルド クライム • サスペンス


復讐

神崎の電話を使った由美からの通話で、携帯会社へ盗難と告げ、発信地の特定を問い合わせた吉田は、由美の居る場所をある程度突き止めた。

大雑把な発信地のエリアへと向かう吉田。

30分程で、吉田は由美が神崎の電話を使ったエリアに入った。

『この辺りの何処かにいるはずだな…』

吉田は、由美が見つかるとは思っていなかったが、由美が神崎の携帯を使ったエリアを当てもなく車で走り回っていた。

そして吉田は、見覚えのある車を見付けた。

『あれ?このランドクルーザー…。ナンバーも間違いねぇ』

見覚えのあるランドクルーザーで、何となく覚えていたレンタカーナンバー。

『奴等ここにいるのか?』

吉田は遠藤医院の建物を見上げた。

そして少し離れた場所へ車を移動させて携帯を取り出し、自分の部下たちに片っ端から電話をかけた。

繋がったのは10人だけだった。

その10人を、須藤と亮介への報復として、吉田がいる場所へ呼び寄せようとしたが、吉田の話に乗ってきたのは7人だけだった。

たった二人に30人もやられたことで、比較的軽傷の7人は須藤と亮介に対して、復讐への闘志を燃やしながら吉田の居る場所へと向かっていた。

不意

一方遠藤医院では、亮介が少し赤みを取り戻した顔で自分が持っていた神崎のバッグを探していた。

『おっ、少し元気になったのか?』

治療室の隣にある診察室で寝ていた亮介が待合室に入ってきてキョロキョロしているのを見て、待合室にいた兼子が声をかけた。

『はい、少し気分よくなりました』

そう言ってバッグを探し部屋を見回す亮介。

『どうした?何か探してるのか?』

『えぇ、バッグと上着置いてありませんでした?』

『あぁ、亮介の荷物なら由美ちゃんが持っていったぞ』

兼子は、そう言って天井を指差した。

『そうですか。ちょっと2階に行ってきます』

『うん』

兼子に頭を下げて、既に外は暗くなっていて、亮介は2階へ繋がる薄暗い階段の電気を着けて上がっていった。

2階に上がると廊下は明るく、4部屋ある病室の一つに灯りが着いていた。

亮介は灯りの着いた部屋のドアをノックした。

『はい』

由美の声が聞こえた。

『由美、入っていいか?』

『お兄ちゃんか。入っていいよ』

ドアを開けて部屋に入る亮介。

『どうだ?体の具合は』

『うん、少し気分はいいよ。先生のお陰で薬が欲しくなっても我慢できるようになってきた』

『そうか、良かった。もう少しここで頑張っててくれよ』

血色を取り戻してきた亮介の顔は、優しい兄の笑顔になった。

『その血、須藤さんの血なの?』

亮介の服の所々に付いている血を見て由美が言った。

『あぁ、そうだ。でも、須藤さんももう大丈夫だよ。切れたとこ縫ったからな。出血も止まったよ』

『何であんな酷い怪我したの?お兄ちゃんも痣だらけだし…吉田が関係してるんでしょ?』

『まあな…吉田から由美の慰謝料と、鈴の音の修理代をくれるって言うから貰ってきたんだ』

『あのお金がそうなんだ…』

『中見たのか…。そうだ、お前に300万、鈴の音の修理代が500万ある。琴音ママにも500万渡したいからさ…。バッグ何処にある?』

『此処にあるよ』

由美はベッド脇の小さな机の下からバッグを取り出した。

『アタシ、吉田に復讐してやろうと思って吉田に電話したよ。本気で殺してやろうと思った』

何処から持ち出したのか、由美は手術用のメスを亮介に見せた。

『バカなこと考えるな!吉田は今、刑事を撃って逃げてるんだぞ!絶対奴に近付くな!あいつの事は俺と須藤さんに任せとけ。分かったか?』

『須藤さん、あんな怪我してるのに…あっ、それで兼子さんが来てるの?須藤さんの代わりなの?』

『そんなとこだ。須藤さんは自分が動けなくなったから、後の事を兼子さんと俺に任せたんだよ』

『まだ何かやるつもりなの?お兄ちゃんも怪我するかも知れないじゃん!もう辞めて?お金も貰ったんだからもういいじゃん』

『そうもいかないんだ。吉田に撃たれた刑事も金で動く悪党なんだ。
金さえ貰えれば吉田のような奴に平気で拳銃を横流しするような刑事だからな。
今、須藤さんの知り合いの新聞社と協力して、刑事と吉田の繋がりを警察が隠蔽しないように証拠を集めてるんだ。
途中で投げ出すわけにはいかないんだよ』

そう言って亮介はバッグから300万を取り出し、由美に渡した。

『俺が由美を助けた時、神栄商事の奴等ぼこぼこにしたろ?』

『うん』

『あの事件で、俺は指名手配になってるんだ。
そして俺は妹をこんなにした吉田が許せなかった。
須藤さんも神栄商事の連中が鈴の音をメチャクチャにしてママに怪我をさせた事が許せなかった。
吉田を取っ捕まえて、吉田から由美の慰謝料と鈴の音の店の修理代を貰ったんだ。
逃げた吉田を捕まえてその後、俺と須藤さんは警察に出頭するつもりだよ。須藤さんと二人で神栄商事の事件を起こしたんだからな』

『そんなの嫌だよ…アタシのせいでお兄ちゃんが警察行くなんて…嫌だよ…』

『由美のせいなんかじゃない。全て吉田が悪いんだ。俺と須藤さんを怒らせた吉田が全て悪い。奴も一緒に警察に連れていかないと俺も安心して警察に行けないからな』

そこまで言って、亮介は神埼の携帯の電源が入っていることに気がついた。

『あれ?電源が…、あっ、さっき吉田に電話したって言ってたよな?この携帯で電話したのか?』

『う、うん…いけなかった?』

『俺のスマホで電話したのなら問題ないけど、この電話、神栄商事の奴の電話なんだ。
吉田は俺と須藤さんを探しているはずだからな。
神栄商事の携帯だと、ガラケーだから携帯会社に盗難で問い合わせれば、大体の場所が分かっちまうんだ…。不味いな…』

『ごめんね、余計なことしちゃって…』

『仕方ないさ、由美も吉田が憎いんだろ?復讐したかったんだろ?後は俺に任せとけ。もしも警察が来たら金の事は絶対に口にするなよ』

『分かった』

『うん、じゃあ下に行って兼子さんに話してくる』

そう言って、亮介は部屋を出て一階にいる兼子の所へ行った。

警戒

『兼子さん、もしかしたら近くに吉田が居るかも知れないです』

『何でわかるんだ?』

亮介は由美が神栄商事の携帯を使って吉田に電話したこと、それで大体の発信場所が分かってしまうことを兼子に話した。

『なるほど、そんなことが出来るのか。どのみち、奴一人だけだろ?』

『分かりません。俺と須藤さんでぶちのめした神栄商事の奴等とは別に、他にも居ますからね。それに吉田は拳銃を持ってるから油断ならないです』

『そうか…。この病院は警察には知られたくないしな。
さっき若い衆みんな帰しちゃったからな‥。帰したうちの若い奴等呼び戻すよ。
吉田は亮介と兄貴が乗ってきたランドクルーザーのこと知ってるのか?』

『知ってるはずです』

『そうか、うちの若い衆が戻ったらランクル運転させて囮に使おうぜ。
この病院から奴等を遠ざけないとな。
俺も一緒に乗って人気の無い場所に誘い出して吉田の野郎とっちめて連れて来るからさ。
この病院の周りにはうちの若い奴等数人見張りに着けておくから心配するな』

そう言って、兼子は輸血で来ていた3人以外の組員を遠藤医院に10人呼んだ。

新田興業社長の新田竜二も、決して遠藤医院には迷惑をかけないようにと言って、快く了承してくれたのだった。

その頃、吉田の誘いに乗らなかった者も来ることになり、吉田の元へ10人の部下が集まった。

須藤と亮介が乗っていたランドクルーザーを見つけた吉田。

須藤と亮介に神栄商事を潰された報復の為、吉田は部下に片っ端から電話をかけて7人の部下が集まろうとしていた。

そんな吉田の動きを読んだ亮介は、須藤の舎弟である兼子にその事を話すと、兼子は新田興業の組員を遠藤医院に呼び寄せるのだった。


『兼子さん、俺が言ったことは推測でしかないんですけど…もし、吉田が来なかった場合…』

亮介はそこで言葉を濁らせた。

『そんなこと気にするな。
今ここに向かってるうちの連中も須藤の兄貴の為に来るようなもんだからさ。
うちの連中が来たら、俺は二人連れてランクルでその辺で乗り回してるから。
吉田が、もしランクルに食い付いたら大黒か本牧埠頭まで引っ張っていくつもりだ。
この病院でも騒ぎは起こしたくないからな。
ここにはもしもの時の為に残りの組員残しておくから、お前は心配するな』

兼子の言葉に亮介は頭を下げた。


その頃、警察では刑事である黒田の拳銃を奪い黒田を撃った吉田の行方を追っていた。

黒田と吉田の関係は記者の伊丹によって、既に暴かれていた。

黒田は、吉田が銃を持っている可能性もあるので、防弾チョッキを着ていたため、吉田に撃たれたときは気を失っていただけだった。

黒田は吉田を呼び出して、自分との関係の口封じをするために吉田の殺害を企てていたことも黒田は自供した。

新聞記者の伊丹によって暴かれた警察の不祥事は、警察上層部にも隠蔽は出来ないほどに証拠は揃っていた。

集結

一方、警察は黒田の拳銃が奪われ、黒田警部補が撃たれたことで広域に渡る緊急配備がひかれ、吉田の行方を追いつめるべく、所々で検問が行われていた。

吉田が黒田へ発砲後、吉田は黒田が乗っていたセダンを奪って逃走したが、所々にある交通監視カメラでは確認できなかった為、吉田と繋がりのあるギャングのいる東神奈川、東白楽伊勢佐木町を重点警戒エリアとして、大黒ふ頭と本牧埠頭にも検問がひかれた。

そんな中、吉田の部下達は検問を避けながら遠藤医院の近くにいる吉田の元へ集まった。

吉田の部下の中には元ギャングがいて、吉田の手引きで須藤と佐久間亮介を捕らえた者には300万の報酬が貰える、とギャング連中に伝えられた。
その話に報酬目当てで話にノッててきたギャング仲間が加わり、最初の7人を含め13人が吉田の元へ集まった。


『いいか、これから行く遠藤医院という所には須藤という男と佐久間良介という男がいるはずだ。もしかしたら佐久間の妹もここに居ると思う。3人の顔はお前分かるよな?』

吉田はそう言って、伊勢佐木町の事務所で亮介に襲われた部下の一人に顔を向けた。

『えぇ、3人とも顔は覚えてます』

『お前は?』

吉田はもう一人の部下に目を向けた。

『もちろん分かります。今度こそ、あの二人を取っ捕まえて半殺しにしてやりますよ』

二人は須藤と亮介に対して強い恨みを抱いていた。

『じゃあ顔知ってるお前ら二人に、あとから加わった六人で3人と800万を探せ。運転手は車で待機。残りは俺と行動しろ』

吉田は自分の部下達に言ってから、後から加わったギャングの連中を見た。

『他に金目のものがあったら奪っちまえ。
それもお前らの報酬だ』

ギャングの連中はそれぞれ顔を見合わせてニヤリと笑い頷いた。

『よし、じゃあ行くぞ』

それぞれが4台のワゴン車に乗りこんだ。

吉田は黒田の車を棄て、部下のワゴン車に乗り、吉田が乗った車を先頭に遠藤医院へと向かった。

遠藤医院では、兼子が新田興業の組員を待っていた。

兼子は遠藤医院に向かっている組員に電話をかけた。

『おぅ、俺だ。後どれくらいで着く?』

「あちこち検問で車の流れが悪くてあと15分くらいで着けると思います」

『わかった』

兼子は電話を切り亮介に組員が着く時間を伝えた。

『じゃあ良介。そう言うことだから、俺ランクルに乗って俺の舎弟達が来るまで待ってるよ。ランクルの鍵貸してくれ』

『俺、持ってないです』

ポケットに手を入れて探したが亮介は持っていなかった。

『あっ、悪りぃ。俺が持ってた。さっき俺が駐車場に入れたんだった』

そう言って兼子は自分の上着のポケットから、ランドクルーザーの鍵を手に持ち外へ出ていった。

吉田とギャング連中が遠藤医院を襲う直前、院内では、琴音と由美が待合室で話をしていて、亮介は立ち眩みがするので、待合室の長椅子に寝転んでいた。
兼子はランクルに乗りエンジンをかけて暖を取ろうとした、須藤は麻酔から覚めかけているところだった。


続く。。。

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