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妹‥ 6 【連載小説】


延焼

亮介と須藤の二人は、スナック「鈴の音」で暴れた男を車に乗せたまま、町外れの山の中に車で入っていった。

『着きましたよ、須藤さん』

『おっし。奴に吐いてもらうとすっか』

『ですね』

亮介と須藤は、後ろの席にいる神栄商事の男を車から降ろした。

『須藤さん、ちょっと俺に任せてもらえますか?』

『いいぜ、好きなように痛めつけてやれよ』

『はい』

亮介はそう言って車の中にあるハサミを持ち出した。

『おいおい亮介…いきなりハサミ持ち出して何すんだよ。殺すのは早いぞ』

『殺すつもりは無いですよ。コイツらの仲間の神崎って野郎にしたことと同じことするだけです。けっこう効果的ですよ、今の時期は…』

『今の時期?』

『はい』

亮介はそう言ってハサミをチョキチョキ動かしながら地面に転がっている男に近付いていった。

真っ暗な山の中で、車の室内灯とスモールランプの微かな灯りに照らされている男は、両手足を後ろ手に縛られ首と繋がっているため身動きすら出来なかった。

口に靴下を詰められているため、「うー、うーっ」としか言えず目は恐怖に怯えていた。

『さーて、吉田が何処にいるか教えてもらおうか…』

亮介はそう言って男の口に詰められている靴下を引き抜いた。

『テメェら、こんなことしてタダで済むと思うなよ!』

男は精一杯の抵抗を見せた。

『そんなこと言ってられるのも今だけだぜ。あんたの仲間の神崎って野郎もペラペラ喋ってたからな』

『ちきしょう、ほどけ、この紐ほどけよこの野郎!テメェらぶっ殺してやっからな』

『そんな元気出せるかな?』

亮介はハサミで男の服を切り刻み始めた。

あっという間に上半身の服を切り刻み、十二月のクリスマス前の極寒に男はガタガタ震えだした。

『殺せ!殺しやがれ!テメェらなんかに何も話すことなんて無ぇんだからよ!さっさと殺せ!』

『おー、まだ元気だな』

亮介はそう言いながら男のズボンを切り刻み始めた。

下着だけになった男は寒さと恐怖に震え歯をガチガチ鳴らしていた。

『吉田は何処にいる?』

『…』

男は震えているだけで何も言わなかった。

『もう一度聞くけど…吉田は何処にいるんだ?』

『…』

亮介は後ろ手に縛られている男の無防備な腹を一蹴りした。

男は息が出来ないようで、口を大きく開け息を吸い込もうとしているかのようだった。

『吉田は何処にいるんだ?』

『せ、せい…西城ビルだ…そこ…そこにいる…はっ、八階だ』

『西城ビル?東神奈川のか?』

亮介は念のため聞き直した。

『そ、そう…だ…』

『始めっから素直に言ってりゃいいものを…。須藤さん、西城ビルだそうです。俺、西城ビルなら知ってますよ』

『もうすぐ九時か…もう少し待って吉田の寝首欠いてやろうぜ…。ただし…こいつの言ってることが本当なら、だけどな…』

『そうですよね…コイツ嘘言ってるかもしれませんからね。コイツここにこのまま残して見に行ってきましょうか。本当だったらまた迎えに来るってことで。もし嘘だったらこのまま放っておけば凍死で死人に口なしって事でいいですよね?』

亮介は男に聞こえるように須藤を見た。

『構わねぇだろ、こんな雑魚居なくなったって誰も泣きやしねぇよ』

須藤も地面に転がっている男を見ながら吐き捨てるように言った。

『まっ…待って…本当…本当の事だから…う…嘘じゃ…ない…く、車に…乗せて…お、お願いします…』

『亮介、俺はこのままコイツを置き去りにしてもいいんだけどよ…どうする?』

『俺もこんな奴連れていくのめんどくさいですよ…』

『じゃ、置いてくか』

『ま、待って…置い…て…いかないで下さい』

男は泣き出した。

炙り出された事実

『じゃぁよ、もう一つ聞きたいことあるんだけどよ…』

須藤は男の前にしゃがんで男の顔を見た。

『な、な…んです…か』

『吉田って野郎は警察と繋がってねぇか?』

『き、昨日…〇〇警察の…く、黒田って…け、刑事に会って…ました』

須藤と亮介は顔を見合わせた。

『お前も一緒に居たのか?その場所に…』

『い、いま…した…。はな…話しのな、内容はわ、わかりませ…んた、ただ…金をわ、渡してたのは、し、知ってます』

『亮介、ビンゴだ』

『ですね。すぐにでも吉田のとこ行きましょう、須藤さん』

『そうだな。コイツも切羽詰まって嘘は言わねぇだろう。じゃ、行くか、亮介』

『はい』

そう言って二人は車に乗ろうとした時、男が泣き叫びながら車に乗せてくれと須藤と亮介に懇願するのだった。

『ばか野郎、冗談だよ冗談。亮介、コイツ車に乗せてやろうぜ』

『須藤さんも意地悪ですね』

亮介は笑いながら須藤の顔を見た。

『お前だって俺が何にも言わないのに、車に乗ろうとしてたじゃねぇかよ』

須藤の顔にも笑みが溢れた。

男を車に乗せて、須藤と亮介は東城ビルへと向かった。

『しかしお前もえげつないよな。こんな寒い日にハサミで服を切り刻むなんてよ』

『この車の持ち主だった神栄商事の神崎って野郎にも同じことしてやったんです。あいつもペラペラ喋ってくれたから俺も神栄商事を襲って由美を助け出せたんです。コイツらの大量の薬と神崎って男のセットで警察に通報してやりました』

『お前も中々やるなぁ…昔の俺を見てるようだよ…』

『そう言えば、遠藤先生も同じようなこと俺に言ってました。須藤さんと同じことしてるって』

『先生に聞いたのか?俺のこと』

『いえ、教えてくれませんでした』

『この一件が片付いたら教えてやるよ。お前には話してもいいって思ったよ』

『じゃあ、後で聞かせてくださいね』

『おう。…なぁ亮介…腹減らねぇか?俺腹ペコだ。腹が減っては戦もできねぇよ…』

『あっ、パンとおにぎりならありますよ』

『ほんとか?何処にあるんだ?』

『この中に入ってます』

亮介は、運転席と助手席の間にあるボックスの蓋を開けて須藤に見せた。

『ありがてぇ。おにぎり貰うぜ』

『どうぞ遠慮なく。俺はパン食べますから』

『お前はママの店を滅茶苦茶にしやがったからお預けだ』

須藤は後部座席にいる男の目の前でおにぎりを頬張った。

『やっぱり須藤さん、意地悪ですね』

亮介は片手でパンをかじりながらチラッと須藤を見た。

『うるせぇ!』

声に迫力があったが須藤の目は笑っていた。

そして車は西城ビルのある町に入っていった。

裕子

佐久間亮介と須藤は神栄商事の男から吉田の居場所を聞き出し、吉田が居るであろう西城ビルがある東神奈川へ入った。

須藤は腕時計に目をやった。

午後10時を回っていた。

少し考えて携帯を取り出した須藤。

何度も消そうとして未だに消せない電話番号を呼び出してディスプレイに表示させた。

15年前に須藤と同棲していた女、加藤裕子の兄の電話番号だった。

裕子が須藤と交際を始めてからというもの、裕子の兄である真二は、当時竜神会にいた須藤との交際を良く思っていなかった。

時には裕子を強引に連れ帰ったり、須藤に食って掛かることも数回あった。

それでも裕子は須藤に会いに行った。

そんな妹の気持ちを汲んだ真二は、須藤に対して『必ず幸せにしろ。少しでも妹を泣かせるようなことをしたら俺は絶対にお前を妹に近付けさせない』と須藤に約束をさせた。

須藤も裕子とは離れたくなかった事もあり、真二との約束に誓いを立てた。

暫くは幸せな生活が続いたが、別の大きな暴力団組織が竜神会の縄張りの一部を欲しがり竜神会を暴力団組織の傘下に入れようとした。

しかし、竜神会はそれを拒否した。

それから暴力団組織と竜神会による小さないざこざが始まった。

その小さないざこざが次第にエスカレートして、双方に怪我人が出るにまでになっていった。

弱小ヤクザの竜神会に舐められて堪るか、と言わんばかりに大きな暴力団組織は大挙して竜神会の事務所を襲ったが、少数の竜神会に返り討ちにされた。

それに腹を立てた暴力団組織幹部は、当時の竜神会若頭の須藤の恋人である加藤裕子を拉致監禁した。

当時、加藤裕子は失踪とされていたが、須藤は暴力団組織の仕業と思っていた。

組同士の抗争で警察の監視もキツく、思うように動けない須藤は行き場の無い怒りでイラついていた。

警察も加藤裕子の失踪には、暴力団が関係していると睨んで暴力団本家と関係各所を調べたが、暴力団は知らぬ存ぜぬを通して結局加藤裕子は見つからなかった。

そして、組同士の抗争も一時的に収まり数日経ったある日の夜、郊外を半裸状態でふらふら歩いていた裕子が警察によって保護された事が、裕子の兄真二に警察から連絡が入った。

加藤真二

裕子は酷い怪我と覚醒剤による幻覚症状のため警察病院へと運ばれた。

加藤祐子が竜神会若頭、須藤の交際相手であることを知っていた警察は、須藤の逆上と報復を警戒して、須藤への連絡はしなかった。

そして三日後の夜中…裕子は病院のトイレで手首を切り自ら命を絶った。

看護士に発見されたときには、裕子は既に息絶えていた。

警察は、裕子から証言を取れないまま犯人を追い詰める事が難しくなってしまった。

妹の変わり果てた姿を見て、真二は須藤を呼び出した。

そして、裕子を幸せにすると約束を守れなかった須藤を何度も殴った。

須藤は裕子の兄、加藤真二に殴られるまま、一切抵抗も反撃もせず、裕子の兄である加藤真二に謝ることしかできなかった。

それから数日後、須藤は暴力団の組員を捕まえ裕子の件を問い詰めたところ、裕子を拉致監禁したことを白状した。

須藤は舎弟四人を連れて、その組の分家である事務所に殴り込みをかけて事務所を一つ潰した。

暴力団も警察には入られたくなかったことで、須藤の殴り込みに警察は介入しなかった。

須藤は翌年から現在に至るまで、裕子の命日と盆には裕子の墓を訪れて花を手向けていた。

真二は、命日と盆には花と線香が手向けてある事に気付いて、真二に家族は居ないので須藤だと察した。

真二は須藤に電話をかけ、二度と妹の墓参りはするなと須藤に告げた。

しかし翌年もその次の年も、現在に至るまで須藤は一度も欠かさず裕子の墓参りをしていた。

そして七年が経った裕子の命日の日、真二は早めに裕子が眠る寺へ行き、須藤を待っていた。

須藤が現れ真二は須藤の前に出た。

須藤は気まずそうに真二に頭を下げた。

そして、真二も須藤に頭を下げたのだった。

この日、須藤は裕子の兄真二の許しを貰える事となった。

裕子への須藤の誠実な気持ちが真二の気持ちを動かしたのだった。

そして須藤が組を辞めていたこと、建築作業員として働いていることを知った真二。

真二は自分の名刺を須藤に渡して、新聞記事になるようなスクープがあったら電話して、と冗談半分で須藤に言って別れたのだった。

名刺には大手新聞社の社名が書いてあり、加藤真二という名前の横には管理職の肩書きが記してあった。

しかし、それっきりお互いが電話をすることもなく、裕子の命日で一年に一回会うだけだった。

裕子の兄ということで、須藤はとりあえず携帯の電話帳に真二の携帯番号を入れておいた。

そしてこの日、初めて須藤から真二へ連絡が入ったのである。


続く。。。

女性に人気なハードボイルドアニメ、バナナフィッシュ。
BLではないですが男が男に寄せる気持ちの描写に引き込まれます(*^^*)


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